黒川邸と十五人の怪しい住人達

時雨白黒

序章 全ての始まり(前編)

 「はあはあはあ...早く逃げないと!あいつらが来る」


 白銀の少年は長い長い廊下を走っていた。古びだ廊下は軋みギシギシと音が響いてくる。少年は走りながら振り向くと”それ”はゆっくりと少年に近づいてきた。


 「もうそこまで来てる!逃げないと!」


少年は前を向き走り続けた。廊下に立てられた蝋燭は消えて月の光が不気味に廊下を照らしている。窓から見える景色は霧がかりよく見えずただならぬ雰囲気を醸し出していた。次第に雨が降り出し雷がなり始めた。まるで何かが起ころうとしているかのように...少年は走り階段を下り玄関に着いた。


 「よし、やっと出口に着いた。これで...助か...え?」


と少年が取っ手を掴んで言いかけた時にブスっと何かが刺さる音がした。音がしたと同時に背中に激しい痛みが襲う。恐る恐る手で触ると背中にナイフが刺さっていた。


 「くそ...毒か...」


少年は痛みで立てなくなりその場に倒れた。激しい痛みと毒で体が動かせなくなってしまう。そんな少年をあざ笑うかのように”それら”はやってきた。


 「残念だったねーもう少しで逃げられたのに」

 「惜しいですな」

 「滑稽ですね!」

 「ねえ?こいつどうする?」

 「血が見たい...血が...」

 「切り裂こうぜ?」

 「それではつまらないですよ。私が遊んで差し上げます」

 「「ねえねえー縫うのはどう?」」

 「目をくり抜くのに一票」

 「めんどくさ...早く終わらせよう」

 「だったら私が着飾ってあげる!」

 「ここは焼き殺そうよー」

 「いいえ、神に捧げます」

 「だったら狩りとるか?」

 「どうせなら最高なショーにしてよね?」


と”それら”口々に言う。口を開けば殺す事しか口にしない。少年は意識を保ちながら”それら”を睨みつけた。


 「お前...ら...し...」

 「「なんかー言ってるよ?」」

 「めんどくせーな」


”それ”は少年の髪を掴み上げ少年の首を絞めた。


 「うるせえよ。めんどくせーし、手間かけさせんな」

 「うぐ...」


少年が抵抗しようとした時に後ろから声がし手を離した。


 「やめてください。主様のご到着です」

 「ちっ!」


少年は投げ出され痛みに耐えていると”それら”の主が姿を見せた。


 「遅くなったね子供たち。いろいろ言いたいことはあるがとりあえず置いておくとしよう。さて...本題に移ろうか」


と主は言うと少年しゃがみこみ少年の顔を覗いた。少年は毒が回り今にも死にそうになっていた。


 「そうかい。追いかけっこはもう終わりかい。楽しかったんだけどなあ。君とのゲームは...終わってしまったのなら仕方がない。君には死んでもらおうか?振り出しに戻ろうか。今回はNERU《ネル》殺っていいいよ」


と主が言うとNERUは嬉しそうに少年に近づいた。


 「ふふふ...やっと私の番だ。ちょうど実験に必要な胴体が欲しかったんだ。あなたのその体...私にちょうだい」

 「まっ待ってく...」


少年の体にナイフを突き立てて片腕を切り落した。痛みに少年に構わず斬り付ける。NERUが少年に斬り付けたことで”それら”は興味を無くしただ眺めている。


 「動かないでよ...じゃないとあなたの首を切り落せないでしょ?安心してよ...ちゃんとあの子も...Sullivan《サリバン》も殺してあげるから」

 「お前...サリーに手を出したら殺...」

 「うるさい...」

 「サリー...」


NERUは少年の頭を一突きすると少年は力尽きた。


 「あっ...死んだ...つまらない。もっと声を聴きたかったのに...まあいいか」


NERUはそう言いながら少年の遺体を解体した。床には少年の血があふれ出し、切り取られた少年の顔は涙を流していた。


 「終わった...」

 「でしたら執事たちに掃除させましょう」

 「私たちメイドも手伝いましょう」

 「よろしいですか主様」

 「よろしく頼むよ」


主は窓の外から見える不気味で美しい月を見て不敵に笑った。


 「そう言えば今日の月は綺麗だね。こういう日は血に限るよ。もう少しで”あのげーむ”が出来るのが楽しみだよ。今回は誰が生き残るのかな」


と主は言った。すると強い風が引き窓が開いた。風が止むとその場には誰のおらず少年の血痕だけが残った。


 数百年前...とある事件が世間を注目させた『黒川邸失踪事件』。この事件は屋敷に住む住人十五人と使用人が全員行方不明、屋敷の『黒川邸』が全焼した事件だ。事件が起きたのは****県の****市の****にある黒川邸だ。この屋敷は山奥にあり古い屋敷であるため幽霊屋敷だと、人を殺す屋敷だと悪い噂が立たない。このうわさがたったのはこの屋敷に観光客が興味本位で訪れた際に帰ってこなかったため、神隠しや幽霊に連れていかれたのだと誰かが話したことが噂になり広まったそうだ。後日観光客は無残な姿で発見された。両目がくり抜かれ青白い顔をしていた。この観光客の身に一体何が起きたのかは定かではない。そしてなにより恐れられたのがその屋敷に住む住人たちだ。住人たちは不気味で奇妙さが漂い、地域に住む人は怯えていたそうだ。そんな屋敷が全焼し住人達が全員姿を消した。その後生存者がいないか調査したものの何も発見することが出来なかった。集団自殺か失踪事件かと騒がれたが事件はお蔵入りとなった。その地域に住む人は住人たちは呪われた。屋敷の呪いだと口々に言った。

 そして、百年たった現在の2***年に十五体以上の白骨遺体が見つかったことで事件は急展開を迎えることとなった。


 「いいみんな、私達ミステリーサークルで事件を解決するぞ!」


と元気よく声を上げたのは部長の・川上志保だった。川上に賛同するように副部長の海藤信ものる。


 「部長の言う通りだ。俺たちで見つけるぞ!」

 「「おおおお!!」」


と二人だけで盛り上がっている。そのやり取りを見た狂見はため息をついた。


 「あほくさ...なんでせっかくの休日なのにこんなことしなくちゃいけないんだよ」


と狂見は愚痴をこぼした。狂見奏くるみかえでは川上・海藤と同じ大学三年生。本当はこんなことをしている暇はなく、就活に追われていた。まだいまいちなりたい会社も見つからず内心焦っていた。川上と海藤はもう進路は決めているらしく余裕そうに見える。


 「まったくなんでこんなことになったんだよ」


とぼんやり周囲の景色を見た。きっかけはミステリ好きの後輩・佐久間淳と浅墓美桜が部室にやってきたことだ。ふたりは嬉しそうに印刷した紙を持ってきた。初めは興味がなかった川上と海藤ものり、乗り気じゃなかった狂見を連れてやってきた。今狂見たちは専用のフェリーに乗っている。カモメたちが鳴いて飛んでいる。飛んでいる方向が狂見たちが来た方角で羨ましかった。


 「はあ...俺も連れてってくれ…」

 「「そんな暗い顔しないの〜狂見くん。俺たちと一緒に謎を解明しようよ〜」」

  「分かった分かった!引っ付くなよ、暑いだろ」

  「ごめんごめん!」

  「もう〜そんなに怒ってたらダメだぞ〜」

  「おい!つっつくなよ」


川上が狂見の顔をつっついた。狂見はイラつき辞めさせようとした時に本を読んでいた四年の先輩本庄が狂見達に言った。


  「君たち少し静かに…狂見くんは嫌がっているんだから無理にしないの」

  「は、はい。すみません」

  「ピクニックに来たんじゃないんだからね」

  「「すみません…」」


本庄にそう言われた川上と海藤は小さくなり返事をした。本庄は頷くと指を指し、狂見達に言う。


 「分かればいいんだ。ねえみんな、見てあれ」

 「なんですか本庄先輩?」

 「ついに見えたよ」

 「どれどれ!」

 「どこどこ?」


本庄に言われた狂見たちは本庄が指した方角へ目を向けた。すると不気味に霧ががかった島が見えた。今は更地だがその奥には噂となった屋敷があった場所が遠くからでも見える。


  「あそこか」

  「なんか不気味だな…」

  「ねえ、本当にあそこに行くの?」


怖気づいたのか浅墓が控え目に言うと佐久間が茶化す。


  「何?怖いの〜」

  「な!別にそんなんじゃないわよ!」

  「みんな!そろそろ着くから準備して」

 「「「「はい」」」」


狂見は本庄に指示されたように荷物をまとめて降りられるように準備していた。


  「さて、もうそろそろか…うん?あれ…なんだ?」


狂見はふと屋敷のあったとされる場所を見た時一瞬だがあるはずのない屋敷が建っているように見えた。そんなはずは無いと思いもう一度見るとそこには何も無い。


 「俺の見間違いか?そうだよな。焼けた何百年前の屋敷があるわけないよな」


あれは見間違いに違いない。狂見はそう思うとことにした。慣れてない遠出の船旅のせいで疲れが出ているのだろう。一度宿について落ち着きたい。調査は明日にする予定のため狂見は一息着いた。


  数分後、フェリーはその島に着いた。客は狂見達しかおらず客がいないフェリーは殺風景だ。ここまで操縦した親方は狂見たちが降りるとフェリーの向きを変えた。


  「ここまで乗せていただきありがとうございました」

  「いいや…気にすんな」

  「でもいいんですか?タダで乗せて頂いて」

  「いや…いい」

  「本当にありがとうございました」

  「じゃあお前さんたち気をつけろよ」

  「はい」


と礼を言うと親方は無愛想にお辞儀をした。狂見も何か言おうとした時に親方は狂見をじーと見つめた。


  「あ、あの…送ってくれてありがとうございました…ええと…俺の顔になにか着いてます?」

  「あんちゃん、名前は?」

 「え、名前?狂見です」

  「…狂見なんて言うの?」

  「奏です。狂見奏…それが何か?」

  「いや…いいんだ。あんちゃん、これ持ってきな」


と言うと親方は狂見に少し傷ついている汚れたお守りを渡した。


  「これは?」

  「この島に伝わる加護のお守りだ。あんちゃんに渡しておく。お守りのことは誰にも言わず他の人には渡すな。決して肩身離さず持っておけ。この守りはあんちゃんが無事にこの島から出られるまで決して手放すなよ。じゃなあ」

  「えっ…あ、あの…」


混乱する狂見を置いて親方はフェリーに乗り行ってしまい、狂見は聞こえるように叫んで礼を言うと遠くで親方が片手を上げたように見えた。


  「一体…なんだったんだ?」


と呟いた狂見はもらったお守りをまじまじ見ると少し汚れて汚らしい。しかし、何故か捨ててはいけない。手元になくてはならないと感じた。呆然と固まる狂見に遠くから川上たちが呼ぶ声が聞こえた。


  「おーい?何やってんだよ狂見〜」

  「早く宿泊まりに行くよ」

  「悪い!今行く!」


狂見は荷物を持ち走って川上たちの所に合流した。


  「悪い悪い!」

  「別にいいよ。フェリーで酔ったか?」

  「そんなんじゃねえ」

  「ならいいけど。さっきみんなに説明したことを説明するな」


と言うと海藤は地図を取りだした。


  「今自分たちがいるのは港でそこから少し坂を登った所に宿があるから。今夜はそこで泊まって明日は一日調査して次の日帰ると」

  「なるほどな。それにしても坂登るのはきついな」

  「文句言うなよ狂見〜」

  「つっつくな!」


川上と狂見が言い合っている中本庄は屋敷のある更地を見上げていた。


  「みんな、静かにして…これから坂を登るんだから」

  「はい」

  「それにしても…不気味だわ。今日は調査を忘れて休みましょう」

  「そうですね。本庄先輩」


狂見達は本庄を先頭に坂を登り宿へ向かった。宿はボロく壊れかけて床がギシギシなっていた。


  「大丈夫かな?ここ」

  「おい、川上…失礼だぞ」

  「悪い…でもなんか宿っていうよりお化け屋敷って感じがする」


周囲を見回すと川上の言うことも分からなくもない。あちらこちらで穴が空いており、誰の視線を感じる。誰かに見られて監視されているようで落ち着かない。


 「そんなことよりー早く風呂に入りましょう。歩いて疲れました」


と浅墓が言った。本庄も賛同し、順番に風呂に入った。狂見の番になり風呂場へ向かった。


 質素で雰囲気がある風呂場で川上の言うように出そうな風呂場だった。狂見は頭や体を洗い湯船に浸かった時、誰かの視線を再び感じた。


 「まただ。何なんだこの宿は...視線を感じるしまさか本当に出るのか?」


と言いながら風呂場を見ると入り口のドアに人影が立っており狂見は驚いて叫んだ。


 「うわああああ!」


と叫ぶとドアをノックされた。


 「すみません。驚かせてしまいまして...お食事の用意が出来ました。お風呂が終わりましたらお客様の分をお持ちいたします」


立っていた人影はこの宿の女将だった。女将はゆっくりと話し出した。


 「あ、ありがとうございます」

 「いえ、では...」


狂見が礼を言うと女将はどこかへ行ってしまった。狂見は一度息を整えた。


 「びっくりした...本当に見ちゃったのかと思った...」


と言いながら天井を見上げた。サークルで失踪事件を調べるせいか、この島のただならぬ雰囲気のせいかそう言うことに敏感になっているだけなのかもしれない。深く考えてもだめだと思った狂見は風呂場を出ることにした。


 「そろそろ...出よう」


狂見は風呂場から出て自分たちの部屋に向かった。部屋を開けると川上たちが先に料理をおいしそうに食べていた。


 「ああ、狂見ー!先食べてるぞ」

 「先輩、お先です!」

 「お先なー」

 「これ美味いです」


と川上・海藤・佐久間・浅墓は狂見に言った。それを見た狂見は思わず呟いた。


 「お前ら...普通待つだろ...」


と狂見が呆れていると本庄が狂見の肩に手を置いて言う。


 「ごめんね狂見君。私が先に食べていいよっていたんだ」

 「そうなんですか?本庄先輩が言うならそうなんでしょうね」


と川上たちを見る。川上たちは誤魔化すように目を反らすと小さな声で狂見に言った。


 「せ、先輩は待っててくれたんだから...先輩に礼を言えよ」


と言われ先輩の方を改めてみると確かに先輩の料理は手を付けておらず狂見を待ててくれたのだろう。料理も冷め切っている。


 「すみません先輩。待ってもらっちゃって」

 「いいの。私が待ちたかっただけだから」

 「すみません」


と狂見が本庄に謝ると川上たちを見た。


 「先輩が待ってるんだからお前らも待てよな?」

 「「「「はい...」」」」


と川上たちが言った時に襖が開いて女将が狂見の料理を持ってきた。


 「お客様のお料理をお持ちしました」

 「ありがとうございます」

 「いえいえ...では...お料理は食べ終わりましたら廊下に置いてくださいませ。それでは失礼いたします」


と言うと女将はお辞儀をして襖をしめた。


 「それじゃあ狂見君。食べようか?」

 「そうですね、本庄先輩」


狂見は本庄と隣に座ると自分の料理と本庄の料理を交換した。


 「狂見くん、私の料理は冷えてるから食べない方が」

 「先輩は待っててくれたんですから、温かい方を食べてください」

 「...ありがとう、狂見くん」


と言うと二人は手を合わせて”いただきます”と言う。狂見たちが料理を食べている時、川上たちはのんきに雑談していた。楽しそう雰囲気で失踪事件を調べに来たようには思えなかった。狂見は料理を食べ終えると一息ついた。


 「食べた...冷めていたせいか御飯がべちゃべちゃで魚もあまりおいしくなかったな...」

 「そう言わないの。宿に泊めてもらえて料理まで出してくれるなんて中々ないよ。感謝しないと」

 「...そうですね。当たり前じゃないですもんね。調子乗ってました。すみません」

 「それが分かるならいいよ。そろそろ寝る準備をしようか?明日も早いし」

 「そうですね。あいつらに声を掛けておきます」


と狂見は言うと川上たちに声を掛けた。寝る準備をして布団を敷き始めた。


 「これで...よし!それじゃあー寝るぞ!」

 「川上、うるさい。時間帯を考えろ」

 「ごめん、狂見」


と謝る川上に狂見たちは笑った。本庄は時間を見ると時刻は零時を指していた。


 「みんな、もう遅いから寝ようか」

 「「「「「はい」」」」」


本庄の一声で狂見たちは頷いて布団に横になった。狂見も初めは眠れなかったが次第にウトウトし始めて気づけば寝てしまった。


 時刻は深夜二時。狂見はトイレに行きたくなり目が覚めた。


 「まだ二時か...早くトイレをすまして寝よう」


狂見は部屋を出ると廊下に出て厠でことを済ました。


 「厠が一階って遠いな...えっとどこから来たんだっけ?」


と言いながら暗い廊下を歩いた。すると厨房の明かりがついており中を覗くと女将が何かをぶつぶつ言いながら何かを切っていた。その切る音が鈍く不気味だった。女将は狂見に気づいていないようで”何か”を切り続けている。狂見は何も言わずその場から立ち去り階段を上り部屋に戻った。狂見が階段を上った時、女将は廊下に顔を出した。その顔には何かの返り血がついており不気味だった。女将は廊下を見回した後、ゆっくりと厨房に戻っていた。


 翌日、目が覚めると女将は宿におらず厨房にはメモ書きが残っていた。達筆な字で”お暇を取らせていただきます”と書かれていた。


 「お暇を取らせていただきますってどういうことですか?」

 「多分、辞めるってことじゃないかな?」

 「でも、なんで急に?」

 「分からない。でも、女将さんが俺らに朝食を用意してくれたみたいだ」

 「それを食べようぜ?」

 「...海藤の言う通りだ。とりあえず食べよう」


何故女将が急に姿を消したのか、何があったのか疑問が残るままだ。皆、何も言わずに朝食を食べた。食べた茶碗を洗っている時に狂見はふと考えた。


 (この宿は不思議なことが多すぎる。もしかしたら...女将は最初から居なかった...なんてそんなわけないよな。俺たちは昨日女将と会って...料理を食べて...うん?そう言えば昨日...女将は此処で何かを切っていたような...)


狂見は茶碗を洗い終えて厨房内を見回した。女将は何かを切っていたが料理は米と具がない味噌汁だけだった。


(何を切っていたのだろう?それとも俺が見ていたのは夢だったのか?)


狂見は調べてみたが包丁が見当たらず何の変哲もなかった。


 「俺の...気のせい?俺の見たのは夢だったのか?」


と考えていた時に本庄たちが厨房にやってきた。


 「準備終わったよ、狂見君」

 「それじゃ、いこうぜー狂見」

 「ああ、行こう!」


狂見はそう言うと海藤が持っていた自分の荷物を受け取る。本庄と川上が部屋の確認をすると言い宿の中を見て回った。


 「さて、二人が確認している間に佐久間と浅墓と合流するか。二人はどこだろう?」


狂見は古びて使われていない地図が壁に貼り付けられていたのでそれを見る。一階は厨房、玄関、風呂場と厠。二階は寝床があるようだ。


 「なるほどな。なら、玄関・風呂場と厠を見て見るか」


狂見は玄関や風呂場と厠に向かったが二人の姿はなく、二階へ向かった。二階は寝床しかないので二階に行くと二人の話声が聞こえた。二人は二階にいるのだろう。狂見が襖を開けようとした時、奇妙な会話が聞こえた。


 「ねえ、ほんとうにあれでよかったの?」

 「仕方ないだろ?ああ、するしかないんだから」

 「でもさ...わかりゃしないよ」

 「川上先輩や海藤先輩ならともかく...狂見先輩と本庄先輩はどうするの?」


(俺と本庄先輩に気づかれたらまずいことってなんだ?二人は何を隠しているんだろう)


と疑問に思った時に海藤が一階から俺の名前を呼んだ。俺は我に返り寝床から離れた所で返事をした。


 「海藤、俺はここだぞ」


と狂見は二階の二人にも聞こえる声で言った。二人は会話を辞めて襖越しから狂見と海藤の会話に耳を澄ませたようだ。狂見も話声が聞こえなくなったことに気づき知らないふりをする。何も知らない海藤が声つられて狂見のところに来た。


 「よう狂見。川上と本庄先輩から確認終わったみたいだから皆を呼んできてって言われたから来たぞ」


 「そうか、俺も今二階に行って二人を呼びに行こうとしたんだ。二人で呼びに行くか」

 「おう、行こうぜ!」


と狂見が言うと海藤はガッツポーズをしてそう言った。狂見は海藤と共に二階へ向かった。狂見は少し躊躇ったが海藤は襖を開けた。


 「おーい、二人ともそろそろ行くぞ?」


と海藤が言うと二人は遠慮気味に答えると荷物を持って一階へ降りて行った。


 「なんだ?あの二人、テンション低いな。もっと上げ上げでいこうぜ」

 「お前は元気だな...」

 「まあ、それが俺のとりえだからなー」


と自慢そうに言う。海藤は川上と本庄に連絡をしている時に狂見は部屋を確認した。あの二人の会話がどうしても気になっていた狂見は海藤に気づかれないように調べると、佐久間と浅墓の畳に薄っすらとしみがついていた。


 (これはシミ?というより...血だ)


唯のシミではなく血なのかもしれないと思うと狂見はゾッと鳥肌が立った。


 (もしかして、二人は俺たちが知らない所で何をしたんだ。分からない...)


いくら考えてもその答えは出なかった。冷汗が出始めた頃に海藤は連絡を終えた。


 「よーし、二人に連絡したし行こうぜ!」

 「そ、そうだな。行こう」


海藤と共に玄関に向かうと皆が揃っていた。


 「さあ、全員揃ったからいこうぜ!」


と川上が言うと宿を後にした。


 「屋敷があった場所に向かう前に礼の白骨遺体があった場所に向かうぞ。これ、渡しておくな」


 と海藤に渡されたのはこの島の地図だった。


 「迷子になった時はこの地図を使えよ。あと、携帯電話は今は使えるけど森に入ったら使えないから注意してくれ。各自単独行動をしないように」

 「そうだな、地図ありがとう。今は宿から少し歩いたところか」


狂見が地図を見ながら言う。森の中心部に例の白骨遺体が発見された場所がある。まずはそこに向かって調査をした後、屋敷の跡地に向かう。狂見は歩きながら皆を見た。佐久間と浅墓の二人は地図を見ている。川上と海藤は二人でたのしそうに雑談し、本庄は地図を形にただ歩いていた。森の入る際、川上の一言で皆息を飲んだ。


 「よし、入るぞ」


意を決して森に足を踏み入れた。それが良くなかった。俺はこの森に足を踏み入れたことを本当に後悔することするとは知らずに...


 それから****時間後...


 「はあはあ...はあ...はあ...逃げないと!来る...あいつが俺を殺しに来る!」


何かに逃げるため狂見は廊下を走り続けた。狂見が走る廊下は蝋燭の炎が揺れ薄暗い。月が登り窓から不気味に廊下に光が差した。逃げた先は行き止まりで近くの逃げ道を探す狂見に姿が見えない何者かが近づいてくる。


 「く、来るな!来るな!」


狂見はそう叫び、何者かは不気味に笑うと鈍器を振り上げた。


 「来る...うがっ...ああああああああああああああああああ」


斬り付けられた狂見の体からは大量の血が飛び散り、痛みに耐えられなず狂見は叫ぶ。それをあざ笑うように喉を潰し何度も斬り付けた。狂見は動けなくなり目から涙が溢れた。溢れる血を見た狂見は意識が遠くなっていく感覚に襲われた。


 (どうして...どうして...こんなことに...誰か...助け...死にたくない...死にたくな...)


 「し...た...な...」


狂見はつぶれた喉で何かを言おうとしたが頭を割られてしまい、死んでしまった。狂見を殺したそいつは口元が笑うと死んだ狂見の首を切り落し掴み上げた。


 「また、失敗しちゃったね...やり直しだよ。お兄さん」


と言うと狂見の首を投げ捨てた。すると月は雲に隠れ、蝋燭の炎は消えた。


 「月が隠れた...これでまた始まる。このゲームが!また遊ぼうねーお兄さん」


と言うと返り血に触れて舌なめずりをしてその場を後にした。捨てられた狂見の首からは大量の血と目から涙がこぼれた。


なぜこうなってしまったのかは****時間前に遡る。

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