第33話 『 1日目の終了とド変態 』


「ぜぇぜぇ」

「はい。ということで今日の入団テストは終了。合格者は一人だけみたいね~」

「いやぁ。すいませんね皆さん。結局、僕が全部倒しちゃって」


 その場に倒れるならず者たちを見下ろしながら、アノンはへらへらと挑発するような笑みを浮かべる。


 頭の沸点が低い彼らならばすぐに噛みつく態度だが、今は陽論困憊で返す気力もないらしい。


「はぁ。これだけ高レベルが揃っていながら情けない」

「ふ、ふざけんじゃねえ。これでも善戦した方だろうが」

「でも、貴方たちの誰一人もモンスターを倒せてないでしょ」

「そのガキがいなかったら、余裕で倒せてたわ」

「僕がいなかったら間違いなく全滅してた人たちが面白いこと言いますね」

「黙れチート野郎が」


 吐き捨てるように罵倒したガエンに、アノンは「負け惜しみですね」と澄ました顔で返す。


「さてと、テストは明日もあるから、全員今日はゆっくり休むように」

「まだあんのかよこれ」

「この場の全員が合格するか、モンスターが全滅するまで続けるつもりだわ」


 最悪だ、と死に掛けの声があちらこちらから聞こえる。


「あと何体だよ」

「うーん。あと50体くらい?」

「ふざけんなっ。あんな化け物をあと50体も倒せってのかよ!」

「一人一体倒すこと。それが入隊条件だったはずよ」

「……死ねクソ騎士」

「あ傷ついちゃったー。今暴言吐いた奴らは二匹にしようかなー」


 わざとらしく言えば、ならず者たちは一斉に黙り込む。

 よろしい、と満足げに頷いたシエスタは、手を叩くと、


「はい。そういう訳で本日のテストは以上。さっきも言った通り、明日も続くのでしっかりと体は休めるように」


 シエスタの言葉にならず者たちからの返答はない。


 疲れ切っているよりかはせめて無視することで騎士への憂さ晴らしをしているつもりなのだろうが、生憎とシエスタには全く効いていないように見える。


 兎にも角にも、アノンも今日はこれで帰れる訳だ。


「それじゃあ、弟くんも帰ろうか」


 はい。と頷こうとした瞬間。ガエンらが「ちょっと待てよ」とアノンの足を止めた。


「……何ですか?」

「何ですか、じゃねえよ。なんでお前はさらりと帰ろうとしてたんだ」


 睨めば、ガエンも睨み返してくる。


「この中の全員合格するまで、この檻から出られないルールだろ」


 ガエンの言葉に、ならず者全員が頷く。


 お前も戻ってこい、そう言いたげな視線を一斉に向けられると、アノンの代わりにシエスタが言った。


「あ、言い忘れてたけど、この子は特別……というかお家に帰さないと私がこの子の保護者に殺されるの。なので、この子はここでは寝泊りしませーん!」

「なんだそれ! 依怙贔屓だ!」

「ええい! うるさいうるさーい! この子をここで寝泊りなんかさせたら私の首が飛ぶの! 冗談抜きに!」

「流石の姉さんでも友達の首は跳ねないと思いますけど……」


 と言えば、シエスタは全力で首を横に振った。


「それは絶対ない。今日、私、弟くんが庇ってくれなかったらリアンに二回は首飛ばされてるから」

「あはは。それはただの演技だと思いますが」

「ならカンザシを呼び出す必要なくない?」

「…………」


 シエスタの指摘に、アノンは何も言い返せず視線を逸らす。


 素手で大抵の相手は制圧できる姉が愛剣であるカンザシを握るということは、余程の事態か戦闘に陥った時だけ。端的に言ってしまえばリアンがカンザシを呼び出す時は本気ということで、それならばたしかに姉は本日一度カンザシを呼び出している。シエスタの胸倉を掴んだ時に。


「で、でも姉さんは普段は凄く優しいんですよ!」

「フォローし始めたら終わりだよ弟くん」


 シエスタに遠い目を向けられ、アノンは姉の優しさが伝わらないことに頭を抱える。

 そんなことをしていると、


「アノンーっ! 早くこんな血生臭い連中とはさよならしてお家に帰りましょ!」

「うわっぷ。姉さん」


 姉が唐突に抱き着いてきた。


「姉さん。僕、今日たくさん動いたから。僕汗くさいよ?」

「全然気にしないわ。いえ。それどころか最高よ。汗くさいアノン。……すぅはぁ。はぁぁぁ。たまらなくいいわ。興奮する!」


 荒い息を繰り返しながら匂いを嗅いでくる姉に困惑していれば、そんな姉にシエスタが手刀を入れた。


「おいそこのド変態。全員引いちゃってるから」

「ド変態じゃないわ。好きな人の匂いを嗅いで興奮しない人なんていないでしょ。常識よ」

「常識な訳あるかっ。というかまた嗅ぐなっ⁉」

「それは無理な話ね。久しぶりのアノンの匂い。それも濃い匂い。ぐへへっ。たまらん⁉」


 無理やりアノンから引き剥がそうとするも、シエスタが引っ張る以上にアノンに掴むリアン。


 引っ張られて尚匂いを嗅ぎ続ける姉の執念にアノンは苦笑し、それを見ていたならず者たちは唖然とし、こんな変態な姉の友人は、


「はぁ。ホント、弟くんさえ関わらなければ立派な時期王女なんだけどなぁ」


 と呆れるようにため息を落とすのだった。

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最強姉弟 ~Lv0の弟とLv100の姉は世界を救う~ 結乃拓也/ゆのや @yunotakuya

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