p.24 白くてふくふくした生き物の可愛さったらありません(2022/12/20)
「お届けものでーす!」
「でーす!」
光沢のあるオーガンジーのような薄い靄がかかる早朝、魔女は元気のよい舌っ足らずな声に目を覚ました。
当然、家はその声の持ち主たちが木々の向こうから駆け寄ってきていることに気づいていたが、近頃なにかと忙しくしている魔女の睡眠時間が少しでも長くなるようにと、知らせないでいたのだ。
結果、魔女は寝間着の上にそこら辺に置きっぱなしにしていた服やらストールやらをあれこれと羽織り、バタバタと玄関の扉を開けることとなった。
「まあ……!」
そうして扉の向こうに並んでいたのは、雪煙熊や風花栗鼠、霜柱の妖精など、この森に住む魔女の冬のご近所さんだ。みんなまだ子供で、ふくふくとした白い毛並みが可愛らしい。
そんな彼らが思い思いの方法で運んできたのは、冬の食材。
雪の降り始めた頃に魔女が仕掛けた罠にかかっていた獣や、妖精だけが収穫できる木の実などが並んでいるのを見て、魔女は口もとを綻ばせる。
「こんなにたくさん、持ってきてくれたのですね」
「ちゅーもんのとーり!」
「とーり!」
「サインをください!」
「サインはここだよ!」
魔女がふるりと指を動かすと、雪煙熊の広げた紙の、銀風雀がくちばしで示した場所に、こっくりとした葡萄酒色の印章が浮かび上がる。銀色に煌めく魔法の名残は雪を散らしたようで、白い生き物たちはきゃあっと声をはしゃげた。
それから皆一様に期待のこもった瞳で魔女を見上げるので、彼女はふふっと笑って家の中を示す。
「ええ、どうぞお入りくださいな。香草茶か、ホットミルクと、それから星割りのクッキーが少し、ありますよ」
もう一度はしゃいだ生き物たちは、玄関のところできちんと雪を落としてから、家の中に入ってきた。暖炉の前や窓枠、小棚の上など、めいめいが好きな場所に落ち着く。
「これからお湯を沸かしますので、飲み物は待っていてくださいね」
魔女はそう言って、魔法を使い、また家にも手伝ってもらいながら、可愛らしいお客に行き渡るよう飲み物と食べ物を用意した。同じ冬の要素を持つ生き物でも、好みの温度や甘さは異なるのだ。
「わあっ! このクッキー、すごくおいしいよ!」
「ほんとだ!」
「おいしいー!」
それぞれの好みに合わせた飲み物よりも好評だったのは、魔女が初めて作った星割りのクッキーであった。星降りの夜に集めた星のかけらをさらに砕き、新月の夜にだけ咲く花の蜜を混ぜて焼いたものだ。
(この様子なら、魔術師さんのお口にも合うかしら? 甘いものはよく食べるようだったし……)
狡猾な魔女は、こうして試供品を作ることを覚えたのであった。
そのような策略とは知る由もなく、白い生き物たちは、次々と出される美味しいものに、自慢の冬毛をほわりと膨らませて大喜びだ。
彼らの毛並みに目をとめた魔女が、先日は機会を逃してしまった雪フクロウの分もと撫で回したのは言うまでもなく、そんな試供品提供と撫で回しの循環作業は陽が傾くまで続いた。
『わたくしの悪辣さを世に知らしめる時がきたようです。本当に、白くてふくふくした生き物の可愛さったらありません!』
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