p.20 贈り物を決めました(2022/12/16)

(悩んでいても、しかたないわ……!)

 パチリと頬を叩き、魔女は膝の上に置いていた不格好な形の石を目の高さまで持ち上げた。先週、魔術師のことを考えていたとき、無意識のうちに紡いでしまった石だ。

「その石を使うつもりなのかい?」

「ええ。わたくしが、大きく心を動かした証なのだもの。でも……」

 その色が問題なのだと、魔女は小さく息を吐く。

 硝子を垂らしたような、とろりとした透明の中で、葡萄酒色や青墨色の光が揺らめいている。時折重なって見えるその色は、はたして本当に自分の心を映しているのかと、魔女は疑わしく思う気持ちを飲み込んだ。

(この石の色は、わたくしの意思を紡いだものなのだから)

 雪たちが噂をしていた、森と夜の景色。

 二人の魔法と魔術を重ねたら、どれだけ美しいのだろうと、期待が膨らむ。

 しいんと静まる木々の作り出す影はきっと夜の大好物だ。若い星たちは木の根や、獣たちの巣でかくれんぼをするに違いない。森と夜は溶けあって、互いに浸食しあって、そうして。

 星降りの夜、魔法を操る魔女を見つめていた磨かれた黒檀のような艶やかな瞳。そこに滲むのは、酷薄さだけでなく、憧憬に似た複雑な感情。

「……わかってる、わかっているのよ。わたくしは多分、彼の物語に興味を持ってしまったのだわ。……わたくしは魔女で、彼は人間なのに」

「君は、夜の魔術師とは異なる時間を生きていることを、気にしているのかな」

「そうかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。難しいわ」

 雪フクロウは、魔術師が命を粗末にしすぎると言った。そして自分たちは命に感謝しているのだ、とも。

(だけど、わたくしと魔術師さんのあいだで、なにが違うというのかしら? 感謝をしたって、損なわれた者には届かないわ)

 魔術師は決して善人ではないのだが、それは魔女も同じこと。

 それよりも魔女は、思い出を重ねていく楽しさを思った。

「昨日も言ったけれど、魔術師さんと過ごす時間は初めてのことばかりで本当に楽しいのよ。並んで寝そべるのはむずむずしたし、わたくしが魔法を使うところを見ている魔術師さんの表情は、なぜか懐かしさを感じるわ。……それから、彼が恥じらい雪のお酒を手に入れられるのだと知ったときは、喉の奥がちくちくして、なんだか新鮮で面白かったの」

 こうして誰かのことを考えて、心がほかほかするのは心地よい。

「だからね、悩まないでおこうと思って」

(これはわたくしの、魔女の傲慢なのかもしれない……)

 選択肢は常に魔女の側に向けられているわけではない。

 それでもこの温もりが、少しでも長く続けばいいと思うばかりだ。

 たとえ魔術師が望んでいなくともそう仕向けるだけだと考えて、ああやはり自分は魔女なのだなと、彼女は苦笑する。その瞳には、長い時を生きた者特有の、深い諦念があった。

 ぽうっと、意思の炎が揺らめく。


『随分と悩んでしまいましたが、とうとう贈り物を決めました! 例のごとく、内容は秘密です。あっと驚くものになると思いますので、覚悟していてくださいね』

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