おまけ

おまけ 未定義M線、かつては菫外線

『球技大会の翌日』最後あたりに挟む予定で途中まで書いてたけど、長くなったから省いた話。会話文のみ。




「……あ、でも形を持たないものだから、写真とか動画には映らないのかな? アルカも今の状態なら普通に人に見えるし写真にも映るし」

「……あぁ、魔力の本質は『匂い』だと提唱した話があったな。音も無く、光にも姿を見せず、熱に合わせ膨張し、物体に付着しやすく、消失する、と」

「へぇぇ……確かに匂いは形もなければ見えないし写真にも動画にも残せないね」


「歴史的には長く馴染みがあったらしいが、近年匂いを感じるメカニズムが解明された結果、僕達が生まれた頃には古い妄説扱いになってしまった話だけどな」

「え? そういうのって一つ解明されたら繋がりのある研究も進むって思ってたんだけど……逆に否定されたとか?」

「いや、科学で解明されるなら魔術ではない、とあまり根拠のない魔術師だけの常識に捕われた結果だ」


「……魔術師の頭って岩なの?」

「大抵の人間は歳を重ねれば頭が固くなる」


「じゃあ、結局何なのかよくわかってないのかな?」

「いくつかあるが、次の可能性としては『光』の説がある」

「……? 光なら見えるし、太陽とか月の写真も映る、よね?」

「それは火が見えるのと、暗闇で懐中電灯を向けて照らされた先が見えるのと同じだ。人間の目で見える可視光線とは別に、赤外線や紫外線などの不可視光線があるだろう」

「あ、そっか。……つまり、魔術は赤外線みたいなものって事?」

「眉唾に近いがな。性質が光に近ければ魔術として展開範囲が狭すぎるし、速度も遅く感じる」


「…………」

「アルカが黙っちゃった」

「……光の反射と屈折については中学理科だろう」

「……そうだっけ?」

「あぁー、勉強したねぇ……」


「ちなみに、入試問題としても出ていた」

「…………そうだっけ?」

「あー、うーん……そんな気もするけど、覚えてない……」

「……はぁ」


「暗闇の中では何も見えなくなるだろう。天井の明かりをつける、カーテンを開けて太陽光を入れれば部屋全体が。懐中電灯などの狭い光源では部分的に見えるようになる」

「何当たり前な事言ってんの」

「つまり、人間が物を見る仕組みは、反射された光を情報として得た結果と言える」

「おい、急に難しく言い直すな」

「同じ事しか言ってないだろう。重要なのは、『本来人間が見える範囲は可視光線が反射される物に制限される』という点だ」

「んん――?」


「えーと、魔術に関わる物は可視光線で反射しない。だから見えない、って事じゃないかな? 魔術じゃないけど、レントゲン写真で骨だけ撮れるみたいな」

「…………、そういえば、何であれって骨だけ撮れるの?」

「え? えーと、X線って電磁波を使うと撮れるとかで、何で骨だけなのかは……何で?」

「話を脱線させた上に続けるつもりか」


「……一般的な写真は被写体に光を当てた正面から撮る。カメラにフラッシュライトがついている事はわかるだろう」

「スマホにもついてるね」

「対してレントゲン写真は影絵だ。カメラとライトで被写体を挟んで撮影される。その際にライトとして使われるのがX線であり、これは皮膚に反射せず通過する」

「えっ体をすり抜ける!?」

「そして骨には反射する。その結果、白い影として骨が写る」

「意味がわからん!」

「数値で詳細に説明したところで同じ答えが返ってくるだろう、性質を理解すれば充分だ」


「……そういえば、アルカも光ってすり抜けたね」

「あっっっ!? じゃあ、そういうっ!?」

「思いつきと憶測で今以上に事態をややこしくするな」


「うん。話を戻すと、魔力は魔術師だけが見れる光って話、わりとそれっぽい気がする。とりあえずX線に倣って、M線って呼ぼう」

「魔術のM?」

「あっマジシャンのMでもある!」


「…………」

「ごめんなさい、遊び過ぎました」

「いや、僕は魔力と光の性質の類似性に焦点を合わせていたから、視覚情報に絞った観点は抜けていたと、思っただけだ」

「あ……えーと、そっか。…………」


「何の話?」

「あっ、え、えと、」

「魔術師からすれば魔力も光も総じてエネルギーとして利用する物だが、織部からすれば使い道がない置き物に近い認識だと、感覚の違いの話だ」

「ふーん?」

「織部にとって日常的に使うコンロが、片岡にとっては埃を被らせても問題ないようなものだ」

「わかりやすくなったけど喧嘩売ってんだろおい」


「人間は同じ物を見ても、得られる情報に個人差が出る。単純な範囲として視野や視力があるが、色覚――色の認識能力もその一つだ」

「色ぉ?」

「網膜には色を判別する三種類の細胞があり、それぞれ感応する色が異なる。赤、緑、青、この三色の強弱の組み合わせによって色を識別する」

「ふーん」


「魔力は人間にとって不可視光線であり、魔術師にはその三色とは異なった『色』を認識する機能がある。この仮説が正しければ、織部は失明の道を避けられる」

「はいっ!?」

「えっ、そうなの!? そういう話だった!?」

「何の話だと思って聞いてたんだ」

「小難しい事がちゃがちゃ言ってると思ってた」

「とりあえずわたしにはあんまり関係ない話かなぁと思ってました……」

「……はぁ」


「具体的にはどんな感じで大丈夫になるの?」

「反射した光によって物体を認識するなら、その光そのものを遮断すれば良い。遮光眼鏡、紫外線予防であれば一般的に販売されているだろう」

「め、眼鏡をかけるだけで……?」

「仮説が正しければ、だ。科学技術に頼れない分、波長を特定出来るのか……そもそも、仮説が正しいかも断言は出来ない。実現不可能だと結論が出ても多少調整は効かせるが、過度な期待は持たないほうがいい」

「えっ、あっ!? 企画開発制作、全部昴生くんだね!? 眼鏡をかけるだけとか言っちゃってごめん!」

「謝るような話じゃない」


「い、いいよ、そんな。そこまで難しそうなら頑張らなくて。とんでもなく大変そうなのに、出来るかもわからないものを、悪いし……!」

「身を守るために失う光量が一か十かを選べるなら、九を残した方が良いだろう」

「う…………」


「――……うん」

「菫?」

「いや、ちょっと……くしゃみが出そうで出なかった」


「まぁ、この仮説が最良の結果となっても、根本的な解決にはならない。一番確実なのは、窓の目の歪みとやらの矯正だろうな。視力に影響がなければ摘出も手段の一つだが……」

「歪みも何も、菫の目の中には何にもないけど」

「見えないものはどうにも出来ないね」


「むぅ、頑張ったら見れるようにならないかな」

「えっ、いや見えなくて良かったんだよ。そこは頑張らなくていいからね?」

「何で? 私が見えたら菫にとって良い事なのに」

「窓の目が見れる鬼さんは、その人の寿命とか穢れ? が見えてたみたいだし、そういうのは見えない方がいいと思う。アルカもわたしの寿命とか、見たくないでしょ?」

「それはっ、そう、だけど……でも、……」


「……なんか、喋り過ぎて喉渇いた。水持ってくる。菫のも持ってくるから座ってて。継片もついでに持ってきてやる」

「うん、ありがとう。……というか、随分話逸れちゃったね。休憩したらアルカの話に戻そう」

「うん」


「……、織部。一つ質問がある」

「え? 珍しいね。何?」

「好んでいるを答えてくれ」


「え、カラスの模様? ……」

「…………」

「うーん、やっぱり羽がグラデーションになってる子、かな。あ、首周りで色が分かれてる子とか、ファーつけておしゃれしてるみたいで好きかも」


「……、そうか。参考になった」

「それは良かったけど、何がどう参考になったの?」

「効果が認められれば説明に加える」

「別に今教えてくれて良いのに……」


「……何の話してたの?」

「……多分、おしゃれな眼鏡にしてくれる話、かな?」

「おい、菫にへんてこな眼鏡かけさせんなよ。あれだ、私がアレするぞ、アレ」

「監修?」

「そう、監修!」


「……荷が重い」

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