ズボンを下げられた

サクヤカンテツ

好き


ズボンを下げられた。


好きな人の前で。


恥ずかしくてたまらなかった、とかいうレベルじゃない。


屈辱ってやつ。あれだ。


クラスの人間にクスクスと笑われる。


なんなら、もっと思いっきり笑ってほしい。


怒りとかはなくて、あとは悲しさだけが残った。


泣いた。


無駄に慰めるやつもいたけど、なんて言ってたか覚えてない。


あの子は何もなかったかのように席に座って、他の女子と話してた。


低学年なら僕も笑って許したのかな。


授業が始まって、泣いてるのがなんか馬鹿らしくなって、真面目に授業を受けたけど、泣いたあとだから眠くなって、寝て怒られた。


また、嫌になった。


最後の授業が終わった。


みんなすぐに帰る用意をしてたけど、僕の身体はゆっくりとしか動かなかった。


またちょっと涙が出た。


さよなら


みんな帰っていって、先生と僕だけになって、先生がこっちをチラリとみてから職員室に行った。


僕は机に突っ伏して泣いた。


小4にもなって泣くなんて、ダサい。


かっこ悪い。僕はかっこ悪い。


嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。


嫌だ。嫌だ。嫌……えっ?


「だれ?」


「ごめんね。」


振り返らなかったけど、誰かわかった。


肩に置かれた小さな優しい手。


触ったことないけど、分かる。


「なんであやまるの?」


「私が泣かせちゃったから。」


「ちがうよ。あいつがわるいんだ。」


「私も悪い。すぐに大丈夫だよって言えば良かった。」


「やさしいね」


「何それ。優しくないよ。」


「あの、ごめん。」


「何が?」


「めのまえで、その、みせちゃって、ごめん。」


「それこそ謝ることないよ。いいよ。気にしなくて。ちょっと、驚いただけ。」


「ありがと」


「好きだよ。」


「え?」


「私、君のこと好き。」


「すきって?」


なんか訳わかんないこと聞いた。


しばらく沈黙が続いた。肩に置かれた手がちょっと震えてた。


その時、誰かが階段を登ってくる音が聞こえた。


「あ、誰か来たね。じゃ、じゃあ、また、また明日ね。さよなら。」


僕が彼女の顔を見ないまま、彼女は教室を出ていった。

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ズボンを下げられた サクヤカンテツ @atokku

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