煙と本音
さぼん
第1話
酔い醒ましでもとベランダに出て、特に何をする訳でもないから煙草を吸う。秋ともなると夜の外は涼しいを通り越しているが火照った体にはちょうどいい。
「また吸ってるし。」
トイレから戻ってきたあいつに見つかると必ず言われる言葉。毎回のこの決まり文句を言われるのをどこか期待している自分がいる。
「んーまぁね」
「そろそろ辞めたらどうなの」
「あー彼女出来たら辞めるわ」
俺はあいつのただの幼なじみと言うやつで、彼氏とかいう最高のポジションにはいない。
煙草を吸える歳になってもなお、この関係は続いていて、もはやこの関係が崩れるくらいなら俺の家でただ酒を飲み交わすだけでいい。最近はそう思うようになった。
俺が本当の気持ちを言ったらあいつはどんな反応をするんだろう。いや、どうせ煙草の煙のように一瞬でなかったことになるだろう。
「吸ってみる?」
俺ができる精一杯の決まり文句。
こんなことは普段全く言えないがこの時ばかりは煙草に力を借りて、あいつに振り向いてもらおうだなんて足掻いてみる。
「馬鹿なの誰がそんなの吸いますか。」
変わらないその口調は、俺の精一杯の足掻きをことごとく台無しにする。
「ですよね」
毎回この答え、毎回この返事。ここまでがワンパッケージすぎて、あいつの小さい頃から見てきた笑い方に毎回心が揺らぐ。
吸ってみる。と返事されるまではずっと吸っていようか、あいつが彼女になってくれるまで俺は煙草を辞める気は無い。
煙と本音 さぼん @nsabonn
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます