おまけ
おまけ おはよう! にゃ
昨日のことがあったおかげで、俺とリオンはそれぞれ身バレをしたわけだが、それをココミにも話した。リアルのことを持ち込むのはとも思ったが、会話からいずれ、ココミにはわかることだということで、新しくできた家で階層主を倒したあと話したのだ。
「ふーん、リオンとクズにゃんは、同じ高校のそれも隣の席……すごい巡り合わせだね? ある意味、運命だ」
「……運命ってココミ。それは盛りすぎじゃないか?」
「何言ってるの。このゲームって海外展開もされてるわけだから、誰がもぐっててもおかしくないわけじゃない? サービス始まってまだ2ヶ月も経っていないけど、イベントでのリオンとクズにゃんの活躍を見て、始める人もいるわけだし」
「大げさではないよね?」と覗き込むように無遠慮に視線を向けてくる。ニヤニヤしているあたり、何を考えているのか……想像はついたが知らないふりをする。
「そーんな運命な二人に質問」
「……それ答えないとダメか? 嫌な予感しかしない」
「なんでぇー! いいじゃん! 私なんて、ある意味蚊帳の外でしょ? あっ、シラタマがいるか」
忘れては困るといいそうなシラタマはお店のベルが鳴ったので、今は店番に戻っている。二対一ではあるはずなのにココミの圧はすごい。
「いいよね。これは特別知りたい!」
「……ひとつだけな?」
「嫌よ! 聞きたいだけ聞く! これ私のモットーです」
「……なぁ、リオンも何か言ってくれよ?」
「クズイくん、諦めた方がいいと思う。ココミは、こういう話すごい好きなの」
「廃人がリアルを聞きたいって……どんなだよ?」
「ふふっ、聞いて驚けクズにゃん!」
「なんだよ」とたじろぐと、さらにニヤッとしている。その笑顔が怖くて仕方がないが、観念するしかないとリオンは諦めていた。それなら、もう倣うしかない。
「なんですか? 廃人には変わりないでしょ?」
「まぁ、1日のほとんどがこっちにいるな。煩わしいリアルは好きじゃないから。おかげで、おもしろい話がガンガンに書けるからいいんだけどね」
「はっ? 話って」
「web小説を書いているのだよ! ちなみに商業作家だ。そこそこ売れてる。重版もガンガンしてるぞ?」
「……聞いてない。俺ってネタにされる系?」
めっちゃいい笑顔で、親指立ててこられても困るんだけど……。
リオンの方を見てみると、顔が赤い上にこっちを見ていない。何かあるぞ? と思い、リオンに話しかけた。
「なぁ、リオン?」
「な、何かなぁ?」
「もしかしなくても、俺のこと……」
こちらをチラリとも見ないあたり、ココミには話していたのだろう。俺がリオンのスクショをロック画面にしていたことも、メッチャすごいプレイヤーだって熱を込めて翔也に語っていたことも。そして、そして……ココミにネタにされていたということだ。
「あぁ、ちなみ君らの話。リオンから聞いて展開的にこういうふうになったらおもしろいよなぁーって思って書いたとおりになるってね? リアルっておもしろいなぁ~実に愉快」
「こ、ココミ!」
「何かな? クズにゃん」
「読ませてくれ!」
「お買い上げ、ありがとうにゃ!」
シラタマの声が後ろからして一冊の本を持ってきた。明らかにこのゲームとは関係なさそうなそれは……何なのだろうと冷や汗を流す。
「シラタマの権限でちょっとね。課金だと思ってお買い上げください! クズにゃん!」
「……あぁ、そうする」
「データはスマホに送れるからね! リアルでも読めるよ? 感想ヨロ~!」
ホクホクしているココミがハッとしたようになった。さっきのお買い上げで忘れてくれていたら、よかったのに……と思ってもそうはいかないらしい。
「で? クズにゃん。リオンって可愛い? ねぇ、可愛い?」
机の向こうにいるのにこちらにズイッと近寄ってくる。
「……ココ、近いよ!」
「リオン、クズにゃんってカッコいい?」
二人ともに詰め寄るココミの目は爛々としていて、どうやら逃げられそうにない。答えないわけにはいかないが、本人を前にどういっていいのかわからず言葉を探す。
「……リ、リオンは、とても可愛いです」
「おぁー! そういうのもっと! クラス同じなんでしょ? どんな感じ? 大人しい系? やんちゃ系?」
「……清楚系ギャルっていったらいいのかな? 男子からはもちろんだけど女子からも人気だよ。あぁ、俺のことは聞かないで?」
「なんとなくクズにゃんのことは、その纏っている雰囲気でわかるよ。ラブコメ最強ペアだなぁ……」
俺の話したことまずくなかったよな?
黙ってしまったリオンをそっと盗み見る。俯いているうえに長い髪が顔にかかって表情は見えない。こっそりシラタマが覗き込んでいた。
「リオン、顔真っ赤にゃ!」
「シラタマ!」
「クズイはいい男にゃ! リアルは知らないけど気はいいヤツにゃ」
ピョンピョンと飛び跳ねながらシラタマは俺を褒めるのですごく恥ずかしい。同級生が聞いていると思うとリアルとの差が気にもなった。
「リオンはどう思っているの?」
「……クズイくんはこのゲーム内のまんまだよ。とても優しいし、おもしろいし、ちょっと、教室では、静かだけど……」
「根暗って言ってくれていいよ?」
「そんなことないよ! それに、カッコいいし……」
「おぉ?」とココミの耳が大きくなったのではないかと思った。聞き間違いでなければ、俺とはかけ離れている形容詞使われた。『カッコいい』とは……脳内で辞書を引いたが、自分に当てはまるものはなかったが、リオンが言ってくれると嬉しかった。
「小さくって聞こえなかったな? もう一回、なんて言ったか聞いていいかな? リオン」
意地の悪い顔をしながらココミはニヤついている。もう一度リオンの口から『カッコいい』というのが聞こえてくる。嘘じゃないことがとても嬉しかった。
「あっ、俺そろそろ時間だ」
「もう? せっかくいいところだったのに!」
「学生の本分は勉強だから仕方ないだろ? ココミ、あんまりリオンに詰め寄るなよ?」
「おっ? ナイト様。それは聞けぬ話ですな」
「いいよ! クズイくんがログアウトしたら、私、外にでるから!」
ニコッと笑うリオンが怖いけど、遠慮なしに「また、明日」と言葉を残してログアウトした。
◆
「はよー! ヤス」
「はよー、翔也」
席に座っていると来たばかりの翔也が鞄を置いてこちらにやってくる。前の席にどかっと座り、いつものように話しかけてきた。まだ、隣の席は空席のままだったが、そちらを見ることは出来ない。
「昨日は大丈夫だったか?」
「うん、まぁ、口の中を切ったくらいだから、たいしたことはないな」
「それより、一条さんとは、その……」
「昨日も向こうで会ったよ。もう一人、仲間がいるんだ。話した」
「よかったのか? 普通、リアルのことって……」
「言わなくても、これから長い時間一緒にいれば、なんとなくわかるだろうから、その前にってな。それより、翔也はこの本見たことある?」
昨日、ココミに買わされた本をみせると「メッチャおもしろいよな、確か今5巻まで出てて」と知っているようで熱く語りだした。そのあと少し考えるように遠くを見たあと、ガタっと椅子から飛び上がった。
「こ、こ、これ! お前らのことか?」
何かが繋がったのか、翔也が突然大声を出して教室にいた同級生からの視線が痛い。最近、この席の回りはトラブル続きだからか厳しいのだ。
「……昨日、ココミから聞いた。読んでみて驚いた」
肩を落とす俺に目を輝かせる翔也。
わかる、求めているものが……。
「サインもらってくれ!」
「自分で言えば? 繋がれば普通に20時間くらいダイブしてるから」
「20時間? ほとんどじゃねぇーか!」
「隣も似たような時間もぐっているけどな」
はぁ……とため息をつき、ココミの本の1冊目のラストを思い出す。まるで、俺とリオンのリアルを見てきたかのような描写、昨日の出来事まで予測されていて正直怖いとさえ思った。
……才能ってすごいな。俺にもほしいくらいだ。
「おはよう、葛井くん」
里緒が来たらしく寝癖をちょっと押さえながらにこやかに朝の挨拶をしてくれた。いつか話したようなリアルで友人だったら……の仮定がまさに現実になっている。
「おはよう、一条さん」
「里緒でいいよ。いつも呼んでるんだし」
「……さすがに向こうと一緒ってわけにはいかないだろ?」
「そうかな? じゃあヤスくん」
そうきたか……と思った瞬間、もう、目の前にいる翔也のニヤニヤが止まらない。名は違っても、俺をモチーフにされた主人公と一条里緒をヒロインとした本が日本中のどこかで読まれているのだから、同じ展開になったことに翔也は悶えている。
「この教室にさ、この本読んだヤツってどれくらいいるかな?」
深いため息とともに翔也に問うたが返事はない。ただ、書かれていた言葉通りに「じゃあ、これからは里緒って呼ぶよ」と返事をした。花が咲くように笑う里緒。
「これからもよろしくね! ヤスくん!」
生暖かい視線や鋭い視線、人が殺せるんじゃないかという殺気が周りから一斉に俺に集まる。こんな人生初めてだ……と、なんとも言えない気持ちになったが、笑う里緒を見れば先日のイベントのときのようで悪くないなと俺も笑いかけた。
新作VRゲームβ版テストの抽選に落ちて、実力テストで赤点を叩き出した俺は、ゲーム禁止に? 3ヶ月間、憧れの戦士に会えることを楽しみにしていたのに、ログイン初日からパーティメンバーに固定されてました! 悠月 星花 @reimns0804
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