最終話 完全武装

「どうしたんですか? 大和さん」


 心配そうに声をかけてきたのは結菜だった。大和はスマホから視線を上げ、「い、いや。なんでもない」と答える。

 だが自分でも動揺していることは分かっていた。

 タケルが『リアルプレイヤー』に選ばれていた。その事実に頭が追い付かず、状況が飲み込めない。


「ねえ、これ……新しいステージに送り込まれる人たちだよね」


 スマホを見ながら絵美が顔をしかめる。絵美もまた大和の異変に気づいていた。


「ひょっとして大和さん、知り合いがいるんじゃないの?」


 全員の視線が大和に集まる。どう答えようか一瞬迷ったが、嘘をついてもしかたない。大和はフゥーと息を吐いてから、四人の顔を見渡す。


「確かに、この中に知り合いがいる」

「やっぱり! どの人、家族? 友達?」


 絵美が前のめりになって聞いてくる。


「甥っ子だ。まだ小学校六年だから、一人で生き残るのは不可能だろう」

「じゃ、じゃあ助けに行くんですね!」


 今度は小久保が聞いてくる。大和は小さく頷いた。


「みんなは元の世界に帰ってくれ。俺は新しいステージに向かう」


 運営の思惑に乗るのは癪だが、放っておけばタケルは確実に死ぬ。行く以外の選択肢は考えられない。

 資金も9億は手に入った。これを使えば装備も整えられるだろう。

 大和がそんなことを考えていると、絵美がつかつかと歩いてくる。


「ちょっと大和さん! まさか一人で行く気じゃないでしょうね!?」

「え? ……もちろん、そのつもりだけど……」


 なぜか怒った表情の絵美に、大和は困惑する。


「なに言ってるんですか! 私たちは全員大和さんに助けられてここにいるんです。その大和さんが行くっていうなら、当然私たちも行きますよ!」

「い、いや、しかし……」


 絵美の後ろにいる結菜や桃木、小久保も当然とばかりに頷いて見せた。

 全員が行く気になっていることに、大和は驚く。


「待て! 待て、待て!! 今なら確実に帰れるんだ。次のステージに入れば『ログアウトボタン』が使えなくなる可能性だってある。チャンスを失うかもしれないんだぞ! 分かってるのか!?」


 タケルを助けに行くのは、あくまで大和自身の個人的な事情。四人を巻き込むのは筋違いだ。

 絶対に連れて行く訳にはいかない。そう思った大和だが――


「いーやーだー! 私は絶対に行く! 大和さんがなんと言おうと、私は勝手について行くからね!!」


 絵美が不貞腐れたように言う。そして普段引っ込み思案で大人しい結菜まで、怖い顔で前に出てきた。


「大和さん、言ってくれたじゃないですか……私たちのおかげでステージをクリアできたって……それって、私たちが役に立ったってことですよね?」

「うん、まあ、そうだが……」

「だったら、この先のステージでもお手伝いさせて下さい。絶対に足を引っ張ったりしませんから!」


 結菜に強い眼差しで見つめられ、大和はぐぅの音も出なくなる。

 小久保もそでで汗を拭いながら、前に出てくる。


「僕らの資金、全部使って装備を買いましょう! かなり高額な物だって買えるはずです。そうすれば、どんな化物だって倒せますよ! そうでしょ、大和さん!?」

「…………」


 大和は返事に窮した。確かに全員の資金を集めれば相当の装備が買えるだろうが、これは彼らが手にした報酬でもある。

 大和に取って9億は大した額ではないが、小久保や絵美たちに取っては一生遊んで暮らせる金額だろう。それを全部使わせるなど、狂気の沙汰だ。

 そんなことを考えていた大和に対し、今度は桃木が歩み寄る。


「私も一緒に行かせてくれ」

「しかし……桃木さんは、それこそ俺に付き合う必要なんてないはずだ。現実世界に戻った方がいい」


 大和は必死に説得したつもりだったが、桃木は頭を振り、真剣な目でこちらを見る。


「助けてもらった恩は当然ある。そのうえで、私は運営が赦せない。仲間たちの命を簡単に奪い、無慈悲なゲームを続けようとする、この運営が。もしチャンスがあるのなら、こいつらをぶちのめしたいんだ。だから一緒に戦わせてほしい、大和さん!」


 桃木は右手を差し出してきた。すぐ近くにいる絵美や結菜や小久保も、覚悟を決めた目で大和を見据える。

 これ以上、説得しても無駄なようだ。大和は桃木と握手を交わす。


「……分かった。全員で行こう、そして必ず無事に帰ってこよう!」

「「「はい!」」」


 絵美たちは嬉しそうに笑い合い、無事に帰ることを誓った。

 大和はスマホの『アイテム購入欄』に目を落とす。本当に役に立つ装備をそろえなくてはならない。

 それが生きるか死ぬかを分けることになるだろう。

 大和は桃木に『グループ登録』させ、五人の大きなグループを作った。これで資金が共有され、利便性が向上する。

 絵美たち四人と話し合い、どんなアイテムを購入するか慎重に選ぶ。

 そして――


「……よし、これでいいな」


 大和がグローブを締めながらつぶやく。そこには完全武装した五人の男女がいた。



【十文字大和】追加武装


・国宝(天下五剣) 鬼丸国綱おにまるくにつな 1億円

・荷電粒子砲【拳銃型RSh-12改造】10億円 

・パワードスーツ 1億円


【小久保徹】追加武装


・国宝(天下五剣) 大典太光世おおでんたみつよ 1億円

・荷電粒子砲【ライフル型MCX VIRTUS改造】15億円

・パワードスーツ 1億円


【朝香絵美】追加武装


・国宝(天下五剣) 童子切安綱どうじぎりやすつな 1億円

・SMAWロケットランチャー 3500万円

  SMAW-NE(サーモバリック爆薬弾頭)20万×500発 1億円

・パワードスーツ 1億円


【長谷川結菜】追加武装


・重要文化財 透漆梓弓すきうるしあずさゆみ 8000万円

擲弾の矢グレネードアロー 15万×500本 7500万円

・猛毒の矢 20万円×50本 1000万円

・パワードスーツ 1億円


【桃木まどか】追加武装


・国宝(天下五剣) 数珠丸恒次じゅずまるつねつぐ 1億円

・XM109アンチマテリアルペイロードライフル(AMPR) 4000万円

 徹甲焼夷弾 2万×500発 1000万円

 徹甲榴弾  2万×500発 1000万円

・パワードスーツ 1億円



「これだけ装備があれば、どんなステージでもクリアできますね!」


 小久保が厳ついライフルを見回しながら言う。大和も拳銃型の荷電粒子砲に目をやった。

 10億と15億で買った荷電粒子砲は、エネルギーチャージをする時間が五分以上と長いものの、威力は桁違いらしい。


「確かに……これだけあれば怖い物なしかもしれないが」


 他のメンバーもパワードスーツや、新しく買った装備を念入りに確認していた。その中でも特に気になったのは結菜だ。


「結菜、本当に良かったのか? 弓矢なんて原始的な武器で」

「あ、はい。大丈夫です。私には拳銃より、むしろこっちの方がしっくりきます」

「そうなのか?」


 二人の会話を聞いていた絵美が、「ふふ~ん」と笑いながら話しかけてくる。


「結菜はこれでも弓道部の主将なんだよ! インターハイにも出場したことあるんだから!」


 自分のことのように自慢する絵美に、小久保は「そうなんですか?」と驚き、桃木も「それは凄いな」と感心した。

 使い勝手がいいなら、それに越したことはない。


「準備はできた。本当に帰らなくてもいいんだな?」


 大和の言葉に、全員が真剣な顔になり、口を結んで押し黙った。一歩前に出た絵美は、ニッコリと頬を緩める。


「もちろん! 覚悟はできてるよ。甥っ子さんを助けに行こう!」


 明るく言った絵美の後ろで、結菜も小久保も、そして桃木も力強く頷いていた。

 誰も迷っている様子がない。本気でタケル救出を手伝ってくれようとしてるんだ。そのことに驚くとともに、ありがたくもあった。


「……分かった。もうなにも言わない。君らの力を貸してくれ」


 大和はスマホの画面を操作し、『Next Stage』のボタンを表示させる。他の四人も同じページを開いていた。

 全員が顔を見交わし、コクリと頷く。

 大和は『Next Stage』のボタンをタップした。この先、どんな困難が待ち受けていようと構わない。

 今の自分には何十億も課金したアイテムと、信用できる仲間がいるのだから。

 画面から光が溢れ出し、周囲の全てを飲み込んでいった。



 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

お話はこれで終了になります。カクヨムコンに向けて書いたものですが、スケジュールがタイトすぎて完成するか不安でした。なんとか最終話を迎えることができてホッとしています。

最後に作品の感想や評価など頂けると嬉しいです。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。

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デスゲームに巻き込まれましたが5億7千万課金していたのでなんとかなりそうです。 温泉カピバラ @aratakappi

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