第39話 報酬の分配
大和は座り込む仲間たちに目を落とす。
誰もが疲れた顔をしているが、とても満足そうでもある。
「大和さん」
桃木がこちらにやって来た。目は潤み、赤く腫れている。色々な感情が込み上げているのだろう。
「大和さん、改めてお礼を言いたい。本当にありがとう。あなたに助けられたおかげで、なんとか生き残ることができた。他のみんなも――」
桃木は振り返り、絵美たちの顔を見る。
小久保は疲れ果てて動けないようだが、絵美と結菜はニッコリと微笑み、桃木に向かって手を振っていた。
桃木は「フフ」と笑い、もう一度大和の顔を見る。
「現実世界に戻れば、お互い会うことはないかもしれない。だから、ちゃんとお礼を伝えたかったんだ」
桃木がそう言うと、絵美が「えー!?」と不満そうに口を尖らせる。
「桃木さん、連絡先、交換しよーよ! せっかく出会えて、せっかく仲間になって、せっかく生き残ったんだよ! これで終わりは寂しいよ」
「しかし、私はほとんど部外者みたいなものだし……」
絵美は立ち上がり、戸惑う桃木の前まで歩み寄る。
左腕のサポーターからスマホを取り外し、画面をタップして操作する。
「いや、このスマホが現実世界まで持っていけるかって問題はあるけど……取りあえず『メモ機能』はあるみたいだから、連絡先書いていこーよ。番号、教えて!」
「あ、ああ」
絵美の押しの強さに負け、桃木は自分の携帯番号を教えた。絵美はそのまま小久保の元へ行き、番号を聞いていく。
最後に大和の元までやって来る。
「じゃあ、大和さんも番号教えて!」
「俺もか?」
「もちろん、当然じゃん」
あまり人付き合いをしない大和は少々戸惑ったが、「まあ、いいか」と思い、絵美に携帯番号を教える。
絵美からは代わりに小久保、絵美、結菜、桃木の番号を教えてもらった。
「元の世界に戻ったらLINEのグループ作ろうね、大和さん!」
絵美は笑顔を浮かべて結菜の元まで戻っていく。まさかこの歳で女子高生の友人ができるとは思っていなかった。
大和がそんなことを考えていると、スマホから軽快な音が鳴る。
運営からのメールが届いた。さっそく中身を開いて内容を確認する。
『お待たせしました。皆様の今後の選択についてお知らせします』
――選択について? なんのことだ。と思いつつ、大和はメールの先を読む。
『まず、獲得したポイントについては、ご指定の口座に振り込むことが可能です。他にも既存のサービスに使えるポイントに変換して、お持ち帰りいただくこともできます。この場合、口座を指定する必要はありません。もっとも、もし武器やアイテムに換えたいのであれば、それを止めることは致しません。ただし、今の現代社会においては【顕在化】させることができませんので、ご留意下さい。そして帰還方法ですが、皆様が持つスマホのゲームアプリ内に、ログアウトボタンが実装されました。いつでも帰ることができます』
大和はメールを読むのを一旦やめ、ログアウトボタンを確認する。
「…………あった」
間違いなくゲーム内に"ログアウトボタン"がある。これで本当に帰ることができるんだ、と大和は安心した。疲れがドッと押し寄せてくる。
運営側が帰るのを妨害するかもしれない、そんな事態も考えていたからだ。
「約束ぐらいは守るようだな」
大和は皮肉を言いながら、メールの続きを読む。
『なお、皆様には帰る以外に、もう一つの選択肢があります。それはまったく新しいステージで、このゲームを続行することです。ゲームを続行すれば、その分獲得できる金額は大きくなります。もしも挑戦したければ、こちらもゲームアプリ内に、『Next Stage』に行くためのボタンを用意しておきました。もしご興味があれば、振るって参加して下さい。心より、お待ち申し上げております。
『ダーク・フロンティアⅡ』運営本部一同』
「バカかこいつら……誰がそんなものに参加するんだ!」
絵美や小久保たちも、それぞれのスマホで運営のメッセージを呼んでいるようだ。
さすがに呆れているように見える。大和は小久保や絵美たちの元へ歩み寄り、声をかけた。
「内容は読んだと思うが、当然"帰る"でいいよな」
大和の言葉に、小久保は「もちろんです!」と答え、絵美は「当たり前じゃん!」と憤慨する。結菜と桃木も同じようなので、残る問題は金の分配だけ。
「桃木さんは個別にポイントが入ってますよね?」
「え、ええ。二億近いポイントが入ってます。でも、これは大和さんたちのおかげで獲得したものなので、できれば皆さんに譲りたいんですが……」
「いや、その必要はありません。あくまで桃木さんが獲得したポイントですから、持ち帰って下さい」
「でも……」
桃木が反論しようとするが、絵美を始め、結菜や小久保も当然持ち帰るべきだ、と主張し譲らなかった。
みんなが桃木に賞金を獲得してもらいたいと思っている。それだけ酷い目にあったのだから。
「分かりました。感謝します」
桃木が納得したところで、今度はこちらの賞金について話し合う。
「みんなも分かってると思うが、グループで獲得したポイントは現金換算にして36億以上ある」
改めて大和が言うと、小久保はゴクリと喉を鳴らした。
「この額を四等分してそれぞれに分配しようと考えてる。異論はあるか?」
「ええ!?」
声を上げたのは小久保だった。しどろもどろになりながら、聞き返してくる。
「よ、四等分って? 僕らは大和さんのおかげで生き残れたんです! 賞金をもらう資格なんて……少なくとも僕にはありません」
「私も一緒だよ! そんなバカみたいな金額を分けようって言われても……正直、困っちゃうよ」
「わ、私も同じ意見です!」
絵美と結菜も反論した。確かに、一人当たり9億をいきなりもらえるなんて聞けば困惑するのは当然だ。
それでも、この三人には受け取ってもらう必要がある。
「戸惑うのは分かる。でも、このポイントは全員で獲得したものだ。君たちがいなければクリアすることもできなかった。受け取って
「し、しかし……」
小久保はなおも渋ろうとするが、大和はダメ押しの一言を吐く。
「それに俺は大金持ちだからな。9億なんて小遣いレベルだ。全部もらったとしても大して嬉しくない。みんなで分けた方が生産的だろ?」
三人はそれぞれの顔を見交わし、困惑する。
だが、大和の顔を立てようと考えた小久保は「じゃ、じゃあ遠慮なく」と同意し、絵美は「私、大金持ちだ!!」と興奮する。
結菜は「い、一旦親と相談しますね」と相変わらず真面目なことを言っていた。
大和は微笑ましい気持ちになる。そんな時、スマホに運営からメールが届いた。
なんだろう? と思い開いてみると、そこには人の名前が羅列されたファイルが
「ん?」
どうやら新しいステージに送り込まれる『リアルプレイヤー』のようだ。
「まだ俺たちに参加させようとしてるのか、本当に下らな――」
大和の視線が止まる。そのリストには、あってはならない名前があった。
目を皿のようにして何度も確認するが、間違いない。大和は改めて画面に表示された名前を見る。
――十文字タケル。
大和がかわいがっていた甥っ子の名が、ハッキリと書かれていた。
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