目が覚めた。


 目が覚めた?


「お。起きた」


 彼がいる。なんか個室。


「よく分からないんですけど」


 なんで彼が元気で、わたしが倒れてるの?


「はい。りんご」


「あ、ありがと」


 おいしい。


「なんでわたし倒れてるの?」


「血を見たからじゃないか?」


 血を見た。


「えっ大丈夫なの?」


「いやぜんぜん大丈夫だけど」


 ぜんぜん。ぜんぜん大丈夫。


「わたしがぜんぜん大丈夫じゃなかった」


「そうみたいだな。倒れてるし」


「ここは?」


「駅前のホスピス。個室」


 個室ありがたい。でもここから出れそうにない。


「トイレも浴室もあるよ」


「ホテルじゃん」


「まあ、そんなもんだ。任務柄な」


 任務柄。


「大丈夫なの?」


「何が?」


「その、儀式的な、なんかよく分かんないのは」


「そこそこうまくいったよ」


「それはよかった」


「ただ、また俺だけ、いや四象風月だけ取り残されてさ」


「俺、でいいよ。慣れてきた」


 彼の存在に慣れてきた自分が、ちょっとだけ、嬉しかった。


「俺ひとりだったら、そこで終わってた。たまたまおまえと繋がってて、それで、帰れた」


 帰れた。


「俺の帰る場所が、あの第2倉庫だった」


「そっか」


 わたしじゃなくて、第2倉庫か。


「えっ拗ねるの?」


「そこはわたしって言ってよ」


「おまえは来てくれるだろ」


 まあ、それはそうですけど。


「で、あの機械はなんだったんだ?」


「ああ。あれはといれ作ってるの」


「といれ」


「また閉じ込められても、たのしく過ごせるように」


「それはいいな」


 彼が、りんごを作成し終わって、わたしに手を伸ばす。りんごと、なぜか塩の匂い。


「ギャルじゃないな」


「どっちが好き?」


「どっちでも変わらん」


「あ、そう」


 彼の指を食べる。しょっぱい。


「りんご食えよ」


「じゃあこの指は何よ」


「さわろうと思ったけど、手洗ってなかったから」


「りんご味の指」


 彼の味。

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四象風月 春嵐 @aiot3110

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