「おかえり」と「ただいま」

 昼食を終え、生徒会長の田村さんと別れた。

 終始、砂夜とはバチバチしていたけど……今後が心配だなぁ。


 それからお昼が終わり、午後の授業が流れていく。

 僕は教師として仕事を進めていった。


 なんだかんだ時は流れ――放課後。


 夕焼けが教室をオレンジ色に染め上げる。この静かでノスタルジックな時間が僕は好きだ。


 生徒たちは各々の家へ帰宅していく。


 最後まで見守ると、ひとりだけ生徒が残っていた。


 砂夜だ。


「先生、二人きりだね」

「桜木――いや、砂夜は帰らないのか」

「同じ家だもん。一緒に帰った方がいいでしょ」

「そうだったな。ああ、そうしよう」


 けど、ずっと二人きりなのもマズい気がする。誰かに見られて誤解されたら……大問題に発展しかねない。ヤッホーのトップや新聞の記事を飾ってしまう恐れもある。……いや、それは考えすぎか。


 なんにせよ、校門前で落ち合う方がいいだろう。リスクを避ける為にも。


「でも、学校でしか出来ないこともあるから」

「え?」


 油断していると砂夜がこちらへ歩み寄ってきた。

 小悪魔スマイルを浮かべ、僕の目の前に立った。そして、手を伸ばし抱きついてきた。


「……せんせ」

「砂夜……」

「お昼のとき、足を踏んじゃってごめんね」

「あ、ああ……って、なんか優しいな」


「え? 罵って欲しいの? 仕方ないなぁ。先生って本当に砂夜の気持ちを分かってないよわよわのザコザコなんだね」


 言葉こそ辛辣だが、態度は明らかに優しかった。多分これは砂夜なりの愛情表現スキンシップ。僕はとても嬉しかった。


「砂夜、ありがと」

「な、なによ。先生のクセに生意気。でも、生徒会長と仲良くしているところ見て……ちょっと寂しくなっちゃった」


「大丈夫だ。僕はいつも砂夜しか見ていない」

「……ッ。先生ってば……えへ、えへへ……」


 顔を真っ赤にして嬉しそうにする砂夜は、いつになく上機嫌だ。こんな可愛い義妹が僕を慕ってくれる。この上ない幸せだ。


 * * *


 アパートへ帰宅した。

 気づけば僕と砂夜は手を繋いでいた。


「「ただいま」」


 三畳ワンルームの家に戻ってきた。

 狭くてまるで刑務所みたいに狭いけれど、これが僕の住処なんだ。いや、僕だけじゃない。砂夜との“家”なんだ。


「おかえり、砂夜」

「おかりなさい、先生」


 靴を脱ぎ、整え――部屋へ。

 制服姿の砂夜は、お人形のようで本当に可愛らしい。黙っていればご令嬢にか見えない。可憐で美しく、僕にはもったいない存在だ。


 だけど。

 けれど。


 僕の義理の妹なんだ。

 幸せにしたい、砂夜を。


「砂夜、今日は外食へ行こう。砂夜を迎えた記念だ」

「えっ、いいの! どこでも?」

「ああ、どこでもいいさ」


「で、でも……先生ってお給料とか大丈夫なの?」

「給料ザコだけど、でも記念だからね。今日くらい贅沢したって罰は当たらないさ」


「せ、先生……そんなに優しくされると、わたし……先生を馬鹿にできないじゃん」


 ちょっと涙ぐむ砂夜は、とても嬉しそうだった。

 僕は気づいた。


 砂夜が幸せを感じると、僕も幸せなんだ。


 普段はキツイけど――別にそれはたいした問題ではない。もう慣れたというか、それが日常だからだ。


 これでいい。

 ずっとこんな毎日が続けば、それでいい。

 これからも僕は砂夜を守り続ける。



【あとがき】

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クラスメイトの美少女と無人島に流された件

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教師の僕、義妹と三畳ワンルーム暮らし 桜井正宗 @hana6hana

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