義妹と生徒会長

 慌てるな僕。ここは冷静にいこう。

 生徒会室には、お昼をしに来ただけなんだから。


 僕は、田村さんに視線を向けてお願いした。


「田村さん、生徒会室を使わせて貰えないかな。お昼、食べる場所がなくてさ」

「場所がない? 先生は、職員室を使えばいいのでは?」


 もっともな意見だ。

 なにも間違っていない。けれど、僕はこう返した。


「ほら、田村さんって前に相談してくれたじゃないか。生徒会をどう運用していけばいいとかさ。そういう話もしながらお昼もしたい」


「なるほど、先生は私と話したいんですね?」

「そ、そうだけど、桜木さんも一緒だ。彼女は生徒会に興味があるらしい。実は、今日はその話もあって連れてきたんだ」


 なんとか、それらしいことを言って誤魔化した。砂夜の方はビックリして『なんてこと言うの~!!』とあたふたしていた。

 あとで股間に一撃を貰いそうだな。


 けど、これで使わせて貰えるはず。


「そうでしたか。分かりました。先生には何度も相談を受けてもらってる恩がありますし、どうぞ、生徒会室をお使いください」


「ありがとう。では、遠慮なく」


 砂夜を連れて中へ入っていく。

 生徒会室には、ミーティングテーブルが四つ。四角形に組まれている。そして、パイプ椅子がそれぞれ二つずつ配置されている。僕と砂夜は、田村さんと見合う形で座った。



「ようこそ、生徒会室へ」

「よろしく、田村さん」

「ええ、特に先生には引き続き相談に乗っていただきたいので」


 お嬢様みたいな微笑みを向けられ、俺は照れた。

 すると、砂夜がこっそり俺の足を踏んだ。


 ――ぎえええッッ!!!

 痛ッ、いったぁあああ!


 心の中で叫びつつ、俺は汗を滝のように流した。……くぅ、砂夜のヤツ、容赦なさすぎだろ。



「……ッ」

「大丈夫ですか、先生!?」

「な、なんでもない。それより、お昼にしよう」

「それならいいですが」


 田村さんは元々お弁当を食べていた。もしかしたら、自分で作っているのかな。


 こっちはシンプルに、パワーゼリーとキャロリーメイト。砂夜も同じものだった。そりゃそうだ、昨日砂夜が引っ越してきたばかり。お弁当を作ったり、買ったりしている暇なんてなかったのだ。


 そのせいか、田村さんは非常に驚いていた。


「どうした、田村さん」

「い、いえ……そのお二人はそれだけなんですね」

「いろいろ事情があってね」

「なんで同じものを?」


 やば……普通はそう思うよな。これは何とか誤魔化さないと! 焦っていると砂夜がフォローしてくれた。


「わたしが先生に食糧提供したの。ほら、先生って料理もまともにできないし、生活能力皆無だし……ザコだし」


 最後、ボソッと言い切ったなぁ。

 まあいいけどね。


「ふぅん……桜木さん、先生のこと詳しいのね」

「……す、少しだけです。たまに話すので」

「そうなの。でも、私も先生とはよく話すから」

「……そうですか」


 バチバチっと、火花が散っているような……怖いなぁ。


 けれど、砂夜はさっきの足を踏んだお詫びのつもりなのか、俺の手をコッソリ握ってきた。手が震えているじゃないか。


 これは、生徒会長の圧に負けてるな。

 こういうところが可愛い。

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