頬擦りで甘く蕩けて
「茜、起きて。もう着いたよ」
「……んぅ」
寝起きの可愛さと頑張って車に乗れたことの2つが重なり、綾人は自然と抱きしめながら頭を撫でていた。
抱き心地の良さがあるせいか、車から降りることよりも今の温もりを離せずにいた。
「………」
「その、撫でられるの嫌だったか?」
「もっと…………」
「そうか。よしよしっ」
「…………ッ♡」
綾人に甘える心地良さに思わず胸に頬擦りをしていた。
心の空いた隙間に溶け込むような、甘く蕩けてしまうほどに2人を溺れさせていく。
以前から甘え合う関係ではあったが、今の精神状況では比べられないほどのものだった。
「お母さんたちが待ってるからそろそろ行こうか?」
「うん」
甘い密室を名残惜しそうに出ていった。
車を降りてからも手をずっと握っているが、繋いでいることがさも当たり前のような感覚に陥っていた。
◇
「お母さんただいま」
「お邪魔します」
「おかえり。茜ちゃんもおかえりなさい。急には変えられないと思うけど、私たちは家族としていつも迎えてあげますからね!さっ、疲れてるようね、少しお茶にしましょうか」
「……はい。ありがとうございます」
2人で靴を脱いで、1階リビングへと向かった。
綾人にとっては慣れている自宅のはずなのに、茜と暮らせることに緊張や期待などの色々な感情が混じったものが渦巻いている。
ふと茜を顔を見てみると、似たようなことを考えているみたいで、顔が少し紅くなっていた。
綾人の視線に気付いて顔を上げたら不意に目が合い、愛おしさと恥ずかしさでしばらく見つめ合ってしまった。
◇
「ふぅ〜。さすがに運転後は眠気が来るな……」
「あらあら、それなら荷物取りに行くのは明日にして、今日は着替えだけ取りに行きますか?」
「今日から一緒に暮らすのだから今日中にできるだけ終わらせてしまおうか。綾人もそれでいいかい?」
「うん。僕もそれがいいと思う。」
「…………」
「ただ、これ以上は茜を車に乗せたくないし疲れがかなり出てるから、僕と茜は少し休んでから歩いて向かうよ」
「……そうか、わかった。お父さんは先に車で向かうから」
水分を少し取り過ぎた綾人は、尿意を催してトイレへ向かおうと立ち上がった。
ただそれだけ、少しだけ離れそうになっただけで、茜は不安定になってしまった。
「イヤっっ!!置いていかないで!!ひとりにしないで……怖いよ……見捨てないで……っ」
「……茜!!すまない、心配かけてごめんね。トイレに行こうとしてたんだ。ひとりにしないからついてきてくれる?」
「……うん」
「よしよしっ」
「……綾人は当分の間は一緒にいてあげなさい。なるべく離れなくて済むように取り計らうから」
「ありがとう、お父さん」
「じゃあ、お父さんは先に向かってるから、ゆっくり休んでから来てくれればいいよ」
「わかった」
「……ありがとう、ございます」
トイレに入り、茜に外で待っていてもらおうと声をかけようとしたら、何故か一緒に入ってきて鍵を閉めてしまった。
「その……、恥ずかしいから見聞きしないでほしいな」
「そ、その、綾人くんは綺麗だし好きだから大丈夫、だよ?」
「まあ……大人しく待っててね」
「うんっ」
トイレまで一緒に入ることは良くないと常識的な考え方をしようとしていたが、二人の関係上離れることが最も苦であるのは明白なので、この日からトイレすら一緒に入るようになってしまった。
トイレを済ませた2人は、休憩するために綾人の部屋へ向かった。
愛し愛され愛し合う。 ゆめる @yumeru122
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