第104話 『電気だけ』じゃない



 さっきまで特大ゴーレムが腕を振り回していた空き地はアルフレート先輩の手引きで見事にダンスの練習場へと姿を変えた。


 最初は遠巻きに見ていた生徒たちが一人、また一人とそれぞれにパートナーを連れて練習を始めている。


 そこでひとつひらめいたぞ!


「ユージン先輩、ナターリア先輩もお誘いして一緒に練習したらどうですか?」


 さきほどからアメリアさんと近接戦闘の攻防に花を咲かせていたユージン先輩に私は元気よく声を掛けた。


「は?」


 明らかに声のトーンが不機嫌寄りになったユージン先輩が私に向かって凄む。


 うわ怖っ!

 そんなに睨まなくてもいいじゃない。

 私の表情との温度差がやばい。

 

「いいね、それ」

「ですよね!」


 私の思いつきにアルフレート先輩が賛同してくれた。

 にこにこといつもの食えない笑顔をユージン先輩に向けるアルフレート先輩。この矛先が自分以外の人間に向くのを初めて見たけれど、味方になると頼もしいってのはこういうことか。


 …私はゲームのチートで知ったけども、アルフレート先輩も知っているのかな。知っていそうだよね…なんていうか抜け目ないもんね。


 さあてユージン先輩どうする?

 ナターリア先輩とユージン先輩がちょっと良い仲なのは分かってるんだから。


「せっかくだから彼女も誘っておいでよユージン。僕らと違って彼女は今年が初めてなんだしさ」

「む…」


 アルフレート先輩有利。

 そうそう、ナターリア先輩は私達お手伝い1年生と違ってこのダンスを完璧には覚えていないと思うな。


「ナターリア先輩は、衣装の手作りに苦戦していたのでダンスまでは手が回ってないと思います」

「そうなんだ。そしたら彼女は完璧主義だからダンス当日に困ってしまうよね」


「………わかった」


 私たちの会話を苦虫を噛みつぶしたような顔で聞き、ユージン先輩は絞り出すように言葉を出した。


(やった! あの朴念仁の心を動かしたぞ!)


 私とアルフレート先輩は視線を合わせて大きく頷く。

 本当はハイタッチくらいしたいところだけれど、ユージン先輩の手前その辺は差し控えさせていただこう。


 ユージン先輩はしばらく迷った後、ナターリア先輩を誘いに畜舎へと向かった。


 しめしめ。

 これでナターリア先輩との関係もいい感じになるはず!

 ほんとに本当にちょっとした事だけど、これが二人の為になったらいいな。

 だってここ、乙女ゲームの世界だもんね。

 乙女の恋はなるべく叶ってほしいもの。


「ありがとうございます! アルフレート先輩」

「いえいえ、どういたしまして」


 ユージン先輩を見送った私たちはお互いに顔を見合わせてふふふと笑う。


 ところで。

 エンドレスで踊り続けてふと気づく。


「…あのアルフレート先輩、普通にお上手ですね?」


 今気づいたのだけれど、アルフレート先輩ダンス上手い。

 まだぎこちない周りの先輩方に比べ、アルフレート先輩は全然迷うそぶりもなくステップを踏んでいる。


「うん、まあ去年もやったしね」

「あっ!?」


 そういえばそうだった! 

 アルフレート先輩達は去年、私たちと同じ様にお手伝い一年生としてこの課外学習に参加していたんだった! 

 ばかばか私のばか! 何で気付かなかったの? これで何度目だ!?


「でしたら練習はしなくても大丈夫だったのでは?」

「まあまあ、それはそれ。いいじゃない、皆の練習のきっかけにもなったし」

「それはそうですけれど…」


 実際アルフレート先輩の目論見通り、視界の端々で皆さんが練習をしている。

 いくら自主練といっても最初に始めてくれる人がいるのといないのとでは難易度が違う。

 ユージン先輩をダンスにけしかける事も出来たし、結果は万々歳だ。


「私も一度復習しておきたかったしね」

「そうですね」


 確かにそれはそう。

 いきなりぶっつけ本番なのはちょっと不安。


「それにロゼッタ嬢には私とも少しぐらい仲良くしてほしいからね」

「はい?」


 突然何かぶち込まれた。

 それはどういう意味です???


「君ときたら、ロイドやユージン、ナターリア嬢とは仲良くしているのに、私とはさっぱりじゃないか」

「え!??」


 …ええと、そうだっけ?

 今までの自分の行動を思い返してみる。

 ロイド先輩とは普段からお仕事一緒だし、競馬場にも一緒に行った。ナターリア先輩とはアクセサリーを一緒に作ったし、お裁縫も手伝っている。ユージン先輩には魔法を習ったし電気網も一緒に作っている。


 …あれ、本当だ。


「いつの間にかユージンとも魔法の特訓などしているし、私は電気だけでいいなんて寂しいじゃないか」

「む…」


 マズイ。

 思いのほか根に持ってらっしゃる。


「生徒会の中でも私だけ避けられている気がする」

「そ、そんなことは…」


 …無い、とも言えないかもだけれど。

 あっれー? どうしよう変な汗かいてきた。


「私のことが嫌いでは無いのならたまにはこうして付き合ってよ」

「えぇ…」


 いやわからん。

 この場合、どう答えるのが正解なの??


「たまにでいいから」

「ええと、…はい、それなら」


 常にフリーな時間はあまり無いわたくしですが、この夏を超えたら少し時間ができるとは思うので…それでいいならという気持ちは無いわけでもない。

 別にアルフレート先輩が嫌いなわけではないし…。


(お兄様がばちばちライバル視しているから意識しているだけだもんね…)


 そういや、お兄様は何でこんなにアルフレート先輩をライバル視しているんだろう。いつか機会があれば聞いてみたいな。


「それはそうと、君が小さい頃に、一度私と会ったことがあるんだけれど覚えている?」

「ええ!?」


 唐突に何の話!?

 いきなり昔話を始めたアルフレート先輩に私は目を丸くした。


「もちろん、ジーク君も一緒にね」

「お兄様も!?」


 そうなの!? お兄様と一緒に会った!? 

 なにそれ知らない話!!!

 突然の『推しの話題』ぶち込みに私は即座に食いついた。


「幼いころ会ったことがある?」

「そう」


 なんだその萌え展開!!

 推しのことでそんな知らない設定があったなんて!!

 しかしロゼッタの記憶を辿っても全く覚えがない。これは、お兄様がアルフレート先輩に逐一突っかかる原因になった出来事が分かるチャンス!? 大変興味深い情報です!!


「…すみません、覚えていません」

「やっぱりそうか。そうだね、君は小さかったしね」


 といっても、私たち歳いっこしか違いませんけど。


「よかったら詳しく教えてくださいませ!!」


 何度目かのターンを終えて、アルフレート先輩に詰め寄る。

 お兄様の情報とあらば、すべて回収するしかない。


「それはまた後日」


 そう言ってアルフレート先輩は今日一番の笑顔を見せたのであった。


 くそ!!

 そこでおあずけとか!!


 ほんと食えない人だな!!


 ぎりぎりと悔しがる私を見て満足なさった後、アルフレート先輩は完成した電気網に電流を流しきり、電気網は無事に完成した。


 うううう、なんかいろいろあったけどやったぞ!!

 わたしは頑張った!!






 ****





 本作を面白いな、続きを読みたいな、と

 思ってくださった方はぜひ、目次の下にある広告の下の★★★で評価をお願いします!

 執筆の励みにさせていただきます!


 ブクマも評価もたくさん増えるといいな~☆ 

 よろしくお願いします╰(*´︶`*)╯


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

「二軍落ちなんてお断り!」茨道上等!! オタク令嬢は乙女ゲーム世界で強引に推し活する! 柴犬丸 @sibairo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ