第103話 ダンスパートナー
「ところで、我が王子殿下はここで何をしているんです?」
そのままくるっと向きを変えたユージン先輩がアルフレート先輩に進言した。
そう! それみんな気になってたけど言えなかったやつ!
さすがユージン先輩! 魔法の師匠の次は王子のお目付役ですね!
「見学?」
「他にもやることがあるだろうに、暇人か?」
ユージン先輩の歯に衣着せぬ物言いは相手が王子殿下であろうと変わらないらしい。そういうところはちょっと尊敬する。
「暇人とは失礼だな、私は単に出番を待っているだけだよ。私の役目は『完成した電気網に電気を流すこと』なのだし、まだ電気網は完成していないのだから休んでいたっていいだろう?」
鋭い切り口で諫めた家臣をカウンターで仕留める王子の言葉に一同が口ごもる。
そう、それはその通り。
電気担当。
耳に痛いが間違いない。
私とユージン先輩、両方に微ダメージが入った。
はい、すみません。
電気網はもうちょいで完成するはずです。農場をぐるっと一周しているのでほんと、あともうちょっとです。すみません。
農場をぐるりと囲むように作られた柵には現在進行形で今も着々と鉄線が張られている。
ところで私が電気網の作成を手伝わないで魔法の特訓にいそしんでいるかというとですね、
…ぶっちゃけ不器用な私は作業メンバーから外されたからです!
私もちゃんと手伝おうと思っていたのに!
確かに針金を絡ませちゃったりして作業の足を引っ張ったりしたけれども!!
私、発案者なんですけどね!?
ちょうど農園メンバーの中にモブBがいたりして、なんやかんやと説明していたら、ユージン先輩と二人がかりで改善案やら改良案を出してきて挙げ句の果てに「ロゼッタさんは休んでてくれていいですよ」と笑顔で言ってきやがって現在に至るですよ。
いや、二人に任せていた方が良いものができそうなので私的には問題ないですけれど。
…拗ねてなんていません。
「ロゼッタまだやる?」
「いえ、ぼちぼち休憩します」
さすがに私も疲れたし、連日ゴーレムを起動しまくっているシルヴィ君にも疲れが見えている。
(私が別件でいろいろとお世話になっているので私のせいでもあるのだけれど)
「じゃあボク、ちょっと電気網の中継地点の仕掛けが心配だから見て来るね」
そう言って天使のような笑顔のシルヴィ君は呼び出したゴーレムを消して柵沿いに駆けていった。
うん、ありがとう天使。
しかしこの夏期合宿シルヴィ君がいなくちゃできないこと山のようにあったんじゃないかと思う。
ありがとう影の働き者。
シルヴィ君だってれっきとしたゲーム1軍の土属性の攻略者(ショタ枠)だというのに、普通にめちゃめちゃ協力してもらっているよね、こんなに頼りになるショタ枠キャラって将来有望すぎると思います。
「今度こそ特訓はおしまいかな?」
「ええと、はい」
本番は明日なので、魔力を温存しつつ後は自主練である。
アメリアさんを見れば、ユージン先輩にさっきの魔法の攻略点を訪ねている。
…ううう、みんな向上心の塊かよ…。
私を一人にしないでよ…。
気まずいじゃんよ…。
「じゃあ少しだけダンスのおさらいにつきあってもらってもいいだろうか」
「!!」
きた、ダンス!
ここでそのお誘いですか。こそばゆくも甘い展開!
なんかもう測ったように正確なタイミングで感心してしまう。本物の王子様みたい! あ、王子様だった。
「はい。お付き合いします」
やっぱり目的はこれだったよね。もちろん忘れてないです。
こそばゆいけどやるしかない。
電気網もまだ完成していないし、アルフレート先輩ばっかり待ちぼうけさせるわけにもいかない。
アルフレート先輩が貸し出し用の小型の蓄音機を取り出して曲をかける。
「さてと、これで準備よし」
笑顔で差し出された手を取ると、まるで舞踏会の様に優雅にリードされた。
ひいい、緊張する。
このダンスは難しいものではないのに何でか緊張してしまう。
蓄音機から流れ出た音楽が風に乗って、広く広く響き渡っていくと近くで作業中の皆から視線を集めているのを肌で感じた。
「このまましばらく踊るからね」
「承知しました」
本当は1フレーズ踊りきれば他のパートナーと交代するのだけれど、今ここには私達二人しかいないので必然とパートナー交代はせずに踊り続けることになる。
「体力は平気? 特訓で疲れてない?」
「大丈夫です。まだまだ元気です」
「それならよかった」
ダンスの合間に完璧なロイヤルスマイルで気遣われるとなんだかくすぐったい。
アルフレート先輩、本当に乙女ゲームの王子様なんだよなぁ…。完璧すぎる。
簡単なダンスのはずなのに、なんでかぎこちなくなってしまう。
アルフレート先輩のあの青い瞳に見つめられると何でも見透かされているような気持ちになるというか…見透かされている、っていうか観察?されているみたいな感じ。
切り株の上に置かれた小型の蓄音機からエンドレスに流れ続ける曲。
音楽に引き寄せられるようにして一人また一人と増え、私たちと同じように練習を始める人も現れ始めた。
気が付けば蓄音機をベースに、笛を持ち寄った人、弦楽器を持ち寄った人など、楽器を持った人が数人やってきて生演奏になっている。
「よかったら皆も練習していかないか?」
アルフレート先輩は午前中の作業を終えて農園の脇を通りがかる生徒たちにぽつりぽつりと声を掛けている。
もちろん農園からも少しずつ参加者が増えて、何組かはもう一緒に輪になって踊りに参加している。
(こういうのって練習したくても、一人ではちょっとやりにくいよね)
当日に恥はかきたくはないけれど、練習もしにくい。思春期の男女であればなおさらだ。
うーん、さすが。
こういうところはさすが生徒会長って感じするなあ。やっぱり。
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