第5話
それにしても馬車で一週間の距離を徒歩で行くことになろうとは。白馬の二頭立ての馬車は無いと思っていたけど、寄り合い馬車くらい乗れるのではと思っていたあてが外れた。と言っても少しだけ予想していたんだけどね。あの伯爵夫人が気前よくお金を出すはずがない。ケチれるところはケチるのは当然だから。
「どうしたルイーザ。何をブツブツ言っているのだ。さあ、今日も素晴らしい朝だ。こんな気持ちの良い朝は……、そうだな。走ろうじゃないか」
ベアトリスは突如、走り出す。旅行のための荷物を沢山背負った状態で。
「待ってくださいベアトリス様」
ルイーザも遅れて走り出す。ベアトリスと同じように荷物をたんまり背負ってる。少なめにしてもらったが、それでも長距離走れるような状態ではない。だからのんびりと後から行くのもありではあるが、何より置いていかれるのは嫌だった。
ルイーザがヘロヘロになりながら半刻ほど道沿いに走り続けたところでようやくベアトリスに追いついた。
「寒くなってきたから走ると体が温まって丁度いいな」
ベアトリスの言葉にルイーザはゼエゼエと返答するだけ。少しでも休憩がないと動けそうにない。小さな城下町の端に来ただけでこれほど疲労していては先が思いやられると何故かヒンズースクワットをしているベアトリスを見ながらルイーザは呼吸を整える。
「やはり旅は楽しいものだな」
「先月、王都から城に戻ってきたばかりではありませんか」
「あの旅は良くなかった。商人の馬車に乗せてもらったから体が鈍ってしまった」
ルイーザは多少体が鈍ってもいいから馬車に乗りましょうよ。と言いたくなったが言うのを止めた。言っても無駄なことは自分が一番知っている。それより、どうベアトリスの体力を無駄に消耗させるか。そのことを考えたほうが幸せそうだ。
休憩を終えた後、ゆっくりと歩き始めた二人だが、ルイーザの足取りは重い。想定していたより体力を消耗している。腰を下ろして休みたい。今日中に伯爵領から出るまで進みたいと計画していたが、既に暗雲が立ち込めているような気がルイーザにはした。
色んなことを考えると余計に辛そうだ。ルイーザはなるべく景色を見ることにする。意識を他に向けることでちょっとでも気持ちを分散させることが出来る。
秋の街道沿いの田畑では、ちょうど収穫の時期で多くの人間が働いている。そのうちの幾人かはベアトリスに気づいて頭を下げたり手を振ってくる。仕事の邪魔をする訳にもいかないから余計に立ち止まるわけにはいかない。
だから、昼時まで何とかルイーザも我慢して歩き続け、川沿いの集落まで辿り着くことができた。それほど広くない河川ではあるが渡し船で対岸に行く必要がある。ベアトリスとルイーザは空いたお腹を膨らまそうと茶屋に入る。
「お久しぶりです。戻られていたのですかベアトリス様」
茶屋に入るとむさっ苦しい男たちが数人ベアトリスに話しかけてくる。
「こんなところでどうしたのだ?」
「いえ、ここに橋をかける計画があり、働いております」
「騎士団がか?」
「はい。伯爵の命でございます。それより、王都はいかがでしたか?」
「思ったより質は低いぞ。確かに強いやつもいるが、平均すれば我らが騎士団のほうが圧倒的に強い!」
ベアトリスが言うと男らが歓声をあげる。
「ベアトリス様、折角だから、お手合わせをお願いできないでしょうか?」
一人の男が言うと、次から次へと申し込みが来る。このままだと全員と稽古をしかねないと感じたルイーザは口を挟む。
「ベアトリス様は今朝から、歩いてここまで来られて疲れています。手合わせは代表で二、三人がよろしいかと」
こうして仲間内で決められた一人目の男がベアトリスと対峙する。男は伯爵より大柄の男でかなりの良い体つきをしている。真っ当な勝負では勝てそうにもない。そのことをわかっているのかいないのか、ベアトリスは涼し気な表情をしている。
「では、行くぞ」
ベアトリスはレイピアを挨拶代わりに男に向かって突く。鋭い剣先が男を追い詰めていくが、男に焦りは見られない。ベアトリスのレイピアを後ろに下がりながらしっかりと自分の
伯爵令嬢は脳筋なので婚約破棄をされたら決闘をします 夏空蝉丸 @2525beam
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