第57話 三つ目のモグ
カーテンが半分閉まった窓から、グウは外をのぞいた。
外は道路だ。大きな道路を挟んで、高層マンションが並んでいる。
この風景のどこかにストーカーが潜んでいて、こちらを監視している。
どこだ? どこから見ている?
「あ、また来た」というセイラの声。
ストーカー男・バジルからのメッセージは一件で終わりではなかったらしい。
写真に続いて、合計三件。
『この男だれ?』
『彼氏作るのアリなんですか?』
『家でデートしてもバレてるから』
(デート?)
グウは文面に違和感を覚えた。
(5人なのにデート? それに、“この男たち”、じゃなくて、“この男”……?)
「俺しか認識されてない……?」
もしや相手はギルティにも、魔王にも、エレナが来ていることにすら気づいてないのか?
「お、お前! なんでお前が彼氏だと思われてるんだ!」
魔王が取り乱し気味にグウを指差した。
「知りませんよ! 向こうが勝手に勘違いしたんでしょ! たぶん見えてないんですよ、俺しか」
セイラの家の窓は北側に一つだけだ。
おそらく、バジルは窓からしか部屋を監視していない。だから南側にある玄関からの出入りは知らないのだ。
窓は半分カーテンが閉まっていて、外から見える範囲は限られている。
隣にいる魔王はカーテンの死角になって見えず、壁際のベッドに腰かけているギルティも同じく見えていないのだろう。
「ちょっと捜査会議を。ギルティ、魔……デメ君、こっち来て」
グウは二人を玄関の外に呼び出した。
「さっきの写真ですが、少し上の角度から撮られているように見えました。なので、北側にある建物で、この二階より高い場所……かつ、あまり上層階だと角度的に見えないんで、おそらく四階か五階くらいのビルの窓、あるいは屋上から撮影されたんだと思われます。そして、今もそこから監視している可能性が高い」
「ふむ」
「たしかに……」
二人がいまいちピンときてないようだったので、グウは続けてこう言った。
「向こうから見えるってことは、こちらからも見えるってことです」
「あ、なるほど! その条件に合致しそうな場所で、こっちを監視してる怪しい奴を探せばいいってことですね!」
「そう」
グウは
「だが、問題はどうやって探すかだ。この家の窓からキョロキョロ見てたんじゃ相手にすぐ気づかれるだろうだし。かといって地上からじゃ見つけにくい。……いっそセイラちゃんにバジルを呼び出してもらうって方法も考えたけど、男と一緒にいると知られた以上、呼んでも来なさそうだしな……」
「俺が探そう」
魔王が言った。
右手をすっと前に伸ばし、「魔界大百科」とつぶやく。
すると、手の平からぶわっと文字が湧きだして、アパートの廊下に魔法陣のような文様を描いた。
「ひゃっ! 何これ、何魔法なの!?」
足元をカサカサ動き回る文字を避けるように、ギルティが後ずさりした。
「鳥の章。三つ目のモグ、ミニサイズ!」
魔王がそう唱えると、文字に覆われた廊下が水面のように揺らぎ、三羽の茶色い小鳥が飛び出してきた。スズメより一回り大きいくらいのサイズだが、よく見ると小さな
「かわいい……!」
ギルティが両手で
(可愛いか?)
グウは小さく首をかしげた。
「よし行け! 一号と二号は空から北側のビルを捜索! 三号は屋根から周辺を捜索、怪しい奴がいれば俺に知らせろ」
魔王がそう命令すると、三羽の小鳥は「ピゲエエエッ」と鳴いて、空に羽ばたいていった。
「あいつらは視覚を共有してるから、一羽が怪しい奴を発見すると、近くにいる一羽が俺に報告してくれる」
「さすが魔王様! 索敵と通信を兼ねてるんですね! 便利だわ!」
ギルティが遠ざかる小鳥たちを見上げて言った。
「ふふ」
魔王は褒められてちょっと気を良くした。
* * *
部屋に戻ると、セイラとエレナが立ち上がって、ただならぬ雰囲気で部屋の一点を見つめていた。
「どうしたの?」
グウがたずねた。
「チェキがないんです……」
セイラが答えた。
「チェキ?」
「はい。机の上に飾ってあったはずのチェキがなくなってて……ちょっと前にリナが来たときは確かにあったのに……なんで……」
「もしかして、ストーカーが部屋に入ったんじゃ……」
エレナが深刻な表情でつぶやいた。
「うそ……」と、セイラが息をつまらせる。
「やばいやん……もし盗聴器とか仕掛けられてたら……」
エレナの言葉に、セイラの顔がさっと青ざめた。
「落ち着いて。盗聴器は多分ないよ。ストーカーは俺たちの人数を把握してない。盗聴器で盗み聞きしてるなら、男とデート中だと思い込んだりしないはずだ」
グウが冷静に言った。
「きゃあっ、何あの鳥!?」
エレナが急にセイラに抱きついた。
「め……目が三つあるんやけど!!」
彼女が指さしたほうを見ると、なんと、三つ目のモグ(ミニ)が
「わっ、ほんとだ! 突然変異!?」
「げっ」
魔族たちは焦った。
「ちょ、三号! こっちじゃないって! 玄関のほうに回れ!」
魔王は慌てて三号に向かって手で合図を送る。
「鳥と話してる!?」
(おぉい!! ちゃんと人前に出て来ないように調教しとけよ!!)
グウは心の中で叫んだ。
「何なんですか、今の鳥?」
「あれは……その……ドローンです!」
グウは苦し紛れに言った。
「ドローン!?」
「あれが!?」
魔族たちはドローンを回収するために、逃げるように玄関から外に飛び出した。
魔王の腕に降り立ったドローンは「ピゲエエッ、ピゲッ、ゲッ」とあまり可愛くない声で鳴いた。
「三号はなんて?」
魔王は驚いたように目を見開きながら、こう告げた。
「二号が……魔法攻撃を受けた」
「何ですって……?」
どういうことだ。
ストーカーは人間じゃなかったのか?
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