第41話 完全処分場
完全処分場。
シレオン伯爵が運営する、無限ゴミ処理施設。
複数の異空間から成り、廃棄物の内容によって、行先が異なるという。
人間界にとっては、何でも捨てられる魔法のゴミ捨て場であり、魔界最大の収入源だ。
「これが……」
ギルティは圧倒された。
はじめて見る空間魔法。
草原は遥か彼方まで続いているが、おそろしく遠くのほうに、うっすらと山の連なりが見えるので、その向こうにもまだ空間が広がっている可能性があった。
(話には聞いてたけど、これほど広大な異空間を構築できるなんて……)
「僕の屋敷で暴れられたら迷惑千万だけど、ここなら問題ないからね」
ブラウン管テレビに腰かけて、そう話すシレオン伯爵。
その背後には、大量のモニターや事務机が積み上げられていたが、一つだけ100インチくらいの大きなモニターがあり、先ほどまでいた会議室の光景が映し出されていた。
(んんん?)
しかし、よく見ると、それはモニターではなく絵だった。
本物そっくりの、恐ろしくリアルな絵。
ちょうど会議室に飾ってあった風景画と同じくらいのサイズだ。
(もしかして、あの絵を使って出入りするのかしら?)
「ギルティ、ちょっと下がったほうがいいかも」
「え?」
グウの声に、ギルティは彼が見ているほうに視線を向けた。
数メートル先、
そして、彼女の視線の先――少し離れた草原の上には、カーラード議長。
バチバチな二人が
「理屈の通じぬ阿呆め。貴様のような救いようのない阿呆は、ぶち殺したほうが世の中のためになる」
カーラード議長はドスの効いた声で言った。
「いいねえ。やれるもんならやってみろよ」
ベリ将軍はニカッと笑った。
グウはスッとギルティの前に進み出た。
(はっ、もしや隊長、止めに入るの!?)
「あ、あのおー……お二人ともぉ~」
思ったより情けない調子で、彼は呼びかけた。
「いったんお茶にしませんか~?」
「どうせやるなら派手にやろうぜ、カーラード」
「言われるまでもない。派手にぶち殺してやるから、次は知的生命体に生まれ変われるよう祈っておけ……!!」
「うん、聞いてないな……」
グウはあきらめた。
直後、巨大なバスが宙を舞った。
ベリ将軍がぶん投げたのだ。
バスはゆるい放物線を描いて、カーラード議長のほうへ飛んでいく。
しかし、議長は落ち着き払った様子で、地面に手をかざした。
ボコッと土が盛り上がり、生えてきたのはトゲトゲのついた巨大な金棒だった。
彼はその金棒を手に、バスに向かってフルスイング。
バスはかなりの飛距離を叩き出して、特大ホームランとなった。
間髪入れずに、左後方からベリ将軍の回し蹴りがくる。バスの死角を利用して背後にまわりこんでいた彼女の蹴りが、カーラード議長の後頭部を狙う。
が、議長の反応は速く、その足をショートブーツごとわしづかみにすると、思い切りぶん投げた。
ベリ将軍は猛スピードで回転しながら飛んでいき、廃車の山に頭から突き刺さった。
赤いミニスカートがヘソまでめくれて、派手なレースのパンツが丸見えになる。
今日は黒だ。お尻を覆う面積が少ない。
彼女は足をパタパタと動かし、「よいしょっ」と反動をつけて立ち上がった。
涼しい顔で笑みを浮かべる少女には、ダメージを受けた様子はない。
また、あれほど豪快にパンツを見せながら、少しの動揺も見られない。パンツなど見せて当然といわんばかりの余裕の表情で、彼女はピンク色の長い髪をファサッと払った。
パラパラと落ちた髪が、一瞬でワニくらいの巨大な蛇となり、群れをなしてカーラード議長に襲いかかる。
しかし、議長は眉ひとつ動かさず冷静に対処。すべての蛇を的確に金棒で殴り殺していく。
そして、今度はカーラード議長が大技を披露した。
金棒で地面をドンと叩き、「出でよ!! 赤毛の鬼ドムウ!!」と唱える。
そのとたん、大地が揺れ、地面が盛り上がり、5階建てのビルくらいありそうな巨大な鬼が土の中から這い出してきた。赤く長い体毛におおわれた、気味の悪い鬼だ。
鬼は巨大な拳を振りかぶると、ベリ将軍に向かって振り下ろした。
が、彼女はそれを片手であっさりと受け止める。
小柄な少女の背丈ほどもある拳。それを難なく押し返したと思ったら、今度はその鬼の拳めがけて、強烈な右ストレートを打ち込んだ。
パンチの瞬間に、
バゴオォンッと、ものすごい音がして、鬼の巨大な指は粉砕され、骨や血が飛び散った。
二人のド派手な戦いぶりに、ギルティは目と口を開いたまま固まっていた。
(これが四天王同士の戦い……たしかに異空間じゃなきゃ大惨事だわ……)
「よし、避難しよう」
と、シレオン伯爵が言った。
「ですね」
と、グウもうなずく。
「ええっ!? 止めなくていいんですか!?」
「止めるって、誰がどうやって?」
グウは遠くを見るような目で言った。
「そ、それは……」
「ほっとこうよ。またあとで様子を見に来ればいいさ」
シレオン伯爵はサクサクとゴミの山を登り、会議室が描かれた絵のほうへ向かう。
「そうですね。二人が疲れた頃合いを見計らって止めにきましょう」
(ええ……そんな感じでいいの?)
「ギルティ、置いてくぞ」
「は、はい!」
二人はすんなりと絵を通り抜けた。
ギルティも同じように会議室の絵に片足をつっこむ。水面のように、絵の表面に波紋が広がった。
(うわあ、変な感じ!!)
思い切って絵をくぐり抜けると、元いた会議室に戻ってきた。
「お茶でもしながら気長に待ちますか」
「そうだねぇ。あ、そいや、ギルティちゃんだっけ?」
「えっ、あ、はい!」
急に伯爵に声をかけられたので、ギルティは驚いた。
「グウから噂は聞いてるよ。君、人間が使うヒト魔法が得意なんだってね。図書室に魔導書がいっぱいあるから、見ていく?」
「ええ!? は、はい、ぜひ!」
(ぜひ、って言っちゃったけど、今そんなことしてる場合なのかしら?)
魔導書は嬉しいものの、展開に追いつけないギルティだった。
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