第2話 ひとりよがりの恋。
その恋が終わって、もうずいぶんたつけれども、ひとりよがりの恋もよし、と想う。わたしは下宿でじゃがいもをむいて、彼とのアメリカせいかつを夢見ていた。ルート66をドライブするんだ、なんて想っていた。かれは、じぶんよりもあたまのよい女性が好きそうで、おやっさんが35歳まで結婚するな、っていうっていっていたから、彼が35歳くらいのときに、もう、たぶん、一生、暗記している電話番号に電話してみた。そしたらフレンドリーにおかあさんがでてきて、わたしとかれとのお芝居のデートを二階の客席からみていて、あおいワンピースに、真っ赤なヒールをはいていて、その印象が鮮明で、と、好印象を抱いていたみたいで、かれのいまの電話番号をおしえてくれた。わたしは、そんな服装をしていたことも、恥ずかしく想った。たぶん、真っ赤なヒールといっても、ビニールでできたもので、あおいワンピースといっても吉祥寺のすぐのところにあった、鈴屋、という、高校時代、からかっていた店で、セールで買った、もので、どっちも5900円くらいだったと思う。わたしはこっぱはずかしくなった。そんな格好をしていて、トムソーヤの冒険、業界関係者のみを、青山子ども自由劇場にみにいったことを。だから、振られるんだ、って想った。だけど、かれのおかあさんは、わたしのことをいちども、わるくいったことがないのだ。とうきょうのおじょうさまって、ほんとうにそうみたい。かれに電話をしてやっぱりかれは、かれよりもあたまのよい女性、ワシントン大学政治学部修士課程卒のひとと結婚したことを知った。おしあわせに、って想った。
だけれども、わたしがかれとつきあっていて、かれがずっとわたしのとなりで、お天気のよい日にのびをしたり大きく笑ったりしているとおもっていて、かれとの生活で描いたものは、わるくないことだと最近想うようになった。かれとは、大学二年生、三年生、四年生、でほぼ、終わった。だけれども、いろんな想い出ができたし、かれと、まじめにつきあっていたときのじぶんが将来描いた家庭像みたいなものは、桜堤団地か、富士見台団地に住み、翻訳業みたいな、きままな、さほど、儲からない仕事をして、わたしはキッチンにたち、葉っぱ付きの大根をいっこ100円で買って、それをおでんにしたり、佃煮にしたりして、節約生活をおくることであった。もし、こんなこといったらあれだけれども、女子ばっかりでつどっていて、男は女の敵である、ばっかりはなしていたら、わからなかったこと、強気でいれないかなしみ、みたいなことやら、それでも、やっぱり、およめにいってもこまらない、400選の本がいまも手元にあって、わたしも、彼のお誕生日に、国立の古本屋さんで、3500円の不思議の国のアリスの本を、英語原書をプレゼントして、彼とのしょうらいがあるとおもっていたころ、ロンドンでピーターラビットをかって、かれのためにピカデリーサーカスのかどっこにあるCDショップでCDかって、わたして、ほぼ、ばいばい、になったことも、人生の失意も、もっと、こういう洋服を着て、こういうはなしかたをしていれば、かわいらしいマカロンみたいにいれば、どうだったかなあって考えることもうまくいくことだけが、恋にとってよいことでもない感じがする。わたしが彼によかれとおもって、いったり、していた、こと、すごく堅物女史みたいなことも、それは、それで、真剣にかれのことをおもっていっていたんで、そういう自分が、ほんとうはちいさなアパートで、永遠に編み上がらない、白いカーディガンを編み続けていて、その素朴な感じや、アパートのひのひかりや、うらに、木造のアパートがあって、一橋の美術部を見学にいったときに知り合ったおんなのこがおふとんを干したりしているのをみたりするのも好きだった。そういうひとりよがりの恋だけれども、女子の夢の延長線上に、わかいおとこのこのきもちがないのは、ふつう、のような気もする。だから、うまくいく、うまくいかそう、として、いくらでも、きにいってもらえることばとかいおうというきもちもさらさらなくて、そら、振られるわ、みたいな立ち振る舞いの自分も好き。
吉祥寺と青空 @usapon44
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★4 エッセイ・ノンフィクション 連載中 1話
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