灰色の世界の流行
灰色の世界には灰色の住民が住んでいる。
身体の上から下まで見に纏う服という服が灰色なのだ。
「よぅ、灰色」
「お前も灰色じゃねぇかよ」
この世界ではこういうボケとツッコミが大流行している。
でも俺っちはそれを言ったことがない。言う相手がいないからだ。
できることなら俺っちもみんながやってるみたいに「よぅ灰色」なんて言ってみたいものだ。
だがどうやら俺っちと似たような境遇のやつが少しばかりいるらしいんだ。まぁ普段生きてて気がつかないんだがな。
まぁ今はそんなことはどうでもイイ。俺っちは久しぶりの買い出しに来てる。部屋の食料も尽きかけているからな。
「お客さん」
横から声がした。俺っちは人と話すのが苦手だ。だってなんかまぁ、いろいろ考えちまうからだ。無視しよう。
「ちょっと、お客さん」
もう、うるさい。そんなに話しかけられたら買い物に集中できないじゃないか。
チラリと横を見る。店員と思わしき人もやはり全身灰色のネズミ人間みたいだ。
店員は上からそう教育されているのか。腰を60°ぐらい折り曲げて俺っちの横で黙っている。
「お客さ…」
しばらく無視していた。無視してマカロニパスタの原材料を見つめていたら次第に店員の声が小さくなっていく。
「おきゃ…むにゃ」
むにゃ?
不思議に思って俺っちはとうとう「なんですか?」と答えた。店員は腰を折り曲げたままなんと眠りかけていた。
「むにゃむにゃ…ねこちゃん…だぁ」
何を言っているのか分からない。どうやらここの店はかなりブラックみたい。たったまま寝てしまうまで働かされてしまって。かわいそうに。
「むにゃぁ…はいい…ろ」
灰色?はいいろ?
「灰色と言ったか?おい、おい‼︎」
いくら肩を叩いて揺さぶっても起きない。腹を殴っても、髪をわさわさしてもまつ毛を抜こうとしてもピクリともしない。
「むにゃぁ…はい…いろ」
惜しい‼︎あと少しだ。あと少し!頼む。どうか俺っちに「よぅ、灰色」と言ってくれ。そうしたら俺は返せるんだ!
誰にも気づかれることもなく俺は「お前も灰色じゃねえかよ」と痛烈なツッコミを入れることができる。
「…にょ…はい…」
あと少しで俺も流行に乗ることが…
「よ…う…はいい…ろ…」
来た‼︎今こそ
「お前も…」
「お前も灰色じゃねぇかよ!どんなとこで寝てんだ!馬鹿タレ。ごめんなさいね、お気になさらず」
いつまでも俺っちは流行にはのれないらしい。もう流行も何もかもどうでもいいやぁ。
「ふわぁぁぁ…帰って寝よう」
日輪と月輪 ツカサレイ @TsukasaReiji
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。日輪と月輪の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます