スマホゲームの低レアキャラに転生したので素材にされないように頑張る。

４．思考

　素材にされない、言うのはいいが、しかしどうやってやるのか？

　答えは簡単。素材にされないにはどうすればいいかというと、信頼値を高くする、これだけだ。だが、そうは言っても低レアキャラでは中々それは難しい。

　……でも、それはゲームの中での話だ。ここはゲームそのものではない。ゲームが現実化した世界だ。なにか手はあるはずである。

　ひとまず、信頼値について考えてみよう。信頼値はなにによって規定されるのか？

　それは、キャラのステータスである。

　キャラにはステータスがあり、信頼値にはステータスの値が関係している。ステータスは、パーソナリティと能力の二つがある。パーソナリティはそのキャラの性格というべきもので、なにやら有名な性格診断のものを使用していた。外交的か内向的かなどのいくつかの要素があって性格のタイプを分類する、というものである。キャラの性格がわかるというので、ファンの間では喜ばれていた。

　このパーソナリティと信頼値は大きな関係がある。例えば、外交的なほうが信頼値は高い。他にも、要素のなかには、悪か善かみたいなものもあり、当然悪になると信頼値が大きく下がる。

　高レアキャラほど、コミュニケーションにおいて信頼を抱かれやすいような性格を持っている傾向にあった。

　また能力値も重要である。能力値とは、言ってしまえば、脳のスペックであった。sandboxの世界においては、身体能力はあまり意味を成さない。強化服などのアイテムがあるので、多少の差は無意味なのである。つまり個人の能力を決定づけるもの、それは脳となる。運動神経や思考能力、頭の良さなどは、脳のスペックに影響される。ちなみに、そのため、キャラの脳のスペックが、レアリティに関わっている。また脳のスペックはパーソナリティと異なり、強化素材で強化することが可能である。その強化素材が、つまりキャラを処分した時に得られる素材のひとつなのであるが……。

　話を戻そう。

　能力値が高ければ、活躍し、活躍すれば評価値があがる。活躍、つまり拠点内外で何らかの任務、例えば、拠点内であれば拠点の設備の管理をするとか、食堂の管理や掃除、住人間のトラブルの調停、拠点外であれば、モンスターを倒したり外を探索して素材を手に入れる、などを行い成功する。そうすると住人内で一目置かれるというわけである。多少、パーソナリティが悪くても、能力値が高ければ、信頼値が低くなるということは無い。ただ、能力値が低いと失敗を繰り返し、信頼値がさがる。少しばかりパーソナリティが良くともどうにもならない。なかなか世知辛い話である。

　ただし、パーソナリティと能力は互いに補い合うもので、例えばいくら能力が高くとも、パーソナリティで臆病であったり迂闊であったりといった部分があると、充分に能力を発揮できずに失敗することが多くなる。

　しかし、パーソナリティと能力、どちらも大事であることには変わりがない。

　そして、俺は、どちらも低い。リーダーシップをとれるような性格ではないし、誰とでも仲良くできるような人間でもない。能力値も、俺の外見から判断するに、俺は最低レアのキャラであるので、低い可能性が高い。

　……どうすればいいんだ？　いや、待て。なにか方法があるはず。それに、完全にゲーム通りというわけでもないはずである。ゲームは現実と比べて、多かれ少なかれ単純化されている。

　例えば、ゲームに置いては信頼値は住人内での、と限定されていたが、現実はそうではないだろう。個人間の関係や、特定のグループ内での関係も重視されるはずである。

　ともかく、当分の目標は、信頼値をあげること、それに尽きる。信頼値が高ければ、AIも俺を処分しようとは思うまい。信頼値をあげるには、交流するか活躍するか、どちらかである。そして住人内で敵視されたり、重大な失敗をしたりすることを避ける。これにつきる。

　そしてそれにはやはりゲームの知識が役に立つはずだ。

　よし、と俺は立ち上がった。ホールの隅で座り込んでいても仕方がない。もう一度、拠点内を探索してみるとしよう。なにか新たな発見があるかもしれない。

　俺はまた歩き出した。薄暗いホールに、足音が反響した。