幸せになりたいな(バッドエンド版)
龍淳 燐
幸せになりたかったな……。
幸せになりたかったなぁ……。
病院のベットに寝ながら、私はサイドテーブルに飾られている一枚の写真を眺めていた。
写真に写る男子高校生を四人の女子高生が囲んでいる写真。
うち二人の胸には、新入生を表す赤い造花が付けられている。
五人で撮った最後の写真。
写真に写った女子高生四人のうち、三人はもうこの世にはいない。
そして、写真に写った女子高生四人の最後の一人、私ももう長くはないだろう。
「涼君、ごめんね。 本当に独りぼっちにしちゃうね。 元気になって四人で涼君に許してもらいに行こうって頑張ってきたんだけど……。 絵美姉さん、瑠偉ちゃん、静香、私ももうすぐそっちに行くことになるみたい。 五人で、みんなで幸せになりたかったなぁ……」
そして、私はそっと静かに目を閉じると、涙が一筋零れ落ちた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
自宅近くの少し大きな公園で私達は涼君と対峙していた。
涼君のお姉さんである絵美さんとその妹の瑠偉ちゃん、涼君の恋人である私こと鈴音と私の妹の静香を寝取られた涼君と、私たち四人を寝取った響君。
半年前までこんなことになるなんて思いもしなかった。
「どうしてだよ! なんでそんなやつと! 静音、絵美姉、瑠偉、静香ちゃん」
「涼君、ごめんね。 もう……」
「涼兄ぃ……」
「涼お兄ちゃん」
「涼……」
私も絵美姉も瑠偉ちゃんも静香も、眦に涙を滲ませ涼君を見つめている。
響君が、涼君を小馬鹿にするように嘲りながら、私達の代わりに言った。
「ま、そういう訳だ。 半年もこいつ等を放っておいたんだ、俺がお前の代わりにたっぷり可愛がってやったんだ。 感謝されこそすれ、文句言われる筋合いはないな。 こいつ等はもう心も身体も俺のもんだ。 諦めろ。 じゃあ、みんな行くぞ」
「うん、響君。 じゃあバイバイ涼君。 もう会うこともないと思うけど、涼君の幼馴染でいられて、恋人でいられて、幸せだったよ……」
「バイバイ、涼兄ぃ……」
「バイバイ、涼お兄ちゃん、大好きだったよ……」
「さようなら、涼……元気でね」
「ちくしょう!、ちくしょう!」
涼君が地面に膝まづき、俯いて涙を溢しながら悔しさを滲ませた声を上げ続けていた。
その声を聞いて胸が張り裂けそうになるのを我慢して、私は、私達は響君に付いて公園を後にしたのだった。
暫らく五人で無言で歩いていると、響君が深々と溜息をついて私たちに話し掛けてきた。
「本当にあれで良かったのかよ?」
「仕方ないよ。 あの時響君達が助けてくれなければ、もっと最悪な形で涼君に知られていたかもしれないし……。 でも、響君はよかったの?」
「うん? 何が?」
「だって学校も辞めちゃうし、美女二人に、美少女二人を手籠めにした悪い間男だよ?」
「そうよねぇ。 しかも病院や引っ越しの手配、両親への事情説明、警察への被害届の提出、弁護士の手配、今後の生活の面倒まで何から何までお世話になっちゃって、申し訳ない気持ちで一杯だけど、事情を知らない人から見ればどう見ても女誑しの寝取り男にしか見えないわよ」
「「くすくす」」
「絵美さん勘弁してよ。 ま、お金持ちの気まぐれだとでも思っててくれればいいよ」
「それで安心できないから、聞いてるのよ。 丁度いい機会だから教えて、どうして私達を助けてくれたの? まさか、貴方が今回の件の本当の黒幕なのかしら? それとも私たちを何処かに売る気じゃないでしょうね?」
「黒幕なんかじゃないし、そんなことしないって。 まあ、俺が信用されてないってのは仕方ないことなんだけれども。 あんまり面白い話じゃねえよ。 先ず、学校の件は心配しなくていい。 これでも俺、大卒だから」
「「「「え!?」」」」
「勿論、日本じゃなくて米国のな。 スキップってやつさ。 んでもって、岩井響って名前は偽名なんだよ」
「「「「はぁ!?」」」」
「俺の本当の名前は、ヒビキ・ロックフォアード」
「ロックフォアード?」
「「「?」」」
「はあ~、日本じゃそういう扱いだよな……。 世界最大の企業グループ・ロックフォアード財閥、その現総裁が俺なのよ」
「そういう嘘はいいから、ちゃんと答えて!」
「ええ、絵美さん、それ酷くない? これでも真面目に答えてるんだけど……、まあ詳しいことはホテルに着いてから話すよ。 それまで待ってて」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「響様、絵美様含め四名様のパスポートの準備が整いました。 明後日の飛行機でアメリカへ向かい、その日のうちに薬物中毒専門の病院へ入院となります」
「ああ、わかった。 それでジョンにローザ、彼女達に俺のことを説明してもらえるか? 俺が説明しても全然信じてくれなくってさ」
「まあ、そうでしょうね」
「響はまだお子ちゃまだからねぇ~」
「うるせ~よ」
「では、私から、日本名岩井響様ことヒビキ・ロックフォアード様は間違いなくロックフォアード財閥の総帥であらせられます。 そして、私達ジョンセルジュ・サーセスと彼女ローザリン・クルーセスト、ここにはいない他二名が響様のサポートを担っております」
「本当だったんだ……」
「でも何故私達を助けてくれるんですか?」
「響様?」
「それは俺から話す。 世界最大の企業グループ・ロックフォアード財閥ってやつは、外から見れば煌びやかな成功者って印象があるが、内部はドロドロに腐り果ててるんだよ。 何せ総帥ともなれば世界をも手に入れられるといわれるほどの権力と財力を手にすることが出来る、例え下っ端だとしてもロックフォアード財閥に名を連ねればかなりの権力を振るえる。 だから、次期総帥候補ともなれば権謀数術渦巻く世界でライバルを蹴落とさなければ生きちゃいられない。 時には相手を殺すことも視野に入れなきゃならない。 そんな中で俺達は生き延びなきゃならなかった」
「俺達?」
「俺には、姉さんと妹が居た。 もう死んじまったけどな……」
「死んだって、病気か何か?」
「いや、殺されたんだ。 次期総帥候補の一人に。 見るも無残な遺体だった・・・・・」
「響様のお姉様と妹様は、響様を次期総帥候補の座から引きずり降ろすためにならずもの共の慰み者となり、殺されました。 そうですね、絵美様と静香様に面影が少し似ていらっしゃいます」
「あの時、俺は姉を、妹を助けることが出来なかった。 そして今回の一件もロックフォアード財閥の反主流派が絡んでいるのに気付くのが遅れた。 だからかな、見捨てられなかったんだよ。 お前たちを。 だから、俺にお前たちを助けさせてくれ」
そういって、ヒビキ・ロックフォアード総帥は私達に頭を下げた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
宿泊しているホテルの部屋のベットに寝ながら、私は今日のことを思い返していた。
私は幼馴染で恋人だった涼君に別れを告げた。
とはいっても、私と涼君の間に肉体関係はなかったけど……。
涼君のお姉さんの絵美さんと涼君の妹の瑠偉ちゃんは、家族だった涼君に別れを告げた。
妹の静香も好きだった涼君に別れを告げた。
本当は、別れたくなんてなかった。
でも、私の、いや、私達の心も身体も穢されてしまったから……。
涼君にだけは、絶対にその事実は知られたくなかったから……。
そして、聞いた響君の正体と過去。
「助けさせてくれ」かぁ~、私達を助けるのは、助けられなかったお姉さんと妹さんに対す贖罪なのかもしれない。
そう思いながら、私は眠り落ちていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ジョン、あの学園はロックフォアード財閥の息が掛かっていたはずだが? どうして、ああいったことが起こった?」
「はい、響様。 理事の中に、ロックフォアード財閥、特に薬品開発関係の会社と繋がりを持つものがおりまして、偶然開発された薬剤コーティング技術と新型薬品の悪用を企んでいたようです」
「で、何故彼女達が選ばれた?」
「家庭の事情かと、三上家と樋川家の両親は共に会社は違いますが、薬品開発関係の会社に勤めております。 どちらの夫婦も仕事にのめり込むタイプのようでして、どちらの会社もロックフォアード財閥の出資を受けおり、そのつながりを利用して彼らを会社に拘束して、樋川涼さえどうにかしてしまえば、あとはか弱い女性だけになります。 最終的に自分の性的趣向も満足させることができますから……。 それから、調査の結果、各部活における指導者や教師たちですが……、先程挙げた理事達の息が掛かっているようです。 兵隊としての生徒、獲物を選定する教師や指導者、生徒を食い物にする理事、人体実験のデータを非合法に集められる薬品開発部と甘い汁が吸える会社上層部ということでしょう」
「下種共が! それに誰がそんな権限を与えた? 徹底的に関係者を洗い出せ。 それなりの処分と報いを味合わせてやる。」
「はっ、早急に財閥法務部の実働部隊にも動いてもらいます」
「今回の一件、日本担当の財閥執行部の責任、決して軽いものではないぞ。 これを機に徹底的に調査して、そういう奴らを潰せ! 俺が若造だからと舐めやがって……」
「最後に、絵美様、瑠偉様、鈴音様、静香様の精密検査の結果が出ました」
「どうだった?」
「かなり深刻な状況です。 不幸中の幸いか、妊娠はしていませんでした。 ただ腎臓や肝臓に重度の障害が見られます。 此方は経口避妊薬の影響かと思われます。 それとこれは新たに開発された薬品の影響と思われますが、脳にかなりのダメージがあり、今後記憶障害や激しい頭痛、幻覚などの症状に悩まされる可能性があると検査に当たった医者が申しておりました。 そして、もしダメージが脳全体に、特に脳幹にまで及んでいた場合、近い将来、死に至る可能性もあると……」
「そう、か……。 ロックフォアード財閥の総帥として万難を排し、彼女達の治療に万全の体制を取るように命じる」
「はい」
「俺はまた、救えないのか……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
全ての始まりは、涼君に別れを告げた日から約半年程前の放課後の事だった。
生徒が居なくなった学校の教室で一人涼君が練習を終えて迎えに来てくれるのを待っていた。
涼君はサッカー部に所属していて、今年から新たにレギュラーに選ばれていた。
そのため練習量が増えたようで、最近では夜遅くになるまで練習をしていた。
今日は偶々練習が早く終わるということで、一緒に帰る約束をしていた。
いつもなら、私と涼君のお姉さんの絵美さん、涼君の妹の瑠偉ちゃん、そして私の妹の静香の四人で待っているはずだったが、今日は三人とも都合が悪く私だけが待っていたのだ。
すると、教室の扉が突然開き、見知らぬ三人の男子生徒が入ってきた。
私は涼君が来たとばかり思っていたので、三人の男子生徒の登場に怪訝な表情を浮かべた。
「へぇ~、なかなかの美人じゃん」
「いいねぇ、いいねぇ」
「じゃあ、時間もないし、いただいちゃいましょうかね」
そんな声と共に彼らは私に襲い掛かってきた。
私は何がなんだか分からなかったが、不穏な空気を感じて慌てて逃げ出した。
でも、あっという間に捕まり、教室の床に押さえ付けられ、制服をそして遂には下着もはぎ取られてしまった。
何とか抵抗しようと暴れるが、三人の男子生徒に押さえつけられてはどうにもならなかった。
体中を弄られ、男子生徒の舌や手が体中を這い回り、誰にも見せたことのない箇所をごつい指で弄られて気持ち悪かったのを覚えている。
そして、身体を貫く痛み。
何時か涼君とそういうこともあるだろうと思っていたけど、まさかこんな形で失うことになるなんて思いもしなかった。
男子生徒は、私を代わる代わる何回も何回も犯した。
そのたびに感じるお腹の奥の熱。
彼らの暴虐の嵐が終わりをつげ、抵抗する力も失い、茫然自失としていた私に彼らが着き付けたのは、私が彼らによって犯されている動画だった。
「今日の事を誰かに話したり、言うこと聞かなかったりすると、この動画を彼氏や周りの男どもにばら撒いてやるからな。 ちゃんということ聞けよ。 そうしたらたっぷり可愛がってやるからよ。 明日からよろしくな、三上鈴音ちゃん」
「おい、こいつの連絡先とか生徒手帳の情報とか手に入れたか?」
「バッチリだよ。 おっ、こいつ妹がいるみたいだぜ。 それに嬲り甲斐のありそうな女が他に二人も」
「ふん、その三人も巻き込みたくないよな? 鈴音ちゃん。 返事は?」
「はい……」
「じゃあ、明日から頑張って俺達を満足させてね~」
そういって彼らが立ち去ろうとすると、最後に教室を出ようとした男がいった。
「もうそろそろ愛しい愛しい涼君が来るんじゃねえのかなぁ~。 早く服着ないとばれちゃうぜ~」
私は、身体の痛みに堪えながら、急いで身支度を整える。
涼君にバレちゃいけない。
絶対に知られたくない。
涼ちゃんだけじゃない、絵美姉さんにも、瑠偉ちゃんにも、静香にも絶対に知られちゃいけない。
絶対に巻き込まないようにしなくっちゃいけない。
私は、唯々それだけを考えていた。
そんな私の思いを彼らに踏み躙られ、絵美姉さんを、瑠偉ちゃんを、静香を巻き込んでの地獄の日々が始まるなんて考えもつかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの日から毎日、私は彼らに犯され続けていた。
放課後の空き教室で、廊下で、屋上で、トイレで、暗くなると校庭や公園で、ショッピングモールの立体駐車場でと、場所を選ばす犯された。
時には、違法ドラックと言われる薬を使われたりもしたし、道具を使われて1日中嬲られたこともあった。
ただ、最後には必ず経口避妊薬を渡される。
それが罠であることに気が付かずに、私はそれに縋った。
そんな時だった、涼君がサッカー部の合宿所に入ることが決まった。
今まで以上にサッカーに打ち込める環境になると涼君は喜んでいたが、私はとても喜べなかった。
だって、今までは涼君が家にいたから彼らは学校やその近郊で私を犯していたのだ。
それが、涼君が合宿所に入ってしまえば、彼らが家にまで押し掛けてきてしまう。
この頃、涼君の家も私の家も両親共に仕事が忙しいらしく、長期に渡って留守にすることが多かった。
家に帰ってくるにしても二週間に一度?ぐらいで、洗濯物を置くと着替えを持ってすぐに仕事に戻ってしまう。
だから、涼君たち兄弟姉妹と私達姉妹は出来るだけ一緒に生活するように両方の両親からお願いされていた。
そして、恐れていたことが現実になった。
彼らが私達の自宅にまで押し掛けてきたのだ。
私は妹を守ろうと、静香に涼君の家にいるように強くお願いしたし、絵美さんや瑠偉ちゃんにも何があっても家には絶対来ないようにとお願いした。
放課後や休日、自宅に男子生徒が5~6人出入りするようになると
それを不審に思った静香と瑠偉ちゃんが、自宅に来てしまった。
リビングで男達に犯されている全裸の私を見て、茫然としているところを他の男達に押さえ付けられて犯されてしまった。
私の時と同様、画像を取られ脅されたようだ。
それからは、私と静香と瑠偉ちゃんが毎日男達に犯されるようになった。
数日後、静香と瑠偉ちゃんが涼君の家に居ないことに気が付いた絵美さんが不審がらないわけがなかった。
そして、絵美さんもまた男達に犯されてしまった。
私達四人を犯していた男達も今では15人に増えていて、朝から晩まで終わることのない狂宴が繰り広げられることになった。
他の三人と言葉を交わすことは不可能だった。
犯されるのはいつも、四人とも別々の部屋。
一緒の部屋になったとしても、話せる状態にはなかった。
男達が帰ったあとは、四人とも体を動かし、話す気力も体力も残っていなかった。
唯一の救いが学校の授業時間中で、その時間だけ悪夢から解放された。
彼らは、涼君に知られないように振る舞っていた。
何故? どうして? 疑問は尽きなかったが涼君と接触すると必ず監視がついていたので、相談することもできなかった。
いや、違う。
相談できなかったんじゃない。
涼君に知られたくなかったんだ。
だから、地獄のような毎日でも涼君には絶対に知られたくなかった。
それは私たち四人の共通の認識だった。
変化が訪れたのは、それからしばらく経ってからだった。
男達に犯された後に必ず渡されていた経口避妊薬が、私にだけ渡されなかった。
絵美さんや瑠偉ちゃん、静香には渡されているのに何で?
このままじゃ妊娠しちゃう。
私は彼らに経口避妊薬を渡してくれるようにお願いした。
でも、彼らはニヤニヤ笑いながら決して渡してはくれなかった。
そして、その中の一人が申し訳なさそうに話し始めた。
「あの薬さぁ、結構高いんだわ。 お前用に用意してたんだけど、お前がドジってあの三人も俺達の玩具にしなけりゃならなくなったから、その分をまわしてるんだけどよ。 そろそろ薬の在庫が尽きそうなんだわ。 今、薬の
「……お、お手伝いですか?」
「そうそう、なぁに簡単なことだよ。 いつもの通り、男と寝ればいいんだからさ。 簡単だろう?」
「そ、それって……」
「そう、売春ね。 断るんなら、四人とも妊娠することになるけど? それともあの三人に売春させる?」
「や、やりますから。 三人にはもう酷い事しないでください」
「いや、助かったわ。 これで薬が手はいるわ。 じゃあ、鈴音ちゃん、今晩からよろしくね」
「は、はい……」
そうして私は、自分のため、三人のために身体を売ることになった。
この思考自体が、服用していた経口避妊薬に仕組まれた罠だった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「上手くいったな。 これで先ずは一人目だ。 理事も若くて綺麗な女が抱けるんだ、満足するだろうよ。 残りの三人も上手く追い詰めろよ」
「それにしても経口避妊薬に思考を鈍らせる別の薬をコーティングしてるなんて、普通は気が付かねえよ」
「まあ、欠点もある。 コーティング出来る量が少ないからな。 時間を掛けて服用させないと上手く思考を鈍らせることができないってことだ。 それに薬を飲む必然性が必要になるからな。 あと中毒性もあるらしいから気を付けろってクライアントからのお達しだ」
「だから経口避妊薬か。 なるほど。 でも、中毒性ってどれくらいで出るんだ?」
「クライアントが言うには、今の段階だと毎日摂取させて約6カ月で出るらしい。 激しい運動を伴えば、吸収が早くなるからもっと短い期間3~4カ月で中毒になるってよ。 だから
「ああ、だから残りの三人を追い込めってことか、鈴音をこちらのいうことに従順になるように」
「最終的には、クライアント次第だな」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
高額な経口避妊薬を手に入れるため、私は売春に手を染めた……。
私と絵美さん、瑠偉ちゃん、静香をせめて妊娠という事態から守るために。
でも、私自身にそれほどの罪悪感が湧かなかったことが不思議だった。
私って彼らが言うように淫乱だったのかな?
良く分からないや。
最近、頭がぼぉ~として考えがまとまらない。
それに、あれ程嫌だったのに彼らから与えられる刺激がとても気持ちいい……。
毎日毎日、何回も何回も与えられる刺激が心を真っ白にしてくれて、もう何も考えられなかった……。
そして、いつの間にか絵美さんも、瑠偉ちゃんも、静香も、私と同じく売春に手を染めていた。
でも、そのことに対して私はもう何も感じなくなっていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学校が夏休みに入り、涼君は家に戻ることなくサッカー部の長期遠征合宿に出発していった。
その頃になると私たち四人の
「あの四人は淫乱らしい」「金を出せばやらせてくれるらしい」「学校内でいかがわしい事をしている」「いつも家に男を複数人引っ張り込んでいる」などなどだ。
でも、私たち四人は、それを聞いても何も感じなくなっていた。
ただ、彼らに言われた通りに私達は制服を着て、学校に行き、複数の男達に抱かれ、夜になったら、見知らぬ男達に身体を売る。
家に戻れば、彼らに抱かれる。
そして何も考えられないくらい激しい刺激に身も心も委ねる毎日だった……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな中、事態が急変する。
夏休みの学校の空き教室で私たち四人は、いつもの様に朝から彼らに抱かれていた。
もう何度目かになるかわからないほど心が真っ白になって自失茫然となり、それでも与えられる刺激に嬌声を上げていた。
すると突然、教室の扉が打ち破られ、黒いスーツを着た男達が何十人と雪崩れ込んできた。
「全員の身柄を拘束しろ! 抵抗するなら抵抗できないよう骨の一本や二本、折ってもかまわん! ふざけたマネしやがって。 彼女達を保護して病院に搬送しろ」
そんな中で、制服を着ていた男子が、周りの黒服たちに命じ、今まで私達を犯していた彼らが黒服の男達に取り押さえられていく。
でも、私達は何が起こっているのか、ぼうっとした頭では理解できなかった。
身体にシーツを掛けて裸体が隠される。
「貴方達、大丈夫?」と綺麗な女性に声を掛けられるが私達四人は何も答えられなかった。
私達を襲っていた地獄が終わりを告げたことにさえ気が付かない程、何も考えられなくなっていたのだから……。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
地獄から解放されてから2週間が過ぎすぎた。
病院に入院して治療を受けている。
かなり豪華な病室で、ちょっと委縮してしまう。
ぼぅとしていた意識は、徐々に明瞭になりつつある。
ただ、時々激しい頭痛に見舞われたり、おかしなものが見えたりする。
それでも、段々と快方に向かっているというのを実感している。
でも、それにともなって、自分がそれまで受けてきたこと、してきたことが段々と思いだされて私達を
特に私は、巻き込んでしまった絵美さんに、瑠偉ちゃんに、静香に、謝っても謝り切れない程の罪悪感を感じていた。
もう何度も絵美さんに、瑠偉ちゃんに、静香に謝ったかわからない。
でも3人は、黙って首を横に振り「もう気にしないで、大変だったのは鈴音(お姉ちゃん)の方だったんだから」と言うだけだった。
それから暫らくして、私達が絵美さんの病室で、ボソボソとそれでいて何となく平穏が訪れたんだなって安心感が漂う会話を交わしていると、私達の学校の制服を着た男子とスーツをビシッと着こなした男性が訪れた。
四人身を寄せ合い、相手を警戒しながら見ていると制服を着た男子が口を開いた。
「初めましてかな、樋川絵美さん、樋川瑠偉さん、三上鈴音さん、三上静香さん、僕は、岩井響、此方はジョンセルジュ・サーセスって言います」
本人にしてみれば精一杯の愛想笑いなのだろうが、私達から見たその笑顔はあまりにも胡散臭い笑顔だった。
そしてそれが、岩井響と私たち四人の出会いであった。
岩井響さん? 響君?のお話は、事実確認ができない私達にとっては、最初に見た愛想笑い以上に胡散臭いものだった。
私達を襲った悪夢のあらまし、私達の心と身体の現状、病院の入院費用、両親への事情説明、私たち四人の引っ越しの手配、警察への被害届の提出、弁護士の手配、今後の生活の面倒等々……。
要約すると、岩井響君(本人にさん付けは止めてくださいと言われた)はお金持ちらしい。
ジョンセルジュ・サーセスは岩井響君の秘書をやっている人だそうだ。
それで、どうして私達を助けたのかという話になった。
岩井響くんは、偶然学校内で私達が犯されているところを何回か見かけたらしい。
最初は自分には関係ないことだからと無視していたが、気になったことがあったので調べたところ、とんでもない事実が解ったので介入させてもらったとのこと。
とんでもない事実って何だろうと思ったけど、教えてはくれなかった。
後は今の私達の身体についてだった。
そっちは秘書のジョンセルジュ・サーセスさんが説明してくれた。
簡単にいうと複数の男達によって行われた数カ月に及ぶ性的暴行と薬物使用によって私達の身体はボロボロになってしまっていて、長期に及ぶ療養が必要だという事だった。
それでも元の身体に戻れるかは分からないらしい。
私は本当にとんでもないことに絵美さんに、瑠偉ちゃんに、静香を巻き込んでしまったのだ。
自然と涙が溢れ、
すると、それを聞いた岩井響君が「それは違う!」と謝罪を続ける私を止めた。
「あまり言いたくはなかったんだが、三上鈴音さん、樋川絵美さん、樋川瑠偉さん、三上静香さん、よく聞いてほしい。 今回、彼らが狙っていたのは、三上静音さんだけじゃなかった。 三上静音さんを含めた樋川絵美さん、樋川瑠偉さん、三上静香さんの四人だったんだ」
「「「「え!?」」」」
「どうもおかしいと思って、調べてみたんだ。 そうしたらあいつらの後ろにあの学校の理事が一人絡んでいることが分かったんだ。 主犯はそいつでお零れにあずかろうとした理事が数人いた。 一応、あの学校の最大の出資者には連絡済みだよ。 出資者は激怒してたから、理事達は処断される。 だから、鈴音さん、あんまり自分を責めないで。 ね」
彼らの狙いが私達四人だったというのは驚きの事実だ。
「じゃあ、鈴音ちゃんが襲われていなかったとしても、遅かれ早かれ、私達は襲われていたってこと?」
絵美さんが、確認の意味を込めてもう一度、岩井響君に確認を取ると「うん」と明確に答えが返ってきた。
四人が四人とも信じられないといった表情でお互いの顔を見る。
「それに関連して、今ちょっと困ったことになっててね」
「困ったこと?」
「樋川涼君のことだよ」
涼君の名前が出てきて私達は息を飲んだ。
「樋川涼君が君達の事を探してるんだ。 今、君達は薬を抜いて、兎に角身体を回復させるために入院しているわけだけど、学校はもう二学期が始まってる。 にも拘らず君たち四人が家にもいない、学校にも来ていないって言うんで少し騒ぎになってる」
「涼兄ぃが私達を探しているとどうして困るんですか?」
「君達がここに入院している理由を明らかにしないといけなくなる。 そうなると事件のことも明かさないといけなくなる可能性があるんだ」
「い、いや、涼お兄ちゃんに知られたくないよ」
「わ、私も知られたくない」
静香と瑠偉ちゃんが涼君に事件の事を知られるのを即座に拒否した。
「そっちの二人は?」
「私も知られたくないかな」
「私も……」
絵美さんと私も涼君に知られたくなかったので拒否した。
「じゃあ、どうするか考えないといけないかな。 もう少し回復したらアメリカの専門病院で本格的な治療をしないといけないからね」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
涼君に本当のことを知られたくなかった。
だから、私達は大芝居を打つことにしたのだ。
響君には大変申し訳ないけど、悪い間男役をしてもらった。
私は響君にNTRられた浮気女として、他の三人は響君に騙された哀れな女として涼君の前から姿を消すと……。
そうすれば、彼の中の私達は綺麗なまま、ううん、私は涼君という恋人がいながら他の男性と浮気した尻軽女として記憶され、そして消えていくんだろうな。
そう思うと悲しくなる反面、ほっと安心している自分がいる。
そして明後日からは絵美さん、瑠偉ちゃん、私の妹の静香、そして私の四人の長い長い療養生活が始まる。
元の身体に戻るかは判らない。
精神だって、何処か壊れてしまっていて、正しい判断ができなくなっているらしいから、普通の生活に戻るのも難しいかもしれない。
そんな中で私にとって、私達にとって希望は涼君だ。
あんな酷い別れ方をしたけれど、あとで涼君を響君がフォローしてくれるらしい。
早く元気になって、四人で、いや、涼君もいれて五人で笑顔で幸せに暮らすんだ。
「四人で涼君の元へ戻って、許してもらえばいいさ。 そのフォローぐらいするよ」
と響君は言ってくれた。
四人で絶対涼君の元に戻ろうと誓い合った。
でも、現実は残酷だった……。
最初に絵美さんが、次いで静香が、瑠偉ちゃんが逝った。
経口避妊薬にコーティングされていた薬品の影響が私達の脳幹にまでダメージを与えていた。
三人とも眠るように逝った。
そして私ももうすぐ逝くだろう。
私はサイドテーブルに飾られている一枚の写真に目を向けた。
その日、病室のベットに寝ていた女性が静かに息を引き取った。
同時期に薬物中毒で入院した四人の女性・少女達のなかで、最後まで生きていた女性だった。
END
幸せになりたいな(バッドエンド版) 龍淳 燐 @rinnryuujyunn
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