第19話『新たなる衣装』

 オープニングが終わり、いよいよ新衣装お披露目が始まる。



「じゃあ、まずは足から見せていくね」



 まず、真っ先に目に入ってきたのは、靴だった。

 しろさんが普段はいている、制服の革靴より、ヒールが高い。

 続いて、膝あたりまで出てきた。

 そこで、靴下の色が異なることに気付く。

 初期衣装の時は、膝のあたりまで白い靴下で覆っていた。

 だが、今回の新衣装では膝上まで黒いソックスで覆われている。



「次は、太腿を見てもらいましょうかね?そろそろどういう服かバレちゃいそうだけど」



 そういって、しろさんはそろそろと太腿を見せてくる。

 まず、目に入ってきたのは靴下とスカートを、あるいは下着を結び付ける二本の、黒い線だった。

 いわゆる、ガーターベルトという奴だ。

 なぜだろう、別に露出はかえって減っているはずなのに、どうしてこんなにもいやらしく感じられてしまうのか。

 多分だが、下着がどうなっているのかを想像できてしまうからだな。

 詳細はわからないものの、とりあえず色と布の質感は予測できる。



 そういえば、がるる先生は設定として下着とかも作りこんでいるらしい。

 がるる先生本人としろさんは、データを持っているんだと、しろさんが以前私に話してくれた。

 あの手この手を使って、見せていただけないかと頼んでみたのだが、しろさんは顔を真っ赤にして断固として見せてくれなかった。 

 はなはだ無念である。

 何とか、しろさんの機嫌がいい時を見計らって、またお願いしてみたいものだね。

 閑話休題。

 見えたのはそれだけではない。

 シースルーの白いフリルがついた、黒いスカート。

 そしてその上には白いエプロンが見える。

 ここまで観れば、もう視聴者もどういうものか気づいただろうね。



「さてさて、お次は首のあたりまで見てもらおうかな?」



 予想のコメントの大半が、正解を捉えている状況になりながらも、まだしろさんは焦らす。

 二の腕を半分ほどまで覆う袖が、フリルのあちこちについた服が、露になる。


 

「じゃあ、最後は頭ね」



 しろさんは、そういって全体を出した。

 黒を基調とした服に、白いフリルとカチューシャ、そしてエプロン。

 上着は半そでで、細い腕と可愛らしい肩、そして、胸の谷間が露出している。

 下は短いスカートで、太腿の絶対領域がまぶしい。

 耳には、死神の鎌を模したような耳飾りがついている。

 結論を言おう。

 メイド服である。



「はい、というわけで新衣装はメイド服でした!当たった人、おめでとうございます!」



 しろさんは、メイド服を着ていた。

 氷室さんたちが着ているようなクラシカルメイドではなく、露出の多いメイド喫茶の店員が着るような衣装。

 ナルキさんの初期衣装に近いだろうか。

 メイド服というより、メイドコスと言ったほうがいいかもしれない。

 あまりにも可愛すぎる。



【かわいい!】

【メイド服とは】

【最高過ぎないか?】

【最高! ¥10000】

【ありがとう!ありがとう! ¥7777】



 視聴者たちも大盛り上がりである。

 さらに、スーパーチャットなども多く飛び交っている。

 その中には、高額なものも多い。




「みんな喜んでくれて、ありがとう!ある程度落ち着いたところで、じゃあ、とりあえず今回の衣装を作るにあたっての、経緯を説明していこうと思います」



 しろさんはにこにこしながら、衣装についての説明を始めた。 



「きっかけは、まずASMR用の衣装が欲しいと思ったことなんだよね」



【ほほう】

【まあ必要ではあった】

【確かにメイド服はぴったりかも】



 実際、ナルキさんはいくつかASMR配信用の衣装を持っていたりする。

 ASMRをメインとしている人にとっては、もはや当然のことでもある。



「で、ナルキさんに相談していたんだけど、いくつかアイデアを送ってくれたんだよね。そして、そのアイデアの中から選んだって感じです」



【他にはどんなアイデアがあったの?】

【メイド服にした理由は?】



 そういえば、他のアイデアたぶん私見てないね。

 別に聞くまでもないって思ったからだろうけど。



「理由はいくつかあって、まずコスプレをしてみたかったっていうのが一つ。コスプレをすることで、シチュエーションボイスとかも作れるしね」



【確かにメイドってコスプレの一種か】

【丈も短いし、メイドコスプレ衣装って認識でいいのかな?】

【制服もコスプレじゃないの?】

【おいおいおいおい死んだわあいつ】



「こほん、さて制服をコスプレと言った人を黄泉に送ったところで、では二つ目。ちょっとえっちな衣装が欲しかったから」



 確かに、しろさんの格好は非常にきわどい。

 肩、谷間、太腿などが露出しており、非常にセンシティブになっている。

 露出度自体はそこまで高くないのに加えて、黒を基調としているのでBANされることはまずないだろうが、フェチズムを刺激してくるそれがえっちであることに変わりはない。

 しろさんの配信には、耳舐めをはじめ少しだけ過激なパートもある。

 そういうことをする際にも、それに相応しい性的魅力をアピールする衣装が必要だとしろさんは考えたのだろう。



「耳舐めとかも、やっていくので期待していてほしいなってことですね」



【メイドさんのご奉仕やん】

【うっ、ふう】

【これは今後が楽しみですね】

「ええと、それで三つ目なんだけど」



 しろさんが、何故か言いよどんでいる。

 視聴者さんは気づいていないだろうが、私にはしろさんの顔が赤くなっているのが見えていた。

 そして理由もおおよそ見当はついていた。



「ナルキさんへのリスペクトというか、あわせというか、まあそんな感じです」



【かわいい】

【草】

【炎上の時も思ったけど、本当にナルキのこと好きだよなあ】



「そうだね、正直一番仲がいいVtuberが誰って言われたら私は迷いなくナルキさんっていうよ。いつもよくしてもらってるし」



【こちらこそ、仲良くしてくれててありがとう 金野ナルキ】

【あれ? がるる・るる】

【がるる先生敗北者で草】

【涙拭けよがるる】



「いやあの、がるる先生のこともすごく大事に思ってるんですよ?ただしいて言うならって話ですからね?」



 しろさん、あわてて補足する。

 彼女は私のことを垂らしとか言ってるけど、多分しろさんの方がひどいと思う。

 ナルキさん、がるる家、メイドさん等々、特に女性に好かれる才能がある気がする。

 ちなみに、一度それを指摘したことがあるのだが、「多分君の影響だから私は悪くない」と言われてしまった。

 訳が分からないよ、まあ別にそんな能力が私にあろうがなかろうが、別に大した意味はないから別にいいか。



「じゃあ、次は関わってくれた方の紹介です」



 そういって、しろさんはさらに画面を切り替える。

 そこには、複数名のSNSのアイコン画像が表示されていた。

 もちろん、事前に彼女が許可を得ていたものである。



「衣装を描いてくださったのは、もちろんがるる・るる先生です。ラフから完成まで、全部作っていただきました」

【どやあ がるる・るる】

【がるる先生がどやっておられる】

【ここはどやってもいい場面ではある】

【がるる先生もありがとうございます!】

【腹立つ顔してそう】



 メイド服をよく見ると、細かい意匠がちりばめられている。

 冥界や死をモチーフにしたような飾りを取り付けているのだ。



「そして、そんな綺麗なイラストをモデリングしてくださったのはロリリズム先生です。告知も手伝ってくださって、何から何までありがとうございます」



【コメント欄にはロリリズムはいないな】

【SNS見たら、三日前から完全に止まってるから】

【あっ】

【忙しいんだろうな】



 うん。

 まあ、ロリリズム先生は数多の人たちから仕事を受けているからね。

 これなくても仕方がない。

 というか、がるる先生あたりは本当に大丈夫なんですか?



「さて、色々説明も終わったところで、ここからはスクショタイムだよ!」

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