第12話『おみ足リハーサル』
おみ足ASMRというのが一体全体何かと言えば、文字通り足が主体のASMRである。
通常のASMRであれば、手や口から出す音がメインとなっている。
だが、おみ足ASMRは違う。
足から出す音をメインにしたASMRだ。
両足を耳元につけたり、あるいは頭を踏んだり、両足をこすり合わせることによって音をだしたりする。
足、というのはある種、フェチズムの極致だ。
手や顔のように、表に出るようなものでは決してない。
かといって、胸やお尻のように徹底して隠されているものでもない。
しかしだからこそ、足にフェチズムを見出すものを後を絶たない。
私は、特別足が好きというわけではないのだが、しかしてしろさんの柔らかそうな太腿で挟まれたいとか、小さな足で踏んでほしいという願望はある。
客観的に見てもそういう需要があることは明らかだ。
決して、私個人の願望などではない。
ないったらない。
『なるほど、文乃さんとしてはおみ足ASMRがやりたいと』
「おみ足ASMRとタイピングASMRね。君、半分聞き流してない?」
『あ、すみません』
「まあ、いいけど」
ジト目になりながらも、文乃さんは話しを続けた。
「まず、君にとってはあんまり関心がなさそうな方から話しを進めようかな。タイピングASMRをすることになった経緯も含めてね」
ジト目のまま、文乃さんは話し始めた。
そういう試み、くらいに思っていたのだが聞いてみるとちゃんとした理由があった。
案件が成功し、さらにその結果として別の案件をもらえたこと。
そうして、パソコンの宣伝をするために、パソコンのキーボードのタイピング配信をするつもりであるということ。
『キーボードのタイピングだけで配信をするんですか?』
「普通に企画もののASMRならそれでもいいんだろうけどね、パソコンの宣伝を含んでいる以上はそれはないかな。ちゃんと囁き声で話しつつ、宣伝するよ」
『というか、ASMRで宣伝するんですね』
パソコンの宣伝、というとなんとなくゲームなどで遊んでスペックなどを主観的体験として伝えているイメージがある。
「まあ、普段私のことを見てくれている視聴者の皆さんに見ていただくことが一番大事だからね。いつも通りやるさ」
とはいえ、文乃さんもゲームをする予定ではあるらしい。
タッピングをしつつ、以前やっていたゲームASMRも並行して行うという今までにないASMR配信を予定しているようだった。
こうやって会話をしてみると、文乃さんの成長を実感するな。
自分で自分の長所を把握すること、そして何をすればいいのか考えること。
そういった技術の精度が比べ物にならないくらい向上している。
元々は、私がかなりアドバイスをしていたことだ。
だがしかし、彼女はこの一年半の経験と、なおかつナルキさんのような配信者たちとのかかわりを経て随分と成長していった。
そんな彼女の成長が寂しいのか、嬉しいのか、私には自分でもよくわからなかった。
『それで、おみ足ASMR配信というのはどうするんですか?』
「……随分とおみ足ASMRに興味津々なんだね」
『い、いえそんなことはありません』
「本当は?」
『嘘です、興味しかありません』
嘘を認めて謝ることにした。
文乃さんがジト目になりながら、詳細を話していく。
基本的に、太腿に私をはさんだ体勢で行うつもりだということ。
タイツやオイルなども使うということ。
私は、しろさんの足を普段見ることはあまりない。
彼女が机に向かっている時は、角度の関係で上半身しか見えないことが多い。
見えるとしたらベッドの上に彼女がいる時だが、当然大抵文乃さんは布団をかぶっているわけでして。
もちろん夏などはふくらはぎくらいは見えるが、太腿までは見えないのだ。
『美しい……』
「ふえっ」
しまった、声が漏れ出てしまった。
しかし、仕方がないと言える事情もある。
彼女の足は、本当に綺麗だった。
太すぎず、それでいて細すぎない。
足のピンク色の爪は切りそろえられており、それがとても可愛らしいと思える。
腰から下がすべて晒されている彼女に対して、どうしても視線が向いてしまう。
一応、生前の私にも同じ部位があったはずなのに、どうしてこんなにも印象が違うのだろうか。
屋内にいるからか、きっちりと手入れされている脚はシミや産毛一つ見当たらない。
結構、剃刀負けとかあるらしいと聞いたことがあるんだけど、どうやっているのだろうか。
もしかしたら、普段からすぐそばに私がいるから徹底して見た目で隙を見せないようにしているのではないか。
なんていうのは、さすがに勘違いかな。
「あの、ど、どうかな」
『世界で一番綺麗な足ですね』
「んんっ、もう。そうじゃなくて、声とかこの体勢でも届くかってこと」
『あ、なるほど』
確かに、リハーサルとしてはそちらの方が重要だった。
今、私の頭部はしろさんのすべすべした白い太腿に挟まれている。
しろさんは、体育座りのような体勢であり、そこに私が挟まっている状態だ。
太いとかむくんでいるというわけでもない、むしろ細いのだがしっかりと柔らかくて女性であることを感じさせる。
私に肉体が残っていたらとんでもないことになっていたかもしれない。
ちなみに、しろさんは今下半身は下着しかつけていないらしい。
強制的に前を向かされているので見えないけれど。
一体どのような下着を着ているのかは大変気になるところではあったが、それを訊くと間違いなく怒られるので置いておこう。
多分だけど、黒な気がする。
まあ、ただの勘だが。
『そうですね、文乃さんのきれいな声ははっきり届きますよ』
「……もう、またそういうことを言って」
『文乃さんにしか言いませんし、適当に言っているわけでもないですからね?』
「も、もうわかってるってば」
文乃さんが、はにかみながら答える。
ああもう、本当に可愛い。世界で一番可愛い。
このままだと、とんでもないことまで言ってしまいそうなので、あわてて止める。
『もう一つ、体勢を変えてみてはいかがですか?』
「あ、ああそうだね」
太腿をたっぷり堪能できる状態から、文乃さんがじわじわと動いている。
膝で、細いふくらはぎで、骨ばったくるぶしで挟み込めるようにじわじわと移動していく。
そして、足と、十本の指で私の耳に、頭に触れる。
「ど、どうかな」
ごそごそと、手とはまた違う物体が両耳を覆う。
足で触れられているという感覚と認識が、私を非常に興奮させる。
『お、おおおう』
「あはは、喜んでくれたようで何よりだよ」
文乃さんは、悶えている私を見てくすくすと笑う。
満足そうで、私も穏やかな気持ちになる。
そしてそのまま、すっと足をどける。
少しだけさみしいような気もしたが、まあ仕方がない。
「どうかな?」
『音響は問題ないと思います。あとは、タイツとかを使うなら、そちらも一通り試しておいた方がいいかもしれません』
「そうだね」
『あと、その体勢では疲労が大きいと思うので、何かしら台などの対策が必要です』
「あー、そうだよね。ぶっちゃけ、もうきついもん」
『運動してませんしね。やはり運動を取り入れたほうがいいのでは』
そんな風に、先ほどとはまるで別物の真面目な雰囲気で話しを私たちは始めた。
そのまま、二人で長時間にわたってリハーサルを続けるのだった。
◇
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