第53話『懺悔コラボ』
金野ナルキさんが炎上してから一週間後。
彼女は、復帰配信を行った。
いつもつけていたスーパーチャットや広告などをつけず、背景は白一色。
まずは、まともに活動をしておらず、その理由について報告をしていなかったことへの謝罪。
その後、状況説明を行った。
内容自体は、SNSで事前に彼女自身が語ったことと大差ない。
切り抜き動画で指摘されたとおり、マルチ商法に関わっていたこと。
かなり近しい存在に押し付けられ、拒否できなかったこと。
末端の末端であり、誰かに売りつけたりはしていないこと。
それでも、犯罪行為の片棒を担いでいたのは事実であること。
現在、既にマルチ商法からは足抜けしていること。
多くの人に迷惑と心配をかけてしまい、本当に申し訳なく思っていること。
引退は考えておらず、これからの活動で反省を示していこうと考えているということ。
私と文乃さんは、そんな謝罪配信兼復帰配信をはらはらしながら見守っていた。
コメント欄や、SNSにおける反応は賛否両論。
今後の活動をひとまず応援したい、というものもいれば、絶対に許せないという人もいる。
けれど、彼女なりに反省しているのは視聴者たちにも伝わったようだ。
◇
そして、彼女が復帰配信をしたその日、しろさんもまた配信を行っていた。
配信中、しろさんはナルキさんについて言及した。
ナルキさんが炎上した後に、直接会ったこと。
本人から直接の謝罪を受けて、既に両者間では和解していること。
しろさん自身はマルチ商法に加担はしていないこと。
ナルキさんとの関係性は、これからも変えるつもりがないこと。
最後に、近日中にナルキさんとのコラボ配信を行うこと。
これには、色々な意見があった。
愉快犯的なコメントとは異なり、本心から炎上のリスクを心配するものや、単純に犯罪寸前の行為に関与しているナルキさんを見たくないというもの。
半分以上が、コラボに対して反発しているように、私には見えた。
「みなさんが、反対する気持ちはわかります。それが、私を慮ってのことであるとも、理解しています。それでも」
すうっ、と息を吸い込んで。
背筋をピンと伸ばして。
画面の向こうの人々に語りかける。
「私は、自分が信じた道を行くと決めています。より多くの人を救うために、私は私がすべきことをやるつもりです」
だから、信じて見守ってくれたら嬉しいと、しろさんは語った。
配信の後、全てのファンが納得したというわけではない。
だが、その中の何割かは理解を示したようだった。
◇
そんな復帰配信から三日後。
永眠しろさんのチャンネルでは、とあるコラボが行われようとしていた。
【楽しみ】
【犯罪者と絡まないでほしい】
【今回のコラボはもうしろちゃんにとってマイナスだと思うよ。がるる家とかとコラボすればいいじゃん】
【いったいどんな企画になるのやら】
【確かに、サムネだけ見ても内容わからなかったな】
コメントは、否定が半分。
もう半分は、疑問と期待で構成されている
まあ、こんなものだろう。
これは、見に来ている層の問題もある。
明らかに、普段のしろ金コラボより同時接続数が多い。
先日行ったASMRオフコラボの時と同じくらいか。
おそらくだが、ここに来ているものの大半は、ふたりのファンーーではない。
純粋なナルキさんのアンチ、今回の一件で生じた反転アンチ、Vtuber界隈全体のアンチ、さらには炎上という名のお祭り騒ぎを楽しむ愉快犯など。
ナルキさんやしろさんに対して、そしてこのコラボに対して肯定的な視聴者は全体の二割いるかどうかだろう。
これが現実。
バーチャルの世界でも、現実は付きまとってくる。
けれど。
『成瀬さん、文乃さん』
「先輩?」
「どうしたの?」
『行ってらっしゃい』
配信が始まれば、私ができることは何一つとしてありはしない。
だからこうして、配信を始める前には言葉をかける。
大切な人には、
「うえっ!何ですか急に!……ありがとうございます」
「ありがとう。行って来るね!」
二人とも、配信を開始した。
少しだけでも、私の言葉は届いただろうか。
あと成瀬さんや、うえって何?
ちょっと傷つくんですけど。
「こんばんながねむー。どうも、永眠しろです。今日は、コラボ配信です」
【きちゃ!】
【うおおおおおおおおおお!】
「ゲストを呼んでいきましょう!金野ナルキさん!」
「はい、どうも、こんばんは。金野ナルキです。今日はこの場にお呼びいただきありがとうございます」
ナルキさんは、いつもの陽気な様子が打って変わって、復帰配信もとい謝罪会見同様のローテンションで話していた。
「今日やっていく企画なんですが、懺悔麻雀となっております」
「懺悔麻雀、聞いたことないんだけどどういう配信なのかな?」
『天域麻雀』というゲームを立ち上げた状態で、しろさんが説明を始める。
【確かに聞いたことないな】
【どういう企画配信なんだ?】
「ルールその一、私、ナルキさん、視聴者さん二人で麻雀を行います」
「なるほどね」
「ルールその二、ナルキさんは私にロンをすることができません」
「ほ、ほほう」
【あーこれ、炎上がしろちゃんに飛び火した分の懺悔ってことか】
【一時、めちゃくちゃにコメントが荒らされていたからね】
「ルールその三、ナルキさんは私より順位が低かった場合、罰ゲームがあります」
「……はい?」
ナルキさん、固まる。
心なしか、声が震えている。
「あのしろちゃん、ちょっと待って」
「じゃあ、はじめていきます。パスワードを画面上に表示するので、私達と遊びたい方はぜひ入ってきてください」
「しろちゃん、怒ってます?」
「全然怒ってませんよ?ただ、そういう企画というだけです」
「う、うーんそうか」
「ちなみに、罰ゲームは私からの台詞リクエストです。私が行ってほしいセリフを、ナルキさんに言っていただきます」
「おおう……。今日のしろちゃん、話聞く気ゼロだ……」
【なるほど、今日はナルキちゃんがボコボコにされる企画か】
【おもしろいな、チャンネル登録するわ】
【懺悔というか執行麻雀だな】
これは、いい流れだな。
コメント欄の肯定の割合が増えつつある。
それが文乃さんの、しろさんの考え出した計画。
ナルキさんへの悪感情を、
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