第10話『ゲームウィズママ』
「今日はね、せっかくだから一緒にゲームをしていこうと思います」
配信画面が、切り替わる。
これは、事前に告知していた通りの流れだ。
今回のコラボは、前半で雑談をしたうえで、後半はゲームをして遊ぶという構成になっている。
専用のゲーム機などは購入済みだし、それをパソコンで画面共有するためのセッティングもメイドの雷土さんや氷室さんがやってくれた。
そして、ゲームもがるる先生が提案したものである。
今回二人がやっていくゲームは、非常に有名なパズルゲームだ。
丸いスライムのようなものが積みあがっていく。
スライムには色がついており、同じ色のついたスライムを一列に並べるとそのスライムは消失する。
スライムが消失すると、相手側には灰色の「おじゃま」と呼ばれるスライムが送られる。
これは、列を作っても消すことができない。
そしてここからが重要なのだが、箱の中に入っているスライムが箱の外にあふれ出してしまうとゲームオーバー、つまりは負けである。
しろさんにとってこのゲームをプレイするのは初めての経験。
一応、先ほどゲームをインストールしたうえで、肩慣らしはしているのだが、あくまで付け焼刃に過ぎない。
一方、がるる・るる先生はある程度このゲームをやり慣れているはず。
場合によっては、あっさり負けてしまうかもしれない。
配信が盛り上がりにかけるかもしれない。
そんな風に心配していたのだけれど。
「……あれ、これどうやるんだっけ?」
「お、これは激アツでは?あ、やば、間違えタ!」
……どうしてこうなった?
大接戦である。
いや、接戦というのもおこがましい。
がるる・るる先生、もしかしてこのゲームをやったことがないのか?
そう思えるレベルで、がるる先生のプレイスキルはひどかった。
何しろ、ゲームを初めて数時間のしろさんとほぼ互角。
ましてや、しろさんはゲームそのものに関しても初心者だ。
例えるなら、生まれてこの方自分の足で歩いたことのない人間が、ある日突然走ろうとするようなもの。
しろさんのゲームスキルとセンスは、ひいき目に見ても、決して高いとは言えないレベルである。
いや、ぶっちゃけ言えばかなり低い。
それと渡り合えてしまう、がるる先生、一体何者なんだ?
【がるる先生、いつ見てもどへたくそで草】
【昨日のキャス配信で、「しろちゃん初心者らしいから余裕余裕!」とか言ってたのにな】
【やっぱりがるる先生よりゲーム下手なVtuberがいるわけないんだよなあ】
【信じられるか?しろちゃん今日このゲームはじめたんだぜ?信じられるか?がるる先生、配信だけでプレイ時間百時間超えてるんだぜ?】
コメント欄を見るに、どうやら元々がるる先生はゲームが苦手らしい。
まあ、初心者と互角に戦っているわけだから無理もない。
手を抜いているのかと最初は思ったが、がるる先生の様子とコメント欄を見るにそんなことは全くないようで。
【ゲームと歌の腕前だけは、幼女のRPを守っている女】
【指示厨殺し】
【ゲームが下手すぎて、プチ炎上したがるる先生じゃないか!】
いつもよりも活発なコメント欄は、その大半ががるる先生の視聴者であることと、本当に先生のゲームが下手なことを告げていた。
いやもう、本当にひどい。
二人とも、まともに連鎖を作ることすらできていない。
生前、友達に借りてゲームをする程度だった私から見ても二人のプレイはひどいとしか言いようがない。
「いよおおおおおおおし、勝っタ!」
「うわー!負けちゃった!」
【草】
【初心者相手にイキるな】
【しろちゃんも頑張った!】
が、コメント欄はむしろ二人をたたえている。
まあ、こういう反応であれば悪くはないかな。
少なくとも、悪い反応ではないはずだ。
まあ、この業界可愛い女の子のやることは犯罪でなければ受け入れられがちだ。
そもそも、一見ボロクソに言われているように見えるががるる先生へのコメントは、ただ詰っているようでその実よく見ていなければできないものばかり。
まあつまり、ファンからの適度ないじり、あるいはプロレスの範疇なのだろう。
しろさんも、雑談配信では時々そういう挙動をすることがある。
「もう一回やりません?」
「いいよいいよ。お母さんの胸を借りるつもりで来なさい!」
「……胸、なくないですか?」
「……。よーし、かかってきなさい!叩き潰してやろうじゃないカ!」
【図星つかれてて草】
【顔真っ赤じゃん】
【しろちゃんも面白いな】
【これはフラグですね】
確かに、がるる先生は小学生のような見た目をしているからね。
本人はともかくとして、実際目の前の彼女はまな板である。
一方、ロリっぽい見た目してるせいで忘れそうになるけど、しろさんは普通にあるんだよな。
ちらと、部屋着を着て配信をしている文乃さんのある部分に視線をやる。
いや、今はそっちを見ている場合ではない。
配信画面に集中しないとね。
さて、目を離しているすきに、というか吸い寄せられているうちに動いていた戦況だが……。
私の目には、五分五分に見えた。
いや、違うね、若干しろさんが有利だ。
そもそも、さっきの戦いでもほとんど差がなかった。
ここで言っておきたいのは、しろさんは本当に初心者であるということだ。
そして、レベル100よりも、レベル1のほうがレベルアップに必要な経験値は、少ないのである。
「ちょ、ちょっと待ってこれ、やばい」
「やったー!勝った!」
三本先取だったが、最初の一本をしろさんがもぎ取った。
これは、勝てる可能性が出てきたね。
「ええとねえ、しろちゃんのASMR配信聞いたんだけど、すごかったよ?」
「え、ありがとうございます。あの、あ、ヤバいミスった!」
「よしよしよし!」
「酷くないですか!」
がるる先生、しろさんに勝てないと判断して今度は精神攻撃に切り替えたようだ。
なんというか、この人は取れ高をわかっているというべきか、あるいは素でこういうことをやっているのか。
いずれにせよ、だてにVtuberを長らくやっていないということだろう。
先ほどまで、わずかにしろさん有利だったはずだが、がるる先生が若干有利になっている。
コメント欄も、どちらが勝つかわからない戦況に盛り上がりを見せている。
【精神攻撃は最低すぎて笑う】
【草】
【初心者相手になんてえげつない】
だが、しろさんももう半年以上活動している、一人前のVtuberだ。
ただやられっぱなしでいるはずもない。
そもそも、一般的な配信者と違い、しろさんはASMRに対する羞恥心が薄い。
褒められたことへの動揺はあっても、他のVtuberさんに比べれば、ASMRを聞かれたことに対する動揺はあまりない。
人によっては、同業者に聞かれるの嫌って人もいるらしいけどね。
「それで、ASMRの中で、どれが好きなんですか?私色々やってきたんですけど」
「え?あー、どれだろう。あ、ちょっとタンマ!」
「あ、そういえば先生もASMRやってましたよね。聞きましたよ!」
「ひええええええええええええ!あの黒歴史を掘り返すのはやめてええええええええ!あ、操作するの忘れてタ」
結果的に、しろさんの精神攻撃カウンターが刺さって、あっさり勝利。
「負けちゃったナ」
「いやあ、ベテランって聞いてましたけど、勝ててよかったです!」
「くっそ。次は負けないからね!」
ゲームも終わり、配信も終わる流れに入る。
「今度さあ、また別のゲームやろうヨ。今度はそっちでリベンジってことデ」
「はい!次も勝ちます!」
「……いうねエ」
「あはは、じゃあ今日は、おつがるるで締めましょう。せーのっ!」
「「おつがるる!」」
【おつがるる!】
【ふたりともかわいかった!またこのコラボが見たい!】
永眠しろのチャンネル初のコラボ配信は、大いにバズり、結果としてチャンネル登録者数も大幅に増えた。
何よりも、友達、と言っていいかどうかはともかく、仲の良いVtuberがまた一人増えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます