第9話『母の名前は、がるる・るる』
金野ナルキさんとのコラボ配信以降、しろさんの活動内容は少し変わった。
一度、コラボしているVtuberと一切コラボをしたことがないVtuberの違いとは何か。
それは、コラボに対する誘いやすさである。
「ああ、
なので、ナルキさんとのコラボ配信の後には、複数人のVtuberからコラボの申し出があった。
しろさんは、そのありがたい申し出をしてくれた全員に返信を行った。
スケジュール的に不可能だなと感じれば断りの連絡を入れ、逆に参加しても問題がないと判断すれば、コラボを行いたい旨を伝える。
スケジュールをメイドさんに協力してもらいながらすり合わせる。
そして今日は、とあるVtuberさんとのコラボ配信当日だ。
彼女にとって、非常に関係性の深い、唯一無二のVtuberと言っても過言ではない人である。
メイドさんたちに機材の調整をしてもらいながら、文乃さんはコラボ配信の準備と打ち合わせをする。
『さて、鬼が出るか蛇が出るか』
――あるいは、
◇
「こんばんながねむー。今日は、はじめてこのチャンネルに、私以外のゲストが来ております。つい最近までは、考えもしなかったことです。では、自己紹介をどうぞ」
「改めて、こんにちは。
配信画面に映っている、立ち絵を端的に説明するなら、ロリである。
紫の髪、狼の耳が頭の上から生えている。
体格は、しろさんよりもさらに小さい。
しろさんが中学生に見えるーーとある一部分の装甲を除いて中学生に見えるのだが、むしろ目の前の紫髪の少女は小学生に見える。
服装は、フリルのついた白いワンピースで、清楚である。
髪が白寄りで、服が黒寄りなしろさんとは配色が真逆である。
ただ、服にフリルをあしらっているところとか、共通点はある。
そんな彼女の名前は、がるる・るる。
イラストレーターであり、永眠しろさんをはじめとしたVtuberを輩出してきた存在でもある。
余談だが、Vtuberのガワであるイラストを担当するイラストレーターのことを「ママ」と呼ぶ文化が存在しており、イラストレーター側が担当したVtuberを息子ないし娘と扱うことが恒例となっている。
つまり、がるる・るる先生はヴァーチャル界においては、しろさんの母親と言っても過言ではない。
……見た目は、しろさんの方が明らかに年上なんだけどね。
【ウオオオオオオオオオオオ!】
【ついにがるる先生とがるる家の末娘が初コラボか……ここまで長かったな】
「今日は、わざわざこんなチャンネルまでお越しいただきありがとうございます」
「いやいや、そんな固くならないでほしいんですけどネ」
少し、アクセントが独特ながるる先生。
彼女が、ここまでかしこまっているのには、理由がある。
Vtuberには二種類ある。
一つが、しろさんのように誰かにイラストを描いてもらってそのガワの中に入るタイプ。
Vtuberの大半がそうである。
そして、もうひとつががるる・るる先生のようなタイプ。
自身でイラストを自作して、その中に入って配信をするタイプ。
いましろさんの隣に居る、がるる先生はそのタイプである。
イラストレーターでありながら、Vtuberとしても活動する。
加えて、がるる・るる先生はオタクなら知らないものはいないとまで言われるほどの超売れっ子作家。
コミケで壁を経験することなくシャッター、と言えば彼女の凄さが伝わるだろうか。
Vtuberのママとしてもその実績は目覚ましく、彼女がイラストを担当したVtuberの中にはチャンネル登録者数百万人を超えるものもいる。
というか、何なら私はそのVtuberさんの配信聞いてたんだよね。
ついでにいえばーーがるる先生自身もイラストレーターのみならずVtuberとしても売れっ子であり、登録者数は五十万をすでに超えている。
しろさんにとっては、文字通り雲の上のような存在である。
「そういえば、登録者数一万人突破おめでとう!」
「あ、ありがとうございます!」
「いや本当にすごいよね。まさか、何の後ろ盾もなく一万達成するなんて」
「いえ、ナルキさんとかがるる先生のおかげですから」
「いやいや、一番は君が頑張ったからじゃない?」
そう、先日の金野ナルキさんとのコラボ配信の後、ついにチャンネル登録者数が一万を突破した。
それどころか、ナルキさんのファンに見つかったことによって勢いが止まらず二万に届きそうな勢いだ。
なので、しろさんとしては謙遜ではなく本心から自分の力ではないと考えている。
まあ、彼女が自分を過小評価しているのは今に始まったことではない。
イラストを担当したがるる先生のおかげ、と言っているのも、当初から自分の力で何かを為したという感覚に乏しいためだ。
しろさん、直接的に褒めないと意外と照れないんだよね。
そんなことを考えていると、しろさんがコメントを拾って流れを変えようとしていた。
【裏話みたいなの、合ったら聞きたいな】
「だそうですけど、何かありますか?がるる先生」
「さっきも言ったけど、しろちゃんとはね、親子なんだけどネ。依頼が来たときね……びっくりしちゃったんだよね。本当は、断ろうと思ったんだけど……まあいろいろ考えて受けることにしたんだよネ」
因みに、がるる先生が依頼を受けた理由はしろさんによれば「相場の二十倍の値段で交渉してもらったから」らしい。
いやあの、本当にいくらかかっているんですか?
もう多分ね、私も百万くらいするし。
イラストがいくらくらいするのかわからないけど、相場の二十倍なら一千万を超えている可能性すらある。
そもそも、前世のことまで考えると、私だけでも早音家に数千万くらい使わせてるんだよね。
本当に、早音家が有している資産額を知りたいなあ。
どこかの国家予算くらいあるんじゃない?
「まあ、私はあの時点では全く実績のない状態でしたからね。受けてくださったことは、本当に感謝してます」
「いやあ、実のところあの時本当にお金がなくてさあ。むしろ感謝してるんだよネ」
「そうだったんですか?意外ですね」
彼女は、何度でも言うが売れっ子作家である。
ライトノベルの挿絵、グッズのイラスト、しろさんを含めた複数のVtuberさんのデザイン、ゲームキャラクターの立ち絵など、彼女は仕事に困っているようには見えない。
具体的にどれだけ儲けているのかは知らないが、それでもかなりの収入を得ているのではないかと思っていたのだが。
少なくとも、得体のしれない誰かからの依頼を受けなくて済む程度には。
そう思っていたのだが。
「いやあ、ちょっと仮想通貨で有り金溶かしちゃってさア」
「ああ……」
『ええ……』
おもわず、声が出てしまった。
仮想通貨。
Vtuberと同様、インターネットが生み出した産物だ。
一応通貨として運用できるのだが、国家が管理しているわけでもないからある日突然無価値になったりする。
とはいえ、逆に価値が上がったりもするらしいけどね。
なので、仮想通貨を所有することは、ある種のギャンブルでもあるわけだが。
彼女は、そんなギャンブルで大負けをしてしまったということだろう。
「有り金、というのは貯金を全部失ったということですか?」
「そうだよ。イケるって思ったら急にゼロ円になっちゃんだよね。ありえなくなイ?」
「あの……。そういう投資とかって、無理のない範囲でやるのが定石なのでは?」
「それはわかっているんだけどねエ、ついついぶっこんじゃうんだよね。よしよし、これでイケる!大金持ちになれる!って思っちゃったら止まらなくってさア」
「あ、あははは」
なるほど。どうやら、がるる先生、相当の浪費家のようだ。
金遣いの荒さゆえに、お金に困っていたところ、割のいい仕事が入ったから受けざるを得なかったということだろうか。
【しろちゃんドン引きしてて草】
【娘に気を遣わせるなよがるる……】
【まあ、結果的にめちゃくちゃ魅力的なVtuberが誕生したということでもある】
「そうそう、まあ結果オーライってやつだヨ」
コメントを拾いつつ、がるる先生が浪費癖をごまかす。
「半年以上、ほとんど毎日活動してきた。それだけですごいよ、カッコいいと思ウ」
「あ、ありがとうございます」
がるる先生は、配信頻度は低いからね。
それだけで尊敬に値するということかもしれない。
【エモい、エモいけど……】
【浪費癖があるのはごまかせないぞがるる先生】
「あんまり反応良くないですね」
「あれエ?」
可愛らしく首をかしげるがるる先生に、コメント欄は大いに盛り上がる。
どうやらがるる先生、なかなかのいじられ
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