拝啓転生者へ〜「未来予知」があっても「傲慢」だと上手くいきません。〜

シロウ

第1話 恩寵と呪いは紙一重


「これで貴様が俺の足元に及ぶ可能性すら微塵もないことがその足りない脳でも理解できただろう。わかったら二度と俺に勝てるなど神でも思い付かぬような傲慢な考えはしないことだ。」


130cmほどの小柄な体格な少年が床に倒れ込んでいる少年に向かって言い放った。先ほどまでは力強く木刀を握っていたのに、今は全く手に力が入らず少年は、ただ自分を瞬殺した相手を睨みつけることしかできない。言い返してやりたい気持ちはあるが、自分から勝負を吹っ掛けておいてこの有様。今更何を言い返すことができようか。これ以上、言葉を紡げば自分が惨めになるということを理解しているからか、少年は言葉を返すことはできない。


自分を睨む少年を数秒観察するかのように、見つめた後、勝負に勝利した少年はその場を去っていった。


それを合図としたように周囲に集まっていた野次馬もこの場を去っていく。


(これだと、先が思いやられるぞ、、、)


勝負に勝利した少年も内心では弱音を吐いているが、恩寵によってそれを面に出すことはできない。そのため周囲のものがそれに気づくことも当然ない。この物語は不運なことにより異世界転生してしまったとある男性の物語である。


◇◇◇


(まだ入学もしていないのに、どうしてこんなことになってしまったんだ、、、)


今年で8歳になるマイル = アストライオスは自分が置かれた境遇について考えていた。前世では飯田圭介(いいだ けいすけ)32歳サラリーマンとして独身ではあるものの、そこそこ楽しい生活を送っていた。しかし、赤信号を無視して交差点に侵入してきた車に撥ねられ、体に今までに感じたことがない衝撃が走った。そこまでは覚えている。しかし、次に意識が戻った時には、この体。つまりマイルの体が自分のものとなっていた。


自分がどうしてマイルの体に乗り移ったのか。元からいたマイルという人格はどこにいってしまったのか。前世の自分の体はどうなったのか。そもそも元いた世界のことを前世と呼ぶのが正しいのか。どうすれば前世に戻ることができるのか。疑問は止まることを知らない壊れた蛇口から流れ出る水のごとく、いくらでも湧いてくる。


しかし、自分がマイルとなったのは当時6歳の頃であり、約2年ほどの時間が経過した。決して短くない時間をマイルとして過ごしたことで分かったことも多かったが、特に今考えるべきことは4つだった。


①この世界は剣と魔法のファンタジー世界であること

②自分はこの世界に1人しかいない「恩寵持ち」であること。

③「恩寵持ち」であることを話すと絶命すること。

④このまま放置すれば俺は12歳で死ぬこと。


飯田圭介ことマイルには、自分が転生する前のマイルが生きた6年間の記憶があった。つまり、転生前のマイルの6年間と飯田圭介として生きた32年間の記憶どちらも記憶として存在していた。当初は混乱こそしたが、この記憶のおかげで生活自体にはそこまで苦労せずに馴染むことができた。そして、世界には「恩寵持ち」という言葉が存在する。恩寵とは、女神より与えられた特別な能力のことらしく、恩寵を与えられた自分ぶつのことを「恩寵持ち」と呼ぶ。しかし、恩寵持ちは同じ時代に2人以上は存在しないと言われており、また、過去に「恩寵持ち」を自ら告白した人物はその場で絶命したという。


恩寵については歴史書にも記されており、マイル自身も理解している。なぜなら、マイルは恩寵持ちであり、恩寵持ちは自分の恩寵がどのような能力であるものか把握することが可能であるからだ。把握、とはいっても詳細がわかるわけではなく「なんとなくわかる」といった曖昧な感覚である。しかし、マイルは自身の恩寵の名前が「未来予知」と「傲慢」であることは認識しており、恩寵持ちであることを公言=死であるのだと感じている。


(恩寵はいんだけどさ、、、「傲慢」って恩寵というか、ただの呪いなんだよな、、、)

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