第1860話・北の地の強訴・その二

本日、書籍版・戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。七巻発売日になります。

地域により入荷の誤差があります。

また拙作はあまり書店様に並びません。

お近くの書店様に確認または、インターネットでのご購入をお願い致します。

電子書籍版も同日発売のようです。こちらもよろしくお願いいたします。


あと、七巻発売記念の超短編SSを近況ノートにて公開しております。

良かったらどうぞ。



Side:とある領境の村


 新しく来られたお代官様の使いが村に来たのは、一刻ほど前のことだった。隣村のお寺様の様子がおかしいので村の者にお城まで逃げるようにとのことだ。


 まさかと思いつつも、斯波様というお方がこの地を治めるようになって以降、隣村とは小競り合いが増えている。


 こっちの村では斯波様のめいにより、田んぼの測り直しをして人の数も正しく数えておった。税が増やされるのかと皆で落胆しておったが、実のところ税が増えたとも言えるし減ったとも言える。


 田んぼの広さに合わせて税を増やされたが、賦役にて飯が食えるようになった。特に食い物が無くなる農閑期に賦役で食えるのはなにより大きい。そればかりか賦役に出られない者が飢えぬようにと、年寄りや幼子まで施しを受けた時には心底驚いた。


 ただ、それらは斯波様のご領地のみのこと。隣村はお寺様の寺領なのでまったくないらしい。


 ここらは冬と夏には飢える者が出る。今年おらの村は飢える者は出なかったが、隣村はいつもの年以上に飢えたって聞いた。近々来るだろうと皆で話していたんだ。


 いつも、秋の刈り入れがもうすぐだって時に奪いにくるんだからな。


「まだおったのか! さっさと城に入れ! ここでは守り切れぬ」


「畏れながら、ここはおらたちの村だ。相手が誰であれ守らなきゃならねえ」


 斯波様に降った領主様の使いが逃げろと言うが、村の者で話をして追い返してやると決めたんだ。


 あいつら仏様のためだと騒いで、こっちの田んぼで苅田をしたりするのは昔からだからな。おらたちは仏様の罰も怖くねえ!


「それはそうだが……、八戸のお方様は皆が飢えぬように施すと仰せだとのこと。それに兵も来る。すぐに村は取り返せるぞ」


「なら助けが来るまでおらたちが守る! お叱りを受けてもええ」


 使いの男も迷うのか困った顔をする。だが、村を守るのはおらたちなんだ。


「わかった。上にはそう報告する」


 斯波様が南部様と違うのは分かる。だが、隣村のやつらに勝手にされるのは我慢ならねえ。




 村の外れに奴らがやってきたのは、使いの男が戻ってすぐだった。


「これより神仏を軽んじる下賤な女を正すべく我らは訴え出る。そのほうらも同道せよ!」


 訴え出る? なに言ってやがるんだ?


「そんなことよりおらたちの田んぼに近寄るな!!」


 お坊様が偉そうに命じるが、隣村のやつらは早くもおらたちの田んぼに入って苅田を始めた。下賤な女ってのが誰か知らねえが、それとこれとは話が違う!


「ああ、おらの田んぼが……」


「せっかくあそこまで育ったのに……」


「下郎が、神仏に仕える我らに逆らう気か? 悪いのはすべて神仏を愚弄する下賤な女だ。大人しく従わねば仏罰を下すぞ!」


 もう我慢ならねえ。隣村は昔からそうだ。なにかにつけて神仏だ神仏だと口にして田んぼや水を己らの有利に奪おうとする。


「知るか! 村を守れ!!」


 田んぼを荒らされた奴が涙を浮かべて槍を手に駆けだすと、皆で続く。守らねえとおらたちが飢えるんだ。


「この罰当たりどもが! 許さぬぞ! 許さぬぞ! 地獄に落としてくれるわ!!」


 守らねえとならねえ!


 あんな坊主怖くねえ!!




Side:とある武官


 ちっ、間に合わなかったか。関所の兵はおらぬ。うまく逃げておればよいが……。


 領境では双方の村の者同士が入り乱れてすでに争っておる。


「仏敵が来たぞ! 奴らがすべての元凶だ! 奴らを討てば神仏もまた我らに慈悲を下さり己らの暮らしも楽になるぞ!!」


 口先だけ達者な坊主が寺領の民を煽っておるな。小競り合いがお手の物なのは奴らも同じか。だが……。


 舐めるな!!


「焙烙隊! 後ろの坊主を狙えるか!」


「はっ、お任せを!」


「こっちの民に当てるなよ! 弓隊、弩隊、共に坊主を狙え!」


 あいにくだったな。オレは三河の生まれで本證寺の戦も参陣していたのだ。たいした武功も上げておらぬが、坊主に情けをかけるほど甘くないわ!


「放て!!」


 焙烙隊は配下として与えられた当地の者を鍛練して任じた。いずこかの農民の子らだと聞いたが、紐付き焙烙玉を投げるのが上手い奴だ。


 火を付けた焙烙玉を振り回して投げると、入り乱れておる民の頭上を越えて、坊主のところへと飛んでいく。


 坊主どもめ。逃げぬところをみると焙烙玉も知らぬらしいな。




 焙烙玉は後ろで見ておるだけの坊主どもの真ん中に落ちた。大きな音と共に散り散りとなり破片が周囲に散乱すると、その大きな音に驚いた民らは争うのを忘れたように動かなくなる。


「うぎゃぁぁ!」


「痛ぃ! 痛ぃぃ!!」


「何事じゃ! 何事じゃぁぁ!!」


 焙烙玉を受けた坊主らはなにが起きたか分からなんだようだ。人とは思えぬ奇声を発し、恥も外聞もなく転げまわり這いつくばるように逃げようとする。


「ひぃぃ! 死にたくない!」


「仏罰じゃ! 仏罰じゃぞ!!」


「死にたくない者は大人しくしろ! 坊主でなくば命だけは助けてやる!」


 寺領の民が四散するように逃げ出すが、今はそれどころではない。坊主を討たねばならぬ。


「まっ、待て! わしは南部家中の……」


「知るか! 地獄に落ちろ!」


 わしと兵、こちらの民で坊主を逃がすなと、ひとり残らず討ち取っていく。


 この寺が以前から騒ぎを起こしておったことは承知なのだ。南部家家臣筋と昵懇な立場を利用して近隣の村に無理難題を言う。元領主も南部と寺には逆らえぬと見て見ぬふりをしておったが、お方様の目に留まったのが運の尽きよ。


「よいか! 愚かな坊主を成敗することも武士の務め! 斯波の御屋形様は決して無法者を許さぬ!」


 討った坊主の亡骸など捨て置いて、寺領の民を追いかけて行こうとする民にわしは高らかに訴える。


 堕落して仏道を忘れた坊主など、我ら織田の者は決して許さぬのだ。


「坊主の首を取れ、晒してやるわ」


 あとは田んぼを荒らした寺領の民を捕らえて、後詰めを待って寺を焼き払ってやるわ。


 本證寺のようにすべてを消し去ってくれる!


 幾度となく話し合いに応じておった最中に勝手なことをした者がいかになるか、奥羽の地に確と示さねばならぬからな。





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