第1528話・一段落して
Side:久遠一馬
武芸大会も無事に終わったな。文化と工芸部門は今年も五日ほど延長して展示開催していた。
清洲に集まった人たちが、津島・蟹江・熱田などの町に流れて大賑わいになっていて、上皇陛下からの要望があり、そちらもご照覧いただいている。
陛下が詠まれた和歌がどうなっているのか、知りたかったこともあるらしい。朝から晩まで連日拝見しようと人が集まっていると説明を受けると喜んでおられた。あと津島の書画展示や蟹江の工芸部門の展示も回られてお喜びいただいた。
書画、これに関しては身分のある人であっても、多くの書画をまとめて見る機会というのはあまりない。この時代だと美術館とかないしね。
あと、蟹江の職人の展示品に関してはウチの清兵衛さんが説明役として同行していて、京極さんや姉小路さんのフォローを受けて説明をしてくれた。ちなみに今年は大八車が多かったなという印象だね。
焼き物村が出品した白磁の品に関しては絵師の協力などを得たようで、一級品の磁器が幾つも並び多くの人を集めていた。中には言い値でいいから売ってほしいという話もあったようだけど、焼き物村の品物は織田家の許可がない相手に販売していない。
まあ、高くて買えないと思うけど。ウチで持ち込んだのと焼き物村での生産で品数は相応にあるものの、値段は商人が買えるようなレベルじゃない。
「殿、模擬戦の報告がまとまりました」
そんなことがありつつ、この日は一益さんが初陣組の模擬戦に関する報告書を持ってきてくれた。
模擬戦の検証をした内容だ。初陣組とウチの動きや戦術などと、良かった点や悪かった点もある。参加したみんなの意見もまとめてくれているので相応の量になっているね。
「ご苦労様。うーん、やっぱり加減のことが幾つかあるね」
ウチの連携や戦術の問題点もあるものの、一番多いのは今後初陣の者を相手にどこまでやるべきかという意見だ。
「若武衛様はアーシャ様の教えを受けておるので上手く差配されましたが、他の者では難しいかというのは某も思いまする」
模擬戦として成立した功労者は義信君だろう。きちんと軍勢と軍勢の試合になっていた。ところが勝ち目のない勝負で、次回以降も同じく我慢してやれるのかという疑問が幾つか出ているね。
下手をすると大人組が蹴散らすだけの模擬戦になるのではという意見がある。ただ、この問題は逆もあるんだよね。学校とか教育が整うと子供のほうが強くなる可能性もある。
「またみんなで考えていくしかないね」
この件は織田家の皆さんと一緒に考えていくしかない。ああ、義信君たち初陣組の子たちとは、後日模擬戦に関する授業をすることにしている。
向こうも報告書を出すだろうし、最後は双方で話して今後の参考にする。
「殿の差配に驚いた者も多かったようで、某の耳にまで入っておりまする」
「難しいことはしていないんだけどね。みんなで考えて準備したものだから」
模擬戦、これの影響も思った以上に大きい。オレの差配に驚いた人が相応にいた。義輝さんとか具教さんでも驚いたと言っていたほどだ。
ただね。ルールを決めていて事前に支度を出来る模擬戦だと、オレの差配がどうとかいうレベルじゃないと思うんだよね。初陣組も事前に集まって訓練していたはずだし、当然ウチでも準備と訓練をしてある。
「左様でございますな。とはいえ戦に強いか弱いかで考える者が多くおります」
オレ自身、割と普通に楽しんでもいた。模擬戦のような競技は嫌いじゃないからだろう。影響を注視していく必要もあるけど、あまり神経質になっても仕方ない。
オレがよく会う人たちはそこまで大袈裟に驚いてないんだよね。ウチも試行錯誤しているのを知っているし、警備兵や武官の戦術を教えているのはジュリアやセレスだから。同じことを出来ると思っている人が多い。
個人的には誰が指揮してもそれなりにやれるようにしたい。オレだって、もともとは普通の一般人だし。同じくらいに出来る人なら育てられるはずだ。
Side:季代子
大浦家と津軽半島西側は降りそうなところは従えた。無論、ここでは私たちが余所者ということもあるし、南部家が未だ健在ということで日和見をしているところもある。寺社も現状では様子見というところが多いかしらね。
さらに口先だけで領地召し上げと俸禄化をのんだところもあると思うわ。本当に変わるとなると抵抗するところもありそうだけど。
ただ、私たちからすると、そこまでこの地の統一を急いでいない。どちらにしても脅威になる勢力はおらず、厚遇するほどの者もいない。
まあ、大浦家の者たちが思ったよりも本気で働いているから、状況は悪くないわ。
「そう、なら戦しかないわね」
安東に出した使者が戻った。蝦夷での謝罪と賠償を求めたものの、こちらの言い分を言い掛かりだとして逆に蝦夷の領地を返せと返答があった。
津軽半島は大丈夫ね。近隣に南部方の国人や土豪はいるけど、津軽半島の東側を領有する浪岡家はこちらに敵対する意思がない。懸念は安東と南部が組むことになる。その前に安東を攻めたほうがいいわね。
「これから冬になりまするが……」
「師走の前に私たちは尾張に行くわ。その前に檜山城は攻め落とすわ」
この地では雪が降ると戦なんてしない。日本海側では雪が多いので戦どころじゃないのが実情のようね。ただ、こちらは冬季の進軍も可能なのよ。さすがに進軍速度は遅いし苦労もする。それでも冬季の装備とゲルを使用することで、蝦夷でも移動なんかしていたもの。
まあ、安東は海路と陸路で攻められる。安東領をすべて落とすのは難しいでしょうけど、安東の本城である檜山城と土崎湊くらいは尾張に行く前に落とせるはずよ。
出羽北部も広いから平定するのは年明けかしらね。
あと、安東攻めの噂はすでに流してある。戸沢や浅利など近隣で争うところには特にね。様子見をするのか便乗して動くのか分からないけど、彼らの動き次第ではさらにこちらが有利となるわ。
安東愛季。数えで十六歳。史実に鑑みるとそれなりの人物になると思うけど、いかんせん若すぎる。さらに安東家自体、今は檜山安東家と湊安東家とに分裂している。
蝦夷を失ったこともあり、あちらも混乱していると思うわ。余計な時を与えず降すべきね。混乱で死なせるには少し惜しい人物かもしれないもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます