第1522話・初陣組の模擬戦
Side:久遠一馬
会場がざわめいているね。まあ、気持ちは分かる。
エル、ジュリア、セレス、すず、チェリー、春、夏、ジャクリーヌの八人と一益さん、益氏さん、慶次、太郎左衛門さん、太田さん、石舟斎さん、金さんなどなど、ウチで集められる対外評価の高い
相手は今年初陣する子たちの選抜だ。大将は義信君。百対百の模擬戦になる。義信君以外の初陣の子たちは事前に選抜メンバーを選ぶために予選をしている。家柄や実力を考慮して義統さんと評定衆で選んだ相手だ。
ただ、対戦相手の子たちは騒然としているね。初陣戦の相手、秘密にしていたからだろう。ただ、実はオレもこういう経験がないから、どうするべきか少し迷う。
「若い子たちが夢を持ち、目指す先が見えるようにしよう。それが大人の役目だ。戦術は単純でいい。手加減も不要だね。地力の差を見せてやろう」
「はっ!」
正直、大将となって戦うのは初めてなんだよね。この世界に来て。
ただ、ギャラクシー・オブ・プラネットの頃を思い出す。あの頃はエルたちとこうしてミッションやイベントに参加したこともあるんだ。
「エル、作戦を」
「はい、では構築する陣地についてと配置を決めます」
この手の模擬戦は経験や連携が重要になる。その点、相手は初陣を迎える子たちの連合チームだ。事前に武官の指導のもと練習をしているはずだけどね。それでもウチの優位は崩せないだろう。
始まる前に野戦陣地を構築するのも通常の模擬戦と同じ。特に目新しい戦術は要らない。オーソドックスな戦術こそ、こちらにとって一番であり、必要なのは相手に合わせて戦えるかだ。
もっとも細かい技術はこの時代と違う。特にうちは将が目立つようなことはしないし、オレも含めて全員が同じ革製の鎧だ。さらにウチでは独自のハンドサイン等もある。敵とどう戦うか。細かい技術は初陣組とは比べようもない。
「いいねぇ。模擬戦は一度出てみたかったんだよ」
「久遠の御家では出るに出られませんでしたからなぁ」
みんなワクワクした様子だ。ジュリアと慶次は特に。ちなみにオレとエルと慶次なんかは、武芸大会自体が初出場なんだけど。
みんな気負いとかないのが凄い。
「いざゆかん。敵陣は目前でござる!」
「バッタバッタと倒すのです!」
不謹慎かもしれないけど、こうしてみんなで模擬戦をするのが楽しいかもしれない。すずとチェリーも少し興奮気味だ。
武器も違うし、設定も違う。でも、こうしてオレたちはギャラクシー・オブ・プラネットの世界を楽しんでいたんだ。
部隊は主に四つに分ける。ジュリアとセレスの前備、すずとチェリーの右備、春と夏の左備と、オレとエルとジャクリーヌの後備を兼ねる指揮所の本陣だ。
「殿、かようなことを望まれておられぬのかと思うておりましたが、楽しそうでございますな」
「まあね。こういう機会はあまりないから」
どうやらオレの表情も分かるくらいに出ているらしい。一益さんが少し意外そうにしている。ただね。戦を嫌うのはリアルで人の命が失われるからだ。演習とかまで嫌いなわけではない。
さて、義信君はどう出るかな?
Side:斯波義信
「まさか……」
「内匠頭様が……」
相手が誰であれ勝つのだと意気込んでおった者らが意気消沈とまで言わぬが、戸惑うておる。元服をしたばかりの者らにとって一馬は縁遠い相手なのだなと実感する。
事前に聞いておったのはわしひとりだ。この時まで明かさなんだのは父上と弾正殿の考えだ。一馬を相手に戦を知らぬ若い者らがいかに動くか。見たかったらしい。
「鉄砲も金色砲もない。ならば互角ではないか。オレはやるぞ!」
「おお、オレもだ!!」
このままでは模擬戦にもならぬかもしれぬと思うておると、幾人かの者が声を上げた。
そうなのだ。命を奪われることもない模擬戦だ。ここで尻込みするなどあってはならんことだ。とはいえ、鉄砲と金色砲がないだけで互角とは、随分と甘く見ておるな。
「されどいかがする? 今巴様、氷雨様を筆頭に我らでは勝てぬ御方ばかりぞ」
なんとか士気が上がると、そこでようやく皆が考え始めた。これもまた一馬らの教えのひとつであろう。戦においていかに振る舞うか。一馬は戦が始まる前をもっとも重んじると皆に教えておったからの。
ただ、こちらの策が決まらぬ間にあちらは布陣が見える。中央は今巴の方と氷雨の方か。あのふたりを知るわしからすると中央は避けたくなる。されど左右も決して手薄と言えぬ。
右備は警備兵として名を馳せている刀の方ことすずと忍の方ことチェリー。左備は久遠家でもっとも恐ろしいと言われる曙の方こと春と夜月の方こと夏がおる。
本陣は大智の方と雷鳥の方か。下魚を上魚に変え、兵を挙げずして敵を降す。今川を臣従させたのは大智の方だ。さらに新たに設けた雷鳥隊の差配をしておることから、近頃では雷鳥の方と言われているジャクリーヌ。
人を助けることを命題とした雷鳥隊だが、その武も決して軽んじられる者たちではない。
その上、家臣らもまた名のある者から密かに一目置かれる者が多い。武芸大会に出てこなんだ今弁慶こと慶次郎も出ておるくらいだ。あまり言うとまた士気が下がるので言わぬが、元服したばかりの皆では名も顔も知らぬ者も織田の武官並みに強い。
これがまことの戦場ならば、わしは降ることを選ぶであろうな。鉄砲と金色砲がなくとも勝てる相手ではない。
Side:足利義輝
北畠と六角や招いた寺社の者らが騒然としておる。さもありなん。一馬がかような場で己の差配を披露するとは誰が思うか。
斯波と織田がここまで大きくなったのは紛れもなく久遠の力。それは武衛や弾正とて認めておること。されど、金色砲や鉄砲など他者が真似出来ぬ戦をする一馬が、あえて皆と同じ作法で戦をする。これにはオレも驚きを隠せなんだわ。
「さて、いかほどやれるかの。倅と初陣の者らは」
「討って出ただけでも褒めてやらねばなりませぬな。某も一馬だけは相手にするのを御免被りまする」
武衛と弾正は余裕だな。談笑しておるわ。初陣の相手を一馬がするなど、誰が考えたのかは知らぬが、ここで一馬の力を示すことを良しとしたか。
「人の差配は元より得意な男よ。戦場でも同じであろうが……」
北畠の大御所が面白げな笑みでこの戦いを考えておるが、その通りか。一馬は適材適所と言うておったな。人を配置して命を下すということが得意と言えば得意か。
日頃から誰よりも役目や仕事をしておるのに、気づくと子らと遊んだり畑を耕したりしておる。真似出来るようで出来ぬ。与一郎でさえも同じことは出来ぬと舌を巻くのだ。
一馬、そなたはこの場の皆になにを見せたいのだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます