第1464話・花火が終わると政が始まる
Side:久遠一馬
津島天王祭と花火大会は無事に終わった。他国からの招待客は諸問題の交渉を終えると帰国する。
大きな変化だと、三好長慶さんの嫡男である義興さんと北条氏康さんの娘さんの婚姻の話が進んでいることか。娘さんは史実で今川氏真に嫁いだ早川殿だと思われるが。
これ、オレはオーバーテクノロジーでの情報収集があるから知っていたけど、織田としては今回が初耳なんだよね。この時代のこういう情報は少数が手紙のやり取りをして決めていくので外に漏れにくい。
早川殿を北条家の本家筋にあたる伊勢家の養女として三好に嫁がせる。これによって北条は畿内と幕府との繋がりを深めることになり、三好は伊勢家と東の北条と誼を得ることになる。
今川・武田・北条の三国同盟がなかったからなぁ。ここに影響が出たらしい。
あと北条とは尾張に来て以降、駿河と伊豆の領境の扱いや、経済と暮らしの格差についてかなり突っ込んだ議論をしている。放っておくと伊豆が揺れる。まあ、少し考えれば分かることだからね。
一応、プランテーション案、織田農場の計画は教えた。ただ、こちらは持ち帰り検討することになるようだ。
あそこは面従腹背の国人とか多いし、こちらが思っている以上に伊豆の統治は大変らしいね。
あと具教さんの子供たちも今回は花火見物に来ていた。嫡男の
子供たちに尾張を見せたいと連れてきたらしいね。正直、武芸をあまり好まない子らしい。具房君は。剣豪でもある具教さんにはそこが気にいらないみたいだけど、そういうのって性格とか個性でもあるからなぁ。
同じく六角義賢さんも嫡男の
元の世界の逸話だといろいろとある人だが、まだ子供だしね。今後の教育次第かな。報告では両家の子供たちも普通に花火を楽しんでいたということだ。
あと朝倉からは当主の義景さんが来ている。こちらはなんというか、特に話すべきこともなく、友好を深めることに努めている感じか。宗滴さんの見舞いに一度牧場に行ったらしいが、あとは特に目立った動きはない。
小笠原・今川・武田と連続で臣従したことでもう少し焦っているかなと思ったけど、一言で言えば動きようがないのが現状らしい。
宗滴さんが完全隠居して尾張にいることで、朝倉家中では権力争いや主導権争いが水面下であるようなんだ。今のところ斯波との因縁は気になるものの、現状でそれなりに誼があるならそれでいいというのが本音のようだ。
六角も健在だしね。畿内への影響力は経済を考慮して見る目と才覚がないと尾張にそこまであるとは思えないんだろうし。
ああ、信濃の村上の使者は花火が終わるとさっさと帰っている。使者は扱いが良くないと若干不満があったようだけど、特別冷遇も厚遇もしていない。村上とは特に話すことないんだよね。こちらから求めるものはないし、向こうもなにも言ってこなかった。
自分に負けた武田と今川が潰し合い、小笠原ともども自滅した。斯波と織田はその漁夫の利を得たくらいにしか考えていないっぽいね。
残るは各地の寺社だが、ここは寺社奉行が相手をしていて、オレは関与をしていない。
抜け荷の問題で謝罪に来たところもあるけど、オレと妻たちは会っていない。口先での謝罪だけで許す気もないしね。
領外の抜け荷に関わった者たちは最低限のペナルティとして弁済させる。今川と武田も含めて、抜け荷の利益と賠償の金額を分割で払わせるんだ。その上で数年間は、彼らに対する贅沢品などの販売価格を上げる処罰がある。
どうも今川と武田の臣従で、自分たちの抜け荷も当然許されるだろうと高を括っていたらしい。この時代の価値観では、それがまあ妥当な判断だろう。ただし、織田ではもうそういう価値観は通用しないし、それは事前交渉をしていた今川にはきちんと伝えてある。押しかけ臣従の武田は事後に伝えたけどね。
あと、ここで面倒臭くなっている一因はオレにもある。織田の処罰と別に期間限定ながら、ウチの品物の扱い禁止を通達したからだ。
何様だと怒っているところもあるし、なぜ織田家とは別に罰を与えるなどとほざくんだと、不満を口にするところもあるようなんだ。
他所から見ると、オレはやっぱり氏素性の怪しい織田の家臣でしかないからね。どうしても上から目線で見ているところがある。
あまりうるさいところとは絶縁するだけだ。寺社奉行にはそう伝えてある。頭と値を下げて売りに来いとか、寄越すのが当たり前だと思われるのはおかしい。
いろいろと大変だよ。ほんとに。
Side:織田信長
家中では公家衆の不遜なままに
当初は都の公家が来たことにありがたいと喜んでおった者ばかりであったが、幾度か来るうちに、目当てが銭だと知ると面白うない者が出始めた。
さらにそれとは別に守護様と親父は朝廷に巻き込まれることを望まず、近衛公らと意見の違いが顕著になりつつある。
朝廷も突き詰めると欲深な人の集まりということなのであろうな。古き権威とその名で皆がありがたがるが、内情はそこらの武士や坊主とあまり大差ないらしい。
「院や帝は、さぞ苦しんでおられよう」
此度の御幸といい、昨年の行啓といい、院と成られても、次代を継がれる親王殿下の身の内も、即位を経て帝と成られても、己の言いたいことも言えぬようなお立場だとしか思えぬ。
公卿はまだよいが、働きもせぬ公家を院や帝が抱えねばならぬとは。いかがなものなのであろうな? 尾張の鄙者のオレには到底理解出来ぬわ。
院や帝が尾張者の我らにも配慮をするような御方故に、尾張では院や帝への悪い噂は聞かれぬ。
ただ、その分だけ公家衆や公卿に不満が出ておるが。
「憎まれ役も必要だからねぇ。公卿や公家もそれを理解して動いている奴はいるさ」
「なるほど。近衛公や山科卿はそういう立場でもあったか」
「もう少し利を増やして懐柔すると変わるんだろうけどね。でもそれをやると、今度は畿内の諸勢力を敵に回しかねない。加減は難しいよ。ここらはアタシには分からないね」
少し悩み、ジュリアに話してみるが、誰よりも本音を隠さぬ故に分かりやすくてよいな。
「上様と管領代殿、それと三好殿が困るからね。アタシたちは東が落ち着かないため動けませんというだけでいいのさ」
せめて身分相応の体裁を整えられるようにと配慮したのが、仇となるか。政とは難しきものよな。
「幾人か働きたいというておるらしいが?」
「まあ、それは守護様と大殿次第だね。図書寮の再建を早めるのが一番だと思うけど。こっちで引き抜く形にすると、残った者とこっちに来た者が今度は対立しかねない。いずれにしても面倒なものさ」
姉小路や京極の話では、幾人かの公家は次男や三男でいいので使ってくれぬかという者がおるらしい。
公家の家としては残さねばならぬが、次男以降は特に役目もなければ暇を持て余しておる者も少なくないと聞くからな。
寺で出家させるか、他家に出すか。尾張との縁が欲しい者が多いということであろう。
領地が広がれば広がるだけ、新たな懸案や厄介事が出るか。
なんとも言えぬな。
◆◆
注意・官位が変更になっています。
一馬=内匠助→内匠頭
信秀=内匠頭→弾正大弼。作中では「弾正」とします。
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