第514話・南蛮船来る(本物)

Side:ポルトガルの南蛮人


 オレは前々から胡散臭いと思っていたんだ。偉そうなことをほざくくせに上に行けば行くほど好き勝手してやがる。神父どもが口先だけだってわかっていたんだ。


 それなのにあのくそ野郎ども。てめえらが海に嫌われて死んじまったくせに、オレたち船乗りが神を信じないのが悪いだなんて責任転嫁しやがって。


 自分らが恐いだけのくせに神に見放された船には乗りたくねえなんて言って、陸路で帰る奴までいる始末だ。おかげで本国にも帰れずにこんな世界の果てで猿どもの相手をしなくちゃならねえ。


「かしら、本当にこんなところに女がいるんですかね?」


「知らん。猿どもの言うことだ。あてにするな」


 明の連中が蛮族だというこの島にわざわざ来たのは、女が、白人の女がこの島のオワリという場所にいると聞いたからだ。


 風の噂では教会のくそ野郎どもに追放された連中がここまで逃げてきたんじゃないかって話だ。胡散臭い話だし多分ホラ話だろうがな。


 猿に見飽きたことと、サカイという町では言い値でモノが売れるというのでついでに調べてみようと、わざわざこんなところまで来たんだ。


「でも大丈夫なんですか? かしら。黒い船は死神だって話ですぜ」


「ふん。教会のくそ野郎どもの言うことなんて信じるだけ馬鹿を見るんだ。それに本当に黒いガレオン船がこんなところにあるなら本国の馬鹿どもに知らせれば、報奨金が貰えるはずだ」


 サカイって町でわかった。この島は大砲どころか最近まで鉄砲すら知らなかったんだ。ちょっと脅してやれば問題ねえ。それにどうせこの島の連中はまともな船もねえ。沖には出てこられねえんだ。なにかあれば沖に逃げれば問題ねぇはずだ。


 いつからか黒いガレオン船があるなんて噂があって、実際に見たという奴も結構いた。ルソンや明の辺りに出るらしい。もっとも見たこともねえほどの大きさだって、大げさになってやがる話だ。十中八九、話が大きくなったホラ話だろうがな。


「かしら! 港だ!」


「ほう、あの連中が言ったことも満更嘘じゃねえらしいな」


 サカイから連れてきた奴隷が言っていた港があった。中々の港だ。ただし……。


「やっぱりな。あれのどこがガレオン船だ。帆の張り方を猿真似しただけじゃねえか」


「確かに……」


 港に噂の黒い船があった。ただ、あれはガレオン船じゃねえ。帆の張り方が違うし、船の造りもまったく違う。


 期待して損したぜ。白人の女がいる可能性もこれでなくなった。とはいえここまで来たんだ。手ぶらでは帰れねえ。たっぷりとふんだくって、思う存分にらししてやるぜ。




Side:久遠一馬


 花火は無事に終わった。各地から来た人たちは、少なくないお土産や商品を買ってくれている。経済的にいえば大成功だ。


 細かい問題は相変わらずいろいろあるが、ひとつひとつ経験を積む必要がある。まあこんなもんだろう。


 今後しばらくは公家や招待客を招いてのお茶会やら連歌を詠む句会があるが、オレは茶会に参加するだけでいいみたい。ここでは外国人だからね。句会はルールを知らないということで免除された。


「あれが本元ほんもとの南蛮船か。黒くはないな」


 それはいいんだが、花火大会から二日後。蟹江の港に見知らぬ船が二隻来たと連絡が入った。形は少し古いキャラック船だ。いわゆるガレオン船の前身だった船だと元の世界では言われていた船だね。


 ガレオン船は最新の船だし高価だから、欧州が極東と蔑む東アジアには古いキャラック船のほうが多いみたいだ。


 オレと信長さんは堺の一件から万が一を考慮して、すぐに集められるだけの兵を集めて蟹江にやってきたが、二隻のキャラック船は沖合に止まったまま様子を見ているようだ。


 幸か不幸か、それが誰にとってか、真相は言わぬが花だが、ウチの船は津島に行っていて蟹江にはいないんだよね。花火大会のために来た他国の人たちに見せるために、ガレオン船が二隻とキャラベル船が一隻の計三隻が津島に移動して停泊中だ。津島湊の湊居守みなといもりと呼ばれている津島配備中のキャラベル船一隻では、ちょっと寂しいからね。


 威嚇と織田の力を見せるために、オレたちが乗って帰ってきた船がそのまま尾張にあるんだ。


 今蟹江の港にあるのは荷物を運んできた旧式の和船を改造した久遠船だ。


「松永殿。あれが堺で暴れていた船どもですか?」


「いかにも。某が見た船どもですな」


 あとこの場にはギリワンこと松永久秀さんがいる。この人、ウチが教えた南蛮人に関する情報だけ三好長慶のところに送って、自分は義統さん主催のお茶会と句会に出る気で残っていたんだよね。


 確認のために人を寄越してほしいと頼んだら本人が来た。行動力もあるらしい。


「さて、いかがするか」


「上陸してほしいですね。上陸すれば生きたまま捕らえられます」


 清洲に知らせも出して信秀さんからは堺で暴れた南蛮人か確認するようにとの命令と、暴れるようなら討ち取ってもいいと許可をもらっている。


 ちょうど朝廷からの使者である山科さんもまだ尾張にいるんだよね。信秀さんや義統さんとの会見では堺の南蛮人の件が出たらしい。


 明の船を沈めたことがかなり大きな問題として受け取られている。堺は金色酒の件でも朝廷が不満を感じていたようだが、今回のことはそれと比較にならない問題だ。


 密貿易船だしね。これで明が怒って攻めてくることまでは考えてないようだが、密貿易船で運んでくる絹などの品は朝廷だって欲しいものだしね。


 得体の知れない南蛮人より明の人間を上に見るのは、この時代では当然だろう。


 ここで協力すると織田のイメージアップになるね。




「なっ! 連中やる気か!?」


「連中の手口ですぞ。堺でもそれで明の船を沈めましたからな」


 オレと信長さんは警備兵を連れて蟹江に入って港に急ぐが、キャラック船の一隻から突然大砲が撃たれた。港に命中しちゃったじゃないか!


 さすがに信長さんや警備兵のみんなも驚くが、ここで冷静に連中の目的を教えてくれたのは松永さんだ。出来る男というのは事実らしいね。危ないから町の外で待っているように言ったのに。


「ここが蛮族の町か。猿どもにはもったいねえな」


「かしら! 本当に白人の女がいますぜ!!」


「早く捕まえて、やっちまいましょうぜ!」


 こちらが警備兵と共に港に到着すると、両方のキャラック船から小舟で南蛮人たちが上陸してくる。ここは直接接岸できるんだけどね。知らないことと用心のためか小舟で上陸してきた。


「この南蛮人たちは商いを求めてるよ」


 通訳として明か東南アジア系の人が一緒だ。通訳は商いというが、南蛮人のいうことはまったく違うんですが?


「かず、言葉はわかるか?」


「ええ。蛮族の町だと言っています。あと白人の女がいるから、はやくやってしまおうって配下たちが騒いでいます」


 オレと信長さんと松永さんはまだ後方にいるので、信長さんは通訳に聞こえないように連中の言葉の意味を聞いてきたので答えたら、松永さんがびっくりしている。


「白人の女とはエルたちのことか? いかに考えても商いを求める態度ではないな」


「恐らくは……」


 この日はエルとセレスとジュリアが一緒にいる。どうも連中はエルたちに興奮しちゃったみたい。言葉がわからないと高を括って好き勝手言っているんだろうな。


 信長さんは直接南蛮人を問いただすべく前に歩みだした。





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