第492話・謎の久遠諸島・その八

Side:久遠一馬


 パフェを食べたあとは、島の代表のみんなが信長さんたちに挨拶をする場を設けた。


 まあイザベラとアンドロイドのみんなは正月には信長さんと会っているし、年配の者が挨拶する程度だったが。


 体裁として武家でないとしているので、堅苦しくする必要はないけどね。以前尾張にも挨拶にいった清十郎などの年配の者たちの擬装ロボットと、諸島域にいる妻たちが挨拶するのは必要だろう。


 特にトラブルもなく挨拶が終わる頃になると歓迎の宴の時間となる。


 この日の宴は屋敷の一番広い部屋でするらしい。パーティールームだろうか? 大きく長いテーブルには真っ白いテーブルクロスが敷かれて、季節の花が飾られている。


 参加するのはこの諸島域にいるということにしているオレの嫁が四十名ほどと、先ほど挨拶した年配者たちだ。佐治水軍の船乗りも合わせると百名を超える大宴会だ。


 ああ、お市ちゃんがテーブルクロスの下が気になったのか、覗いて見ているよ。でもそこはなにもないんだよ。


「美味そうだな」


「島では肉は御馳走なんですよ。野生の獣がいないので育てている分だけになるんです。むしろ鯨のほうがよく食べますね」


 お昼はソーメンだったので、信長さんたちもお腹が空いたのだろう。テーブルに並ぶ料理に皆さんの目の色が変わった。


 メインは豚だ。火山でできた狭い島ゆえに野生の獣がおらず、肉は養豚と養鶏で育てている貴重品になる。家畜としては牛を乳牛として、馬の数も労働力として少数に限って育てている。


 船で運べる穀物の生産はしていない設定なので、牧場も作ったらしい。ステーキや生姜焼きがある。


 飼育された肉なので、柔らかいし獣臭さとかもない。信長さんたちも肉を食べる機会がそれなりにあるだけに、その違いに驚いているね。


 香辛料とか臭み消しとかあまり要らない。豚肉の味を楽しめる料理だ。


「ほう、左様なのか。尾張とは逆だな」


「ええ、これなんかも島では馴染み深いですね。私たちはマグロと呼んでいます。尾張では『しび』と呼ばれている魚ですが……」


 ほかにはポテトサラダもあった。ジャガイモこと馬鈴薯とマグロのツナをマヨネーズで合わせたものだ。島の周りにはマグロが獲れるのでそれをオイル漬けにしたものになる。


 信光さんは尾張と島の価値観の違いに少し驚いているが、サラダの中にマグロが入っていると聞くと少しなんとも言えない表情をした。先入観というか生まれてからずっとある価値観はそう変わらないからね。


「ああ、しびならうまいぞ。前にオレ達が食った」


 ただここで気にせずポテトサラダに手を付けたのは、やはり信長さんだった。そういえば以前に船で運んだマグロを食べさせたんだっけ?


からば某も……。これは美味い。なんというか魚らしくありませんな」


 続いたのは慶次と資清さんとか太田さんとかウチの人間だ。あれこれと食べる機会があるからね。あんまり気にしなくなったんだろうな。


「この白きタレ。おいしゅうございますな」


「うん。おいちい」


 太田さんとお市ちゃんはマヨネーズに反応した。マヨラーの素質があるんだろうか? 


 まあお市ちゃんはポテトサラダが子供向けの味ということもあるんだろうな。


 オレもポテトサラダは久々だ。マヨネーズって自作するのは結構大変なんだよね。でも芋とツナがマヨネーズと合わさると最高の組み合わせだ。


 これだけでご飯が何杯もイケる。


 あとはカンパチのから揚げとかもある。こちらは信長さんなんかはおなじみの味だ。カラッとあがった衣に醤油ベースの味が染みたカンパチの身が美味い。


「しかし、この白き皿一枚とっても相当な値がするのでしょうな」


「ああ、それはウチが南方の領地で焼いているものですからね。それほどでもありませんよ」


 宴は和気あいあいと続いていた。佐治水軍の皆さんは、今日は船の整備をした後はウチの島の人たちと一緒に漁をして浜焼きで楽しんだと聞いている。


 おかげでだいぶ島にも馴染んだらしい。ただ、アイスにはやはり驚いたようで、先ほど合流したら騒ぎになっていたが。


 そんな宴だが、佐治さんは料理を盛り付けている白い皿を見て、いくらくらいするのだろうとため息をこぼしている。


 皿は白磁の磁器だ。白磁の磁器が日ノ本にもまったくないわけではない。大陸から入ってくるからね。ただ日ノ本で白磁の皿の技術を確立したところはまだないようなんだ。そのための焼き物村であるが。


「斯様な皿が本当に尾張で焼けるのか?」


「土次第でしょう。土地が変われば土が変わる。ウチでも必ずとは言えませんね」


 佐治さんの話から話題は焼き物の話になった。この時代の日ノ本で一般的な陶器とは違う薄くて綺麗な磁器に、信長さんでさえも半信半疑らしい。


 実際に日ノ本の職人だって大陸の焼き物を真似ようとはしているんだよね。ただ成功してないだけで。


 ウチは元の世界の知識とオーバーテクノロジーで成功するのが初めからわかっているが、今回の島の訪問で信長さんたちには、常に試行錯誤の繰り返しが必要だということを理解してほしい。


「せっかく皆様がおいでになったのです。少し余興をお見せしたいと思います」


 宴も進むとお酒が中心となり、固かった重臣の子弟の皆さんも表情が和らぐ。


 そんな中、エルが突如余興をするというと信長さんたちは少し驚く。尾張ではエルが余興をしたこととかないからね。ジュリアがリュートを弾いたり、すずとチェリーが手品をしたりすることはあったが。


 ただ秘密はこの部屋にある。このパーティールームには実はオルガンがあるんだ。なんでもチェンバロ、ピアノも設置候補だったらしいけど、何故かオルガン。


 エルがオルガンを弾いて、シンディがバイオリンをリンメイがフルートを担当するらしい。シンディとリンメイは以前にお花見の時にもジュリアと楽器を披露していたので、見た人もいるだろうが。


「おお……」


「なんと……」


 エルがオルガンの前に座り、軽く練習をするように弾き始めると重臣の子弟の皆さんからどよめきが起こった。


 日ノ本にも当然楽器はある。雅楽のような楽器はこの時代より昔からあるくらいだからね。とはいえ尾張の人が聞いたことがあるものは限られている。笛や太鼓はあるけどね。ちなみにパイプオルガンはシルクロードをて雅楽の楽器『しょう』に影響されたらしい。


 エルの奏でるオルガンの独特の音色に、賑やかだった宴は一気に静まり返っていた。


「では、参ります」


 そして本番になるとオルガンの音色にバイオリンやフルートの音色が加わり、一気に華やかな音色となる。


 なんというか重厚感のあるクラシックではなく、楽しく感じる曲だ。


 豪華な屋敷だけど、やっぱり音楽があると一気に宴が華やかとなる。


 こんな音楽を聴きながら、みんなでこうして御馳走を食べてお酒を飲むのも悪くないね。




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