第475話・病院での日常
Side:パメラ
今日も病院は混雑してる。医療型アンドロイドのみんなや見習い医師のみんなと交代で診察しているけど、最近じゃ遠方から来る患者さんもいるの。
「痛いよお。痛いよお」
「はーい。大丈夫だよ~。痛いの痛いの飛んでけ~」
あーん。重症じゃないの! 来るのが遅いよ~。輸血がないと手術は無理だし、ナノマシンで治療するしかないじゃん!!
うん。表向きお灸で治療することにしてナノマシンで治療しちゃえ。このままじゃこの子が死んじゃう!!
「ぐすん。ぐすん……」
「どう? 痛いの治ってきたでしょ?」
「……うん」
「いい子だね。もう少し我慢しようね~」
よし、間に合った! あとは……。
「お父さん! なんで早く連れてこないの!! 危ないところだったんだよ!」
「えっ、いや、腹痛なんてそのうち治るだろうが……」
連れてきたお父さんは心配もしないで診察室で居眠りしてた。これはたっぷりお説教してあげないとダメだ。
「おい、あいつ清洲で有名な乱暴者の熊五郎だろ」
「いい気味だ。泣く子も黙る熊五郎も、光の方様には勝てねえってか。あのお方様もそうだが、病院のお医師のお方様たちは、誰でも平気で怒るからなぁ。この前なんか平手様が怒られてたぞ。なんでも働きすぎだそうだ」
「そりゃあ、すげえな」
患者さんのひそひそ話を聞いてしまった。熊五郎? 確かに熊みたいな容姿だ。髪もぼさぼさでひげも伸び放題なんだもん。
よし、徹底的に叱ってあげないとダメだね!
「ちょっと、待ってくれ。銭なら払う!」
「そういう問題じゃないよ! 直ぐに連れてこなきゃダメだよ。病は遅れたら命に関わるんだからね!!」
今日は同じ医療型のマドカもいる。往生際の悪い熊さんにはたっぷりお説教だ!
「マドカ~、あとお願いね~」
「パメラ。また? アタイ遊びに行きたいんだけどー」
「この人しっかりお話ししないとダメなんだもん」
「仕方ないねー。程ほどにしなよ」
マドカはね。ギャルなんだよ。司令の趣味はよくわかんない。でもいい子なの。
診察と子供をマドカに任せて私はお説教だ。
「終わったのかい?」
「うん。熊さんもちゃんと理解してくれたよ~」
「アタイにはぐったりしていたように見えたけどねぇ」
気が付くと夕方になっちゃった。時間が立つのは早いね。ちょっと熱くなり過ぎちゃったかも。失敗失敗。でも熊さんは、自分がいかに子供を苦しめていたか理解してくれたよ。
私が子供たちの未来を守るからね!!
Side:久遠一馬
新緑の季節になったこの日、ウチに予期せぬ客が訪ねてきた。
「ようこそおいでくださりました。
織田信友。織田大和守家の最後の当主。隠居していたが先日、実家の因幡守家を継ぐことになり、織田家中を騒然とさせた人だ。
もちろん評定衆は知っていたことだ。信秀さんと信長さんと話し合い、事前に評定で議論した。評定では大きな反対はなかった。というか今更彼が必要なのかという疑問は一部から出ていた。
「突然すまぬの。因幡守家を継いだ以上は、きちんと話しておきたくてな」
なんというか憑き物が取れたような穏やかな人になったね。歳は信秀さんより少し上かな。まだまだ働き盛りだ。
「いえ、構いませんよ」
「不快に思うかもしれんが、わしはなんとも奇縁だと思う。久遠殿が尾張に来て、大和守家は潰えたが、わしの命を救うてくれたのはそなたの奥方であろう。今またこうして名誉回復の機会を与えられたのもそなたのおかげと聞いての」
信友さんは温かい麦茶を出すと一口飲んで、ゆっくりと話し始めた。
やっぱり気付いているか。あの夜に信友さんを清洲城から連れ出したのがジュリアとセレスであることに。まあ、ちょっと勘のいい人なら気付くよね。
「御苦労を
「大膳らに担がれておっただけじゃ。聞けば大和守家の直轄領は酷かったと聞く。わしはそれすら知らぬまま、過ぎた夢を見せられておったに過ぎん」
「御無礼かもしれませぬが、人にはどうにもならぬ時があると思います。生き延びることができてよかったと思いますよ」
どうにもならない時はある。オレだって。この時代に来たのは偶然なのかわからないが、どうにもならなかった。
生きてさえいれば機会がある。信友さんが史実にない未来を生きてくれたら、それはそれで嬉しいと思う。
「そうじゃの。生き延びた以上は、死した者のためにも生きねばならん。近頃そう思えるようになった」
ジュリアはこの人のことを臆病だと言っていた。毒にも薬にもならないタイプだとも。
でもエルは、信友さんの守護代としての実務経験を買っていた。いろいろ問題だらけとはいえ、槍一本であとは知らんという人よりは遥かにマシだろう。
実際、ちゃんと指示は出していたんだ。ただ、家臣がそれを無視して好き勝手にして、適当な報告を上げていたのが実態のようだし。
「いろいろ申し訳なかった。信じられぬのかもしれぬが、わしはそなたを狙ったわけではない」
信友さんは座布団から下がると、畳のうえにじかに座りオレに深々と頭を下げた。
本題はこれか。
「頭をお上げください。その件は、謀叛人、大膳一党の独断であることは承知しております」
確かに臆病なのかもしれない。清洲との戦のきっかけになった、ウチの屋敷の襲撃のことだろう。
わざわざ謝罪に来たんだね。
「どうなんだろうね。因幡守殿は」
「問題ありませんよ。誰もが夢破れて現実を見るのです」
信友さんは本当に謝罪に来ただけだったらしい。そのまま少し世間話をして帰っていった。
信友さんが帰るまで顔を出さなかったエルは、それを読んでいたのだろう。この時代の誇り高い武士が謝罪するのに、女の自分がいては言いにくいだろうと気を使ったんだと思う。
最後の見送りにだけ姿を見せて、今ここにいるからね。
「三河の詮議も難航してるしなぁ。因幡守殿が必要なのは確かだよね」
「はい。天下を見据えれば必要です」
信友さんを引っ張り出した原因のひとつが三河の後始末にある。
歴史から見ても一向一揆は根切りすらあり得る。それが本證寺の主犯の連中は滅ぼしたが、一揆勢は降伏や逃亡でかなり生き残ったんだ。
実際、今川方は根切りにしたからね。織田はそこまでしなかったけど。
生き残ったはいいが、詮議が物凄く大変なんだ。ただの宗教狂いなら処罰は簡単でいいんだが、利害や人間関係に本證寺が勝つ可能性も考慮して本證寺に味方した人がいる。
「大河ドラマだと戦後の命乞いってお約束で、聞き届けないと鬼のように見られるけど、実際難しいね」
本證寺に従い一揆に加担した領民は南方送りになった。この件は信秀さんたちも評定衆もいろいろ考えたが、一揆を起こした一向衆を領内に置きたくないという意見が根強かった。
先日、ウチの領地として評定衆に小笠原諸島を公開していたので、航海技術が無いと脱出出来ない島の開拓民とすることが決まった。
評定衆からは一揆を起こした者など送って大丈夫かと心配する意見があったが、反乱を起こしても無人島かつ絶海の孤島なので問題ないと説き伏せた。
現実問題として、定期的にウチの船で物資を送らないと生きていけない場所だからね。反乱が起きたら放置すれば、そのうち自滅してくれる。
あとはお約束のように本證寺に一族や家臣の一部を送った三河の国人衆がいて、それを隠していたり、助命嘆願をしてきたりとあって面倒なことになっている。
「領地の召し上げと転封移動のいい口実ですよ」
オレはなんとなく元の世界で見た大河ドラマを思い出しなんとも言えない気分だが、エルも評定衆も信秀さんもこれを好機だと捉えているね。
寺領の整理と合わせて国人衆の領地も整理予定なんだけど、その口実となるみたい。
まあ当然と言えば当然か。織田の兵の中には彼らに殺された人もいるんだ。甘い顔はできない。
信友さんにはそんな難しいことは頼まない。ただ普通に文官の仕事を覚えてしてくれればいいんだ。もはや信広さん一人では対応できる限界を超えている。名目上は、信広さんの与力にでもなるのかな?
うまく補佐する人を置けば大丈夫だろう。身分が高い分、教育も受けているし、もともと頭は悪くないらしい。
守護代時代には坂井大膳とかに限られた情報しか与えられなくて、勘違いしていたみたいだけどね。
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