第457話・勢力圏拡大

Side:ミレイ


「ふーん。なかなか悪くない島ね」


 私の名はミレイ。元は前線指揮官として生み出された万能型アンドロイド。ガレオン型の輸送船団で訪れたのは、元の世界のリアルでいうところのグアム島よ。


「でもミレイ。島の制圧はやり過ぎなワケ」


「仕方ないじゃないの。仕掛けてきたのは向こうよ」


 先日、ここグアム島を私と相棒のエミールが指揮する戦闘用ロボット兵で制圧した。


 元は司令の意向で平和的に物々交換だけをしていたんだけど、何を血迷ったのかこちらの船員であるロボット兵が襲われた。


 まあ事前に動きは掴んでいたので、返り討ちにしたんだけど。そのまま私たちは島にいたチャモロ人の村を制圧していったのよ。


 エミールは反対したけど、どのみち首狩りの風習はやめさせないと駄目だし、犠牲もほとんどないわ。


「島の領有と最低限の開発と生活支援をするわよ」


 もちろん司令の許可は取った。司令は武力侵攻には反対だったけど、襲われた以上は許可をくれたわ。


 こちらの世界、この時代にきて司令も変わった。良くも悪くも現実を見られる司令となったわね。綺麗ごとだけでは生きていけない。


 他人を踏み台にしても守る、あるいは変えなくちゃならないところはあるのよ。現実は。


「これでミクロネシア地域は領有することになるワケね」


 襲われた原因は私たちの前にこの島を訪れたイスパニア人のフェルディナンド・マゼラン率いる者たちが、この島でいざこざを起こして島の人間を報復として虐殺したことが根本こんぽんにある。


 それと物々交換も彼らの社会の力関係を壊したみたいだ。あまり過度な刺激とならないものを持ってきたつもりだったんだけどね。


 まあ私たちはチャモロ人の文化や風習を完全に否定まではしないわ。日ノ本と同程度の文明的な社会になるように教育はするけど。


 落ち着いたら島の統治はチャモロ人に任せるつもりよ。ただ、日本人との同化政策は必要になるので、その点はゆっくり進めていくことになるわ。


 彼らを通してミクロネシア地域を久遠家で領有する。頃合いを見計らって尾張の大殿に報告して日本の領土に出来ればいいわね。


 もうこの辺りにはイスパニアの船も来ないし、当分はウチの領海ね。


 オーストラリアもこの冬に一部の海沿いに入植したわ。南半球はちょうど夏だったしね。そのうち本土より広い範囲を支配することになりそうね。


「さあ、稼ぐわよ!!」


「オタクのその性格、なんとかならないワケ? 金銀なんて余っているワケ」


「失礼ね。稼ぐのが好きなだけよ!」


 まったくエミールのやつ。人を守銭奴扱いしないでほしいわ。私はみんなのことを思って稼ごうと思っているのに。


「そういえば台湾はどうするワケ?」


「あそこは大陸が近すぎるわ。小規模な入植はするけど、まずは明とのある程度の関係構築が先よ」


 ミクロネシア地域は今後を考慮しても、必ず押さえなくてはならない場所よ。周囲に西洋人が来る前に。


 台湾も確かに押さえたいけど、明との関係がほとんどない状況では当面は様子見ね。




Side:久遠一馬


「そんなに売れてるのか」


「はい。そりゃあ、もうたくさん売れてございますな。値もさほど高くないこともありますが」


 蟹江を任せている湊屋さんが報告にきたのでお茶を兼ねて話を聞いていたが、今日話題となったのは昨年末から売り出した洗濯板とたわしがバカ売れしたことだった。


 もともとウチでは尾張にきた当初から使っていたものだ。洗濯板の歴史は意外に浅いとエルが言っていたっけ?


 オレたちにとっては電化社会以前の懐古かいこ的な意味には珍しくても、便利と思えるものでもないのだが、この時代では便利なものだとウチの奉公人を中心に噂となった。


 洗濯板は木材を加工したシンプルなものだけに、べつに模倣されてもいいからと山の村で作らせて売ってみたんだが、あまりに需要が多いので木工職人や山間の領民に作らせているくらいだ。


 たわしのほうは原材料がヤシの繊維らしく、南方の島で集めたものを加工して尾張に持ってきているけど。


「洗濯板はすぐに模倣されるかと思ったんだけど」


「そうでございますな。そちらはいずれ同じものが出回りましょう。ただし尾張の品物の良さは有名でございますからな。それなりに売れ続けるかと」


 簡単に真似出来ることを、警戒するのも面倒なので、放任していたけど、意外に売れ行きが落ちていない。


 そういえば煮干しと、ただ単に干したイワシも普通に今でも売れている。魚肥の製造目的で大型の網を貸し与えて始めたものだが、今では水野さんとか海沿いの国人衆も作っているくらいだ。


 ウチは大型の網を販売して儲けている。生産から販路までをウチが一貫して押さえているのが理由だろうけど。


「そういえば息子さんこっちに来るのいつだっけ?」


「はっ、来週でございます」


「落ち着いたら一度会おうか」


 それと湊屋さんの息子さんが蟹江に店を出すために来るんだよね。大湊の店は次男が継いで蟹江の店は長男がやるみたい。


 確か長男は会合衆だったらしいが、そもそも湊屋さんが忙しくなったことで信頼できる長男を呼んだのが理由らしい。将来的にはウチの家臣としての仕事を継がせたいみたいだ。


 大湊の会合衆は次男が継ぐようだ。長男は短期間での離職となったが、湊屋さんの息子はウチとの橋渡し役として会合衆に必要だからね。会合衆も、商家しょうけとして残留する湊屋がウチとの重要なパイプ役である以上は、最大限の支援をしてくれるだろう。


「ありがとうございます」


「いや、ウチは変わってるから駄目なら大湊に戻ってもらおうかと最初は思っていたんだけど、優秀過ぎて任せてばかりだからね。息子さんにも手伝わせるなら禄を出すよ」


 まあウチの商いは津島のリンメイと熱田のシンディが差配しているものの、尾張の商人の取りまとめとか、各地から来る商人の相手は湊屋さんがしている。


 役目的に信秀さんの直臣でもいいくらいだ。


「湊屋殿、さあどうぞ。新作です」


 そうそう湊屋さんには美味しいものとか、新しい料理を出してあげることにしている。この人そのために尾張にきた人だからね。


「ほう、大福でございますか。お方様の大福はほかでは食べられぬもの。なによりの褒美でございます」


 今日はエルが大福を持ってきた。でも新作か。なにが違うんだろうか?


「ほう!! これは!!」


 相変わらずいいリアクションをするなぁ。食べ物を前にすると人が変わる。時には元の世界のグルメレポーター並みの、怒涛の評論を聞かせてくれる。


「なるほど、苺大福か。八屋あたりで売ればみんな喜ぶんだろうけど……」


 食べてみたらリアクションの原因がわかった。苺大福なんだ。


 まさか戦国の世で苺大福を作るとは。相変わらずエルは料理に関しては自重しないね。


 もちもちな大福の上品な甘さと、苺の酸味とみずみずしい甘さが本当によく合う。


「これは市販までは出来ませんね。苺の栽培自体が難しいですから」


 うん。湊屋さん。エルの話を聞いてないね。幸せそうに三つ出した苺大福を次々と頬張っている。


 この人の忠誠心は食べ物で上がるんだろうか。


「そういえばさ、蟹江は誰に任せるの?」


「ミレイとエミールでどうでしょう?」


「あのふたりで大丈夫?」


「……はい」


 湊屋さんがトリップしているので、エルに悩んでいることを相談してみた。蟹江を任せるアンドロイドのことだ。


 エルが推挙したのは意外なふたりだった。


 ミレイとエミールはバブル期にいたような、イケイケ女を参考にしたアンドロイドになる。


 昔の漫画で見たキャラを思い出して参考にしたんだ。


 オレンジ色の髪をしたミレイと小麦色の肌をしたエミール。共に二十歳を想定した。


 ミレイは万能型アンドロイドでエミールは技能型だ。


 本来は前線で指揮するミレイとその補佐をするエミールだったんだけど。


 あのふたりグアム島を占領しちゃったんだよね。仕方ないとは理解している。文化や風習が違う者との友好なんて簡単じゃない。


 拗れるくらいなら占領して強制的に上下関係を結んででも、相互理解に方針転換させたほうがいいからね。必要なら同化政策で独自の文化を継承する日本人として扱ってしまえば良いし。日ノ本でも地域によって文化は千差万別だからね。


「まあ、蟹江は今後大変になるし、あのふたりくらいタフなほうがいいか」


 もとのキャラクターのイメージに引きずられたのか、タフでイケイケなふたりだが、蟹江はいずれ日ノ本の経済の中心になる港だ。そのうち、中国や西洋の船もやってくることになるだろう。価値観の違う相手との外交交渉ほど難しいものはないからな。


 あの二人くらいじゃないと大変だろう。


 もしかすると、協力する湊屋さんが大変になる可能性もあるが。


 大丈夫だよね?



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