第3話・戦国の世への船出

side・アレックス


 船の準備もできたし、日本に出発だ!


 メンバーはオレ・エル・ケティ・ジュリア・セレス・メルティの六人と、船の操縦をする擬装ロボット兵になる。


 ジュリアは戦闘型有機アンドロイド。見た目は肩までのウェーブの掛かったブラウンヘアで、二十歳くらいの派手なお姉さんといった感じ。見た目に影響してか性格は派手好きな少しバトルマニア。


 セレスはジュリアと同じ戦闘型有機アンドロイド。見た目は銀髪で二十歳くらいのクールな切れ目の容姿をしてる。性格は軍人っぽい真面目で敵に厳しい一面があるかな。


 メルティはエルと同じ万能型有機アンドロイド。見た目は青い髪をショートボブにしていて、色気ムンムンのエッチなお姉さん。性格は思わせ振りな態度をする小悪魔的な感じ。


 いざ、行かん。戦国の地へ。信長を見物に。なんてね。




 小笠原諸島から日本本土までは、帆船だと一週間くらいは掛かるらしい。時間短縮のために本土近くまでは、帆をたたみ離水して水面上を飛んでいく。


「ところで、あの大砲使えるの?」


「使えます。この時代の日本近海は、水軍という名の海賊が横行してますから。戦闘になることも考慮してます」


 ガレオン船にはこの時代にぴったりな大砲まであるよ。レーザー砲以外の武装もあったのか。


 現在船旅の風情はゼロだ。でも外海は周りが海しかなくて、風情を楽しむ前に飽きちゃうんだろうな。宇宙空間と少し似てるかもしれない。


 ああ、オレやみんなの服装はこの時代の和服だ。動きやすさを重視してあまり着飾った服じゃないけど、馬鹿にされるほどでもないと思う。


 本当時代劇の世界に行くんだなって、改めて思うよ。


 一応、弓とか槍とか刀の使い方も睡眠学習で学んだけど。あんまりセンスもないし、使い道はないだろうね。




side・ジュリア


 過去の現実世界に来てもう十日になるんだね。


 幸か不幸か、アタシたちは元の仮想空間に戻っても消えていくだけ。最初は司令が帰りたいならばと、みんなで元の仮想空間に戻る方法も検討したけど。


 肝心の司令は帰りたい気持ちはあまりないみたい。大物なのか抜けてるのか判断に迷うね。


 この状況で帰る方法より歴史上の偉人が見たいなんて、よほどリアルに未練がないのかね? 元々ギャラクシー・オブ・プラネットでも有数の廃人プレイヤーだったし、リアルでは彼女も何年も居なく、気ままな独り暮らしだったとか。


 リアルで幸せに生きればいいのに。アタシたちみたいなデータの塊に、家族のような恋人のような感情移入してた。ちょっと困った司令。


 でも運命の悪戯か、アタシたちはリアルな存在になった。


 こんな時代に流されたんだし、他に頼れる人も居ないんだしさ。素直にアタシたちを求めてくれればいいのに。チラチラと見てるだけの意気地無し。


 そんなんだからムッツリ司令なんて言われるんだよ。


 この時代の日本は、司令が生きていた時代とは違う。偉人見物なんて、お気楽なこと言ってられるのかね?


 まさかとは思うけど、日本に行って適当な女を抱きたいなんて考えてないだろうね。


 アタシたちはもう、仮想空間のデータじゃないんだ。そんなこと許さないよ。




side・アレックス


 ガレオン船は水面からあまり離れない高度にて低空飛行を続けて、日本本土近海にて着水した。ここからは本当のガレオン船のように帆を張り進むらしい。


 着水すると船は結構揺れる。外海だし当然なんだろうけどね。


「おっ、見えてきたな」


「あれは紀伊半島ですね。この辺りも歴史では船による輸送や、水軍の活動が活発だったとか。見つかると煩そうなので、陸地から距離を取り尾張を目指します」


 帰ってきたと言うべきなんだろうか? それとも初めて来たと言うべきなんだろうか。まあ田舎者なんで、紀伊半島とか愛知には行ったことないんだけどさ。


 それにしても水軍かぁ。火縄銃とか弓とか射ってくるのかね? 護衛に潜水艦でも連れてくるべきだったかな。


「本当に戦国時代なんだな。ビルも港も何もない。田舎の漁港でももっと立派だぞ」


「ここは尾張の津島だと思われます。河川湊が主ですが、尾張では一番の港ですよ」


 幸いなことに水軍に絡まれることなく、尾張に到着した。でもそこは田舎の漁港よりも何もない場所だった。


 津島くらいなら知ってる。信長の祖父の代に支配して、織田弾正忠家の飛躍のきっかけとなったところだ。


 信長の父信秀は朝廷に多額の献金したらしいし、織田家が金持ちなのは知っていたけど。正直なところ海から見た津島はそんな風には見えない。


「小舟で上陸しましょう。荷物を売り、拠点となる家を借ります」


「港が騒がしいけど。いきなり捕まるとか、攻撃されるとかないよね?」


「大丈夫だと思いますよ。ガレオン船が珍しいのでしょう」


 残念ながら津島にはガレオン船が接岸できる場所はないらしい。沖合いに船を停泊させたオレたちは、とりあえずオレとエルとジュリアの三人で交渉のために上陸する。


「ところでジュリア。その目立つ槍は必要なの?」


「この時代は舐められたら、何されるか分からないよ?」


 それはいいんだけどジュリアのやつ。某かぶき者が持ってそうな、大きくて赤い槍を持っていこうとするし。


 喧嘩しにいくんじゃないんだけどなぁ。




side・大橋重長


 津島に見慣れぬ船が来たと騒ぎになり駆け付けてみると、確かに見慣れぬ船が停泊しておる。


 最初は伊勢の商人か水軍かと思ったが、あれは噂に聞く南蛮船であろう。


 船に柱が何本もあり帆も複雑にある、あのような船など見たこともない。


 南蛮人が堺と間違えて来たのか? 津島に南蛮の言葉の分かる者などおらぬぞ。漢文の分かる者が居ればいいのだが。


「万が一ということもある。兵を集めて、女子供は湊から下がらせろ。それと古渡の殿にも早馬で知らせを出せ」


 問題はあの船の目的が、略奪や侵略であった場合か。まあ船一隻で侵略はないと思うが、船で他国の村や湊を襲うのは珍しくはない。


 南蛮人がどんな者たちかは知らぬが、隙を見せれば何をされるかは分からぬ。


「殿。降りて来たのは四名。商人らしき若い男が一人に、南蛮の女らしき者が二人と、船の漕ぎ手が一人です」


「南蛮の女だと? 奴隷か?」


「違うと思われます。服装や態度からして、奴隷ではないように見えまする。それに女の一人が槍を持ち武装もしております。商人の配下か奥方と侍女というところでは?」


「兵は見えぬ場所に待機させておけ。刺激するなよ。ただ迷っただけかもしれぬからな」


 南蛮の女だと? 男の南蛮人ならば堺に来ると聞くが、女の南蛮人が来たというのは聞いたこともないぞ。


 とはいえ略奪の可能性は少なくなったか。まさかただの迷子ではあるまいな。嵐にでもあって船が壊れたか?


 なんとか穏便に済ませなければ。


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