第2話・プレイヤーとアンドロイド

side・アレックス


 戦国時代に来て一週間が過ぎた。うん。夢じゃないリアルだって悟ったよ。


 普通に生理現象もあれば、三大欲求があるのにはビックリしたね。ここまでリアルになると、女性型アンドロイドばっかりだからちょっと気になる。


 閑話休題


 宇宙要塞の方は外敵も居なきゃプレイヤーも居ないから、完全に開店休業状態になっちゃって、日本に行くならと売れそうな物を少し作ってるだけだ。


 小笠原諸島の拠点は、港が早くも一部だけど完成した。材料は小笠原諸島にある物を使って、ローマン・コンクリートって奴を作ったみたい。


 住居や畑も並行して作っていて、宇宙要塞の人工農園にある南国フルーツを植えるべく土作りしてるとこだ。


「やっぱりこの時代だと帆船なんだ」


「普通の帆船だと危ないので、超小型の反重力エンジンと核融合炉を搭載しました。あとはオートバランサーと通信機に武装としてレーザー砲も載せてます」


「それ、もう帆船じゃないね」


「念のためです」


 そして日本に見物に行く為の船なんだけど、五百トンのガレオン船を改良した船で行くみたい。エルは心配性なんだよね。


 積み荷は、交易用に絹織物・砂糖・胡椒・硝石なんかを持っていくんだってさ。結構な量が積めるみたいで、大量の樽を積み込んでる。





「南国の海は、いいわね~」


「うふふ。リゾートにしたいわ」


 それはいいんだけど。この一週間でアンドロイドのみんなは、すっかり南国生活を満喫するようになっちゃった。


 拠点設営は無人重機とロボット兵で十分だから、みんな暇なんだろうね。ちょうど夏ということもあって、砂浜で海水浴したりしてるよ。


 別にいいんだけど。人によってはトップレスだったり、何も着けてないのはどうかと思う。


 自分で見た目とか決めて作ったアンドロイドなのに、初めて見る光景だ。不思議な気分というか眼福なのは認める。


「司令。聞いてますか?」


「ああ、聞いてるよ。出発は三日後なんだよね」


 ただ見るのはマナー違反だよね。反省してます。だからそんなに冷たい表情をしないでください。エルさん。


 仮想空間からリアルになった最大の敵は己自身だ。


 可愛い子とか綺麗な子の容姿で、アンドロイドを増やしたのはオレ自身だけどさ。まさかリアルになるとは思わないだろ?




side・エル


 司令は現状を楽しんでいます。それが何よりの救いでしょう。


 私たち有機アンドロイドが、仮想空間という楔から解き放たれた影響は司令より遥かに大きいです。


 自分ではないような自分と言えば、言い過ぎかもしれませんが。


 本来の私たちは司令により生み出された、司令のためのアンドロイドです。たとえ高度な自我があろうとも、それは変わりません。


 ですが今の私たちは、そんな当たり前だったことからも、解放されてしまったのかもしれません。


 戸惑っているのは司令も私たちも同じでしょう。


 人工知能ではない生命体の本能とも思える心理面の変化は、私自身にもあります。


 喜怒哀楽は当然ありましたが、以前にはあった壁が消えたことで、私は司令を男性として意識してしまいます。


 私を見てくれることに喜びを感じながらも、以前には感じなかった男性の視線に恥ずかしくもなります。


 それに他の女性型アンドロイドを見てると、心の奥底がモヤモヤするような、不安も込み上げてしまいます。


 私は貴方にとってどんな存在ですか?


 私が必要なら求めてほしいです。


 貴方から。




side・アレックス


「何作ってるの?」


「釣りのリールだよ。向こうで暇なら、釣りでもしようかなって。さすがに未来のリールは持っていけないしね」


 出発日が決まったけど、オレはやっぱり暇なんだよね。拠点設営は中途半端に手を出すと邪魔になるから、余ってた木材で釣りのリールを作ってたら、ケティが声を掛けてきた。


 ケティは黒髪のショートヘアに、小柄でスレンダーなスタイルの、見た目高校生くらいの医療型アンドロイドだ。


 無口っ子をイメージした性格設定にしたせいか、抑揚が少ない声で口数が多くないけど。意外に好奇心が旺盛で、分かりにくいけど感情豊かな子だ。


 こう見えて医療型有機アンドロイドの最古参だから、優秀で医療型アンドロイドのリーダーも務めてる。


 何故か今日は紺のスクール水着を着てるけど、わざわざ作ったのかな?


「魚は美味しい。でもこの時代に醤油がないのは許せない。魚の美味しさが半減する」


「うーん。醤油も持っていってみるか?」


「それがいい」


 今のオレはギャラクシー・オブ・プラネットのアレックスとして作ったアバターのままだから、見た目は十六才のオレをそのまま美化した感じ。


 ゲームではプレイヤーは生体強化した人類で、生体強化の影響で不老化した設定だったんだよね。現実世界に来ても、それは変わらないらしい。


 なので見た目は十六、中身はアラサーのおっさんなわけ。


 正直スクール水着のケティと間近で話してると、年齢を感じちゃうよ。


「ムッツリ?」


「何か言った?」


「何でもない」


 食いしん坊なケティさんったら、釣りの話をしたらこの時代に醤油がないことを力説し始めた。そこまで言うなら醤油も持っていくけどさ。


 ところで聞き取りにくいほど小声で、ショックな一言囁いてた気がするけど聞き間違いだよね?


 うん。信じてるからな。ケティさん。




side・ケティ


 私たちの司令はムッツリすけべだった。


 女性型アンドロイドばかり百二十体も揃えた時点で、そうだろうとは思っていたけど。


 正直、今更隠さなくていいと思う。何故隠すのだろう。


 私たちはリアルの司令を知らない。


 私たちが知る司令は優しくていい人。


 しっかりしてるようで抜けてる、ちょっと困った人。


 別にすけべで女好きでも構わないって思う。


 それより一度聞いてみたいことがある。


 私のスタイルは間違って作ったわけじゃないのか、聞いてみたい。


 何故、私の胸は小さいのだろう。百二十人の中でも、最下位クラスのサイズだ。


 仮に司令がこの先に私たちを求めたとしても、胸の順番だったら私は反乱を起こす自信がある。


 多分私たちの中で一番司令を想っているのはエルだと思う。


 司令はそれを理解してるのだろうか?


 それと私たちが生命体となったという意味を、本当に理解してるのだろうか?


 百二十人にまで増やしたのは司令なんだから、ちゃんと責任取らないとダメだと思う。


 歴史上の偉人を見たいとか、ミーハーなこと言ってるお気楽な司令はいつ気付くのだろうか。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る