戦国時代に宇宙要塞でやって来ました。

横蛍

天文16年(1547年)

第1話・プロローグは突然に

活動報告にてカクヨム様で掲載する説明を記載しております。ご覧ください。

https://kakuyomu.jp/users/oukei/news/16817330650200323910


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◆◆





side・アレックス




 目の前には漆黒の宇宙が広がっていた。


 数多の星の輝きが美しい。


 ここはリアルなのだろうか? それともリアル以上にリアルだと言われた、VR空間なのだろうか。




「リアルだと思われます。ただし、西暦一五四七年ですが」


「オレたち、何か変なことしたっけ?」


 オレはついさっきまで、ギャラクシー・オブ・プラネットというVRゲームをしていた。ジャンルはSFMMOという、近未来を舞台にした宇宙開拓と戦争のゲームになる。


 十五年も続いた人気ゲームだったけど、時の流れには勝てずにサービス終了日を迎えていたはずなんだ。


 それが気が付くと、木星近くにいた。


 オレ個人で本拠地としている移動型宇宙要塞シルバーンと、百二十体のアンドロイドたちと共にだ。


 ログアウトどころか、サーバーとの通信すら出来ない異常事態だけど。不思議と慌てることがないのは、リアリティが無さすぎて実感がないからかもしれない。


「システムの障害ならば、すぐに復旧すると思われます。ただし要塞シルバーンの光量子コンピューターによると、ここは仮想空間ではなくリアルの世界だと回答してます。その場合は、帰還するために時空間を超える技術が別途必要になります」


 困ったような、困っていないような。ゲームが終わるのを悲しんでいたはずなのに、最後の最後でシステム障害が発生したのか、それともあり得ない奇跡でも起きたのか。


「とりあえず様子を見とこうか。宙域にプレイヤーとか敵は、いないんだよね?」


「今のところ宙域にプレイヤーどころか、人工物すら存在しません」


 迷った時は動かないほうがいいよな。別にリアルに未練があるとか家族がいるとかないし、このままでもいいんだけど。


 そのうち、なにかわかるだろう。




「ゲームのアバターのはずなのに、トイレに行くのはなぜだろう?」


 現状は意外と早く判明した。ゲームのアバターなのにトイレに行くことが判明した。当然ながら、いくらリアル志向のゲームとはいえ、そんな機能はあるはずがない。


「私たち有機アンドロイドも、仮想空間では存在しなかった生理現象があります。そもそもサーバーとの接続が完全に切れた以上、データの世界を生きていた私たちが動くはずはないのですが……」


 あり得ないことが起きてる。それだけは確かみたいだね。


「リアルだと仮定して動こうか。システムの障害なら、こちらが動く必要もないし」


「了解しました」


 仮想空間から、リアル世界の過去へのタイムスリップだろうか? あり得ないと思いつつも、リアルだと仮定して動けば問題はないだろう。


 移動要塞シルバーンは、月と同程度の大きさを誇るギャラクシー・オブ・プラネット最大の人工建造物になる。


 内部には完全自動生産の工業や農業などの各種プラント、それに宇宙船のドックも多数存在している。ほかには宇宙艦が最大で五百隻収容可能な宇宙港もある、個人では余程でなければ持てないレベルのものなんだよね。


 資源の備蓄もしてるし、要塞シルバーンだけでしばらく生きていくことも十分可能だ。ただ、ここがリアルならば、いずれは新たな資源が必要になるだろう。


 まずはその資源の入手先を得ることから始めようかね。





 鉱物資源や水や塩は比較的簡単だった。火星と木星の間にあるアステロイドベルトや木星の第二衛星のエウロパで容易に手に入るので、採掘用のロボット兵と輸送艦を向かわせたら手に入った。


 だがより多くの種類の資源を得るには、結論としては地球に降下して得るのが一番楽で簡単だった。


 ギャラクシー・オブ・プラネットの技術ならば惑星のテラフォーミングも可能だけど、オレとアンドロイドたちしかいないのに火星開拓してもね?


 地球での拠点としてアンドロイドたちが選んだのは、小笠原諸島だった。この時代だと周囲に船が来ることはまずないし、原住民もおらず手頃な大きさだということもあり、オレたちの拠点の条件にピッタリらしい。


「よし。小笠原諸島に村を作って日本に行こう。織田信長が見たい」


「別に構いませんが。そんな理由でいいんですか?」


「ちょっと離れたところから見るだけなら、大丈夫だって」


 小笠原諸島に拠点を作ると聞いて、日本に行きたいと言ったら、ギャラクシー・オブ・プラネットでも最古参のアンドロイドであるエルにちょっと呆れられた。


 万能型有機アンドロイドであるエルは、ブロンドヘアにスタイルのバランスが崩れない範囲で大きな胸とくびれたウエストに大きめのヒップで設計した女性だ。


 顔は美人と言うよりは可愛らしい顔立ちで、癒し系の柔らかな雰囲気を持つ。性格は穏和で優しいし、ずっと一緒にいるからオレの考えを理解してくれる存在かな。


「わかりました。では村と移動用の船を用意します」


 若干呆れつつも、エルはオレの望みを叶えるべく笑顔で動いてくれる。このまま帰れなくても、別にいいかなと思わなくもないね。





 小笠原諸島が発見された時期には諸説あるが、少なくともこの時代に住人がおらず領有者がいないのは確かだった。


 拠点設営の資材を満載した輸送艦にて父島に降りたけど、意外に大きいなというのが第一印象だ。


 まずは基本となる村については、父島と母島と硫黄島に建設することにした。


 ただ木材は島の規模からして貴重なので、この時代では未開の地であったシベリア辺りから貰ってくることにする。飛行機もないこの時代ならば、大気圏内の航行が可能な大型輸送機とロボット兵ですぐに調達できるだろう。


「稲作は無理ですね。狭い島なので、水事情は決してよくありません。史実でも、本土では育たぬ南国の果樹などを植えていたようですから」


 必要な施設として海水から塩や真水に金やレアメタルを回収できる設備はほしいが、後は完全に趣味の領域になる。


 人口はオレとアンドロイドたちの百二十一人だけなので、そんなに大きな規模の村は要らないんだけどね。人の数はさすがに足りないから、ロボット兵を人に擬装させて水増ししないと、地上だけで考えると生活は維持できないかも。


 実のところ食料は宇宙要塞の農業プラントで大量生産できるから、本当に島で自給自足する必要はないんだけどね。


「それにしても、みんな降りてきたんだな」


「暇なんですよ。宇宙には敵も味方もいませんし」


 少し気になるのは地上に降りてきたアンドロイドたちが、百人を超えてることか。基本的に宇宙要塞の施設って自動化されてるから、管理する人が数人いれば困らないんだけどさ。


 ロボット兵も二千体は降ろしたみたいで、重機とロボット兵を使って拠点設営を一気に進めるみたい。


「これだと意外に早く、戦国時代を見物に行けるね」


「本当に行くんですか?」


「歴史を見てみたいじゃないか」


「そこまでおっしゃるなら……」


 ギャラクシー・オブ・プラネットの乗り物は、基本的に反重力エンジンと核融合炉の併用型だ。なのであちこちに重機が空を飛びながら作業するのを、オレは見てるだけになる。


 優秀なアンドロイドならともかく、オレに出来るのは大まかな方針を決めるだけなんだよね。


 オレは戦国時代を見物に行くのを、楽しみにしてるんだけど。


 エルはなんとなく心ここに有らずといった様子なのは、何故だろう? 時々歴史のイベントをちょっと見に行くだけなのに。




side・エル


 十五年。それが私と司令が共に過ごした年月です。


 中学生の時に両親を亡くされた司令は、とうとう両親と過ごした年月を超えてしまうなと、以前笑っていたことが記憶に焼き付いております。


 仮想空間という作られた世界の住人である私と司令は、共に歩みながらも決して越えられない壁があるはずでした。




 ですが最終日のあの日、私は願ってしまった。


 離れたくないと。このままこの人と悠久の時を生きたいと。


 そして仮想空間からリアルな現実へ私たちは来てしまった。


 これは偶然という名の必然が生んだ現実なのか。それとも神の悪戯なのか。私にもわかりません。


 一般的な人と比較しても、決して秀でたところはなく。強いて挙げるとすれば、十五年もの間ずっと一つの仮想空間を続けたことが司令の特長です。


 司令には現状把握してることは、ひとつだけを残して全て報告しています。


 そのひとつだけ司令に報告できなかったこと。それは、私たちがすでに有機アンドロイドという種族の生命体であること。私たちと司令の越えられないはずの壁を越えてしまったことです。


 人を愛することも、子供を産み育てることも許されるという事実を、私は言えませんでした。


 司令はその事実をどう受け止めるのでしょうか?


 私は……。貴方を愛していいのでしょうか?



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