角川つばさ文庫小説賞で最終選考まで進んだ名作、『ヤシロさんは成仏できない』が、更にパワーアップしてカクヨムへ帰ってきました。
中学二年の優等生エマは、ある日隣に住む男子高校生ヤシロさんが亡くなったと知らされます。
しかしエマには信じられません。なぜなら、ヤシロさんが亡くなった時間の更に後に、彼本人に会っているから。
実は、ヤシロさんはやはり死んでいて、エマが出会ったのはその幽霊。エマは彼が生前最後に言葉を交わした相手ということで、その姿が見えるようになっていたのです。
これまで幽霊なんて見たことのなかったエマにとっては驚きのですが、それだけでは終わりません。なんとヤシロさんがちゃんと成仏できなければ、エマも死んだ後成仏できないという事態になってしまったのです。
成仏するためにはヤシロさんが徳といういいことのポイントを貯めなければならないのですが、生前ヤシロさんが貯めていた徳は、なんとゼロポイント。学校にも行かずずっと家に引きこもっていた彼は、徳を貯めるチャンスもろくに無かったのです。
これだけ書くとヤシロさんのせいで何の関係もないエマが大変な目にあうように思えますし、実際にその通り。
世間一般から見ると少し困った人のように見えるヤシロさん。しかし彼にも夢がありました。
それに対してエマは、優等生でありながら、夢ややりたいことの見つからない。そんな二人が上手に対比されています。
角川つばさ小説賞の最終選考に残った、『ヤシロさんは成仏できない』のリメイク作。
中学生のエマは、品行方正な優等生。
早くにお父さんを亡くして、お母さんと一緒に暮らしていたのですが、アパートの隣に住む高校生、ヤシロさんが亡くなったことで、厄介な事態が起きます。
なんと亡くなったヤシロさんは成仏できずに現世をさ迷い、そして彼と縁があるエマも何故か巻き添えをくらい、このままだったら彼女も死後成仏できないことになってしまったのです。
ヤシロさんとはそんな親しかったわけでもないのに、変なことに巻き込まれてしまってかわいそう。
ヤシロさんを無事成仏させることができれば、エマも助かる。そのための成仏させようと頑張るのですが、なかなか思うようにいきません。
しかし、そんなエマに協力してくれるのが、同級生の長日部君。
彼はオカルトマニアの男の子。周りからは変人扱いされていて、最初はエマも信用していいかと警戒していたのですが……。読んでいくうちに、コイツ案外イケメンじゃないかって思ってきました。
エマが幽霊絡みのトラブルに巻き込まれていることを察して色々気にかけてくれる、優しいやつなのです。
長日部君の助けを借りて、ヤシロさんを成仏させるべく奮闘するエマ。
そして本作は彼らとの交流を通じて、エマが自分のやりたいことを見つけていくための物語でもありました。
優等生と言われているエマですけど、実は望んでそうなったわけではない彼女。夢ややりたいことがあるわけではありませんでしたけど、ヤシロさんが生前抱いていた夢を聞いて、たくさんの人に触れることで、心の成長がうかがえました。
成仏できないヤシロさんと、巻き込まれたエマの不思議な幽霊物語。
死後に無事に三途の川を渡るため、ヤシロさんを成仏させましょう!