最終話 バネ理論

 本当は生きるのがめちゃくちゃ辛い。


 でも発達障害や精神病を言い訳にしたって仕方ない。それらを抱えつつどうやって生きるかを考えることの方が建設的だ。死ぬのはいつだって出来るけど、生きるのは限られた年数しか出来ない。頭では分かってても、心は死にたがってる。


 でも生きてれば良いことだってある。好きなバンドの新譜が出たりライブに行ったり。つい最近行ったsyrup16gのライブは個人的に俺が今年一年生きたご褒美だと思っている。生きてて良かったと思えた。今年の苦しみが一気に報われた気がした。「明日を落としても」という曲を聴いて俺は静かに泣いた。


「救い」はこの世のどこにもないかもしれないけど、「気休め」だったらどこにでもある。ロックンロールは俺にとって一番の気休めかもしれない。


 16歳の頃から死にたくて、死にたいまま今年26歳になった。死にたくなってから10周年を迎えてしまった。今年はアニバーサリーイヤーだったわけである。


 今年は一人暮らしを始めたのが一番の変化だった。たまに働くようになった。


 牛歩ではあるが、死にたいと思いながらも俺なりに少しずつ前に進めている。


 色んなものを手にしては、その全てを失って生きてきた。出会いの数だけ別れがあると言うが、別れた悲しみよりも出会えた喜びを大切にして生きていきたいと思う。一瞬でも心が繋がれた喜びを忘れてはいけない。


 かけがえのない思い出が俺の胸の中には沢山しまってある。


 今この瞬間、俺とあなたは画面越しに儚く繋がっている。俺は勝手にあなたを友達だと思って、言葉を送る。


 少し早いが、今年も一年間お疲れ様。来年も一緒に生きよう。俺は今年、辛いことが沢山あった。自殺未遂もした。あなたもあなたなりに辛いことがあったはずだ。それでも俺やあなたが生きてることは間違いなんかじゃない。苦しめば苦しむほど、その先の喜びや幸せは大きくなるからだ。だから人が苦しむことは無意味なんかじゃない。バネが高く飛ぶ為には、大きく沈む必要がある。人間の苦しみもきっとそれと同じだ。高く飛ぶ為には沈む必要がある。どん底にいたことのある奴や、今どん底にいる奴は、それを悲しむ必要なんてどこにもない。不幸があるからこそ、幸福はより輝きを増す。


 俺はこれを「バネ理論」と勝手に呼んでいる。バネが高く飛ぶ為に必要なのは、一旦深くまで沈むことだ。これは人間にも同じことが言える。そう、俺たちはバネなのだ。


 俺は俺なりにどん底の中で生きてきた。実家に引きこもって酒とタバコと薬と自傷に溺れ、毎日死にたかった。


 でも今年、俺の中で、どん底からは脱したと確信した。俺は一人暮らしを始めた。時々働けるようになった。暗闇の中から徐々に脱しつつある。高く飛びつつある。


 苦しんでるのは俺だけじゃない。


 俺が文をネットに発信するのは、独りで生きてるのが寂しいからだ。それ以外の理由は無い。


 あなたはバネなのだ。もし仮に今どん底にいるのだとしたら、その事には大きな意味がある。あなたはいつか高く飛ぶ。その時の為に今はどん底にいる。ただそれだけの事なんだ。悲観する必要はない。


 もし死にたくなったら、画面越しに俺に会いに来てくれ。俺も死にたい。


 死にたい奴らで支え合いながら、生きていきたい。


 苦しみ抜いたその先に幸福があるって、俺は信じてる。


 あなたに幸せになってほしい。


 俺も幸せになりたい。


 俺は危うい土台の上でグラグラしながら生きてる。現に今もタバコとコーヒーのコンボで少し吐き気を催している。コーヒーを受け付けない体質なのにブラックコーヒーが大好きでよく飲む。ブラックコーヒーを飲むと必ず体調が悪くなる。


 酒タバコ薬コーヒー、体に悪いことばかり俺はやっている。


 それでも俺は儚い希望を信じている。


 あなたは今日も生きたね。それが望んだものであろうと無かろうと。


 生きててくれてありがとう。生まれてくれてありがとう。


 死にたい時はまた俺に会いに来てくれ。


 いつか辛いことが全て過去になったら、俺と居酒屋にでも行こう。


 街で偶然すれ違ったら、居酒屋にでも行こう。


 本当は俺は死にたいんじゃない。生きたいんだ。「未来」という予測不能な未知を勝手に悲観して、妄想の果てに首を吊ろうとしている。


 でも未来は何が起こるか分からない。


 俺だってまさか今年から一人暮らしを始めるなんて思ってなかった。前進できると思ってなかった。


 首吊り台として使おうとした「ぶら下がり健康器」は今では「物干し竿」として活躍している。


 人生なんて多分そんなもん。


 毒も薬も、ぶら下がり健康器も物干し竿も、俺もあなたも、全く違うもののように見えて本当は似ている。


 ピンチだって見方を変えれば大チャンスだ。苦しんだ先に喜びがある。


 未来は何が起こるか本当に分からない。


 俺はきっと来年も生きてる。再来年も生きてる。


 その苦しみは高く飛ぶ為に必要なものだ。何度も言うが俺たちはバネなんだ。深い絶望と闇は、高く飛ぶ為に必要不可欠な負荷だ。


 孤独な奴は独りじゃない。世の中、独りぼっちで溢れてる。そいつらで手を組んで仲間になって俺は生きていきたい。傷の舐め合いなんかじゃない。それぞれが独立しながら、たまに「あいつ生きてるかな」と思いながら、俺は生きる。


 頭がどんだけ狂ったとしても、生の実感だけは持っておこう。投げやりに死んだら多分後悔する。だって未来は何が起こるか分からないからな。来年俺が結婚してる可能性もある。


 また来年、ライブハウスに行きたい。


 とりあえず今日は酒を飲みまくってから、パチンコでも打ちに行きます。ギャンブル最高。お酒最高。


 みなさん、お元気で。また会いましょう。


 みんなで幸せになろうぜ。俺だけ幸せになっても意味がない。みんなで幸せになりたい。俺はそういう文章を今後も書いていきたい。


 決して読者は多くないが、全ての読者を巻き込んで俺はみんなで幸せになりたいんだ。


 死にたい奴は俺の文を読んでくれ。それが死にたい俺の幸せである。


 明日も生きるぞ。みんなで。


 ネット上の儚い繋がりかもしれないけど、俺らは確かに繋がっている。あのライブ会場に、ほかほかライスさんもいた。俺らはみんなリアルな人間として生きている。明日も生きるぞ。わかってんのか。





 完

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愛すべき欠陥品たちよ(完結) Unknown @unknown_saigo

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