第3話 坂やんがマジで告るらしい

 結局時康が彼女用にバスソルト買ってから、文房コーナーに移動してみた。

 改めて見ると凄い種類の付箋があった。大きいものから小さいもの、書くスペースもない飾り目的っぽいものまで。さすがパンズ、お洒落雑貨店。

 ここもやっぱり女子で賑わってた。

 うん、俺がさっきこっそり覗いてた木工塗装コーナーとは全然違う。

「色々あるんだね。これかっこいいかも」

「坂やんさ、中根さんの好きなものなんかないの」

「猫が好きっていってたような」

「じゃあこの辺じゃない? 猫」

 摘んだ付箋に微妙な顔された。猫の胴体がにゅーんと長くてお腹部分に字がかける。かわいいと思うんだけどな。駄目かな。ええと猫、猫、猫。猫だけでも結構種類がある。どんな猫が好きなんだろう。えーと。うーん、そもそも俺中根さんと話したことないしな。

 あ、そだ。

「坂やん、LIME見して。なんかヒントあるかもしれん」


 嫌がらる坂やんから携帯を奪い取る。

 中根中根ええと、これか。んんー、えー。なんか事務連絡ばっかりじゃんか。委員の日とか担当場所の連絡。普段の関係が全然わからんわ。この流れで呼出したんか? 坂やんある意味猛者だな。バーサーカーだ。

 ええと。問題の呼び出し文書は?


『今日の放課後、話したいことがあります。5時に部室棟に来て下さい』


 え?

 まじで!?

 何でこんなん出したのか。文面怖いやん。まじで? なんか果たし状っぽい。これは来ないだろ。俺、女子からこれ来たらよう行かんぞ。

 坂やん正気か? 告白心理でラリってるよな多分。

 そもそも根本的なアプローチが間違ってる気がする。彼女いたことない俺でもわかるわ。この文は無理無理。

 いや、でもその前に、そもそも根本的な問題が。

「坂やん、ちょっと付箋とか選んどいて。傾向とかわかったら教えるから」

「ええ? しょうがないなぁもう」

 俺は坂やんを付箋コーナーに追いやって、時康を手招きして問題のLIMEをこっそり見せる。

「どうよこれ、なくない?」

「うわ、これは……」

「なぁ、これどうしたらいいと思う? 無理だろ」

「うーん、無理な気がした」

「でもそもそもここみて」


 時康にLIMEのある部分を示す。

 坂やんのメッセには送信エラーが出てた。つまり、そもそも届いてない。

「うわ、まじか。こりゃ来ない。というか、来ようがない。まじ盲目だな」

「な、坂やん無理だろ。テンパリすぎ。そもそも届いてても無理そうだけど。だからちょっつプロデュースしてやろうぜ」

「お前またろくでもないこと考えてるだろ」

 時康にじろって睨まれたけど、時康の口の端っこもにやって上がってるじゃんか。俺らは面白いことが好きなのだ。

「ふひひ。いいからいいから。そんでさ、時康的に中根さんは脈ありそうなん?」

「……なくはないと思うよ。美化委員してる時の雰囲気よかったから」

「何、時康は坂やんストーキングしてんの?」

「相談受けたっつってんだろ。ゲームばっかなお前と違って」

「ちぇー酷い」

 付箋を選ぶ坂やんの様子をチロチロ伺いつつ時康と相談して坂やんのLIMEをイジる。

 ええと、今の時間は6時か。

「今からいける?」

 時康はうなずく。

「坂やん、晩飯一緒に食える? まだ腹大丈夫よな」

「うんー? 大丈夫だよ」


 スマホを渡すと時康はぽちぽちとフリックする。

『中根さん突然LIMEごめんね。どうしても相談したいことがあるんだ』

『どうしたの?』

『LIMEじゃちょっと。今からで申し訳ないんだけど、どこかで少し時間あるかな』

『駅近くならいいよ』

 即返事がかえってきた。早すぎてビビるんだけど。

 あれ? すぐ食いついたってとはこれ、行けるんじゃないの?

「どこがいいかな」

「時康、おすすめのカフェどこ」

「気軽にいけて無難に女子ウケするところか? number 19か」

『ありがとう、じゃあ6時半に駅近のnumber19で待ってる、場所わかるかな』

『大丈夫、友達といったことあるから』

『待ってる。急でごめんね』

 返されたスマホをめくって全部送信されたことを確認する。うん、オッケ。

「どうかな」

「悪くないんじゃないかな、中根さんすぐOKしたし」

「後は本人にまかせるしかないよね、このメッセ、時康が彼女に告白った時のパターン?」

 また頭叩かれたよもう。


 それで俺らは送ったメッセと受け取ったメッセを全部消して、坂やんにスマホを返した。ついでに未送信のも消しといた。

 俺は適当に見つけた掃除機の付箋を推して、時康はバケツの付箋を推した。お掃除セット。坂やんは可愛い猫の付箋。あわせて500円くらい。

「これで大丈夫かな?」

「無難だよね。重くない重くない」

「これを嫌がる女子はいないだろ」

 外に出るとすっかり真っ暗だった。歩道の街頭がパラパラと点灯し始めたちょうどそんな時刻。強引に坂やんの背中を押してnumber 19へ急ぐ。

 なんだかニヤニヤが止まらない。

 アレだな、ダチの告白ってこんなワクワクすんだな。ふひひ。駄目押ししとくか。

「坂やん、もしさ、中根さんが来てたとしたらちゃんと告れたん?」

「も、もちろんですよ!? 告れたに違いないよ!?」

「次はプレゼントがあるからますます大丈夫だよな?」

 時康も駄目押しする。

「でも勢いで買っちゃったけど、これどうやって渡そう?」

「次に会った時とかでいいんとちゃうん?」

「ええ? でも何て言って」

「可愛い付箋の見つけたからおすそ分け、とかそんなんでいいよな、時康もそう思うだろ?」

「まあな、さり気なく渡してから告るんだぞ」


 そっから時康のやけに具体的な告白レクチャーが始まった。坂やんの顔がまた赤くなった。おもしろい。ためにはなった気はするが俺には使う機会がない。解せぬ。

 あれ? 俺だけボッチになるの? 呆然としているといつのまにか終わったらしい。

「う、うん。頑張る」

「あ、ごめ坂やん、おかんから電話かかってきたから先入ってて」

「俺も彼女に電話してから入るわ」

「うん? わかった」

 1人でnumber 19に入る坂やんを見送って、それからしばらくしたら中根さんが入ってった。こっからじゃ店内は見えないな。

 メニューをみるとnumber 19はたしかにおしゃれな感じ。ハンバーガーとかパンケーキとか色々ある。……懐に痛いけど。

 まあさっきマクドいったからちょっとかぶるけど、坂やんはそれどころじゃないだろう。

「さって、俺らも飯でも食いに行きますか」

「今度は見てかないのか?」

「まー、もう慰めたからいいかなって」

「相変わらず酷いなお前。そんで何食う?」

「えーと、良し牛?」

「そんなんだから彼女できなんだっつの」


Fin

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