第2話 坂やんはプレゼントを選ぶらしい

「忘れられないならリトライの方向で検討しようよ、前向きに」

「リトライ?」

「そう、もう1回告るの」

「えぇ?」

 坂やんはナゲットを取り落とす。トレイの上だからセフ。

「1回告ったなら2回でも3回でも同じだろ? もう失うものもないし? 当たって砕けたし」

「こら悠平、一言多い。でもまぁ、悠平の言うことも一理ある、のかな。俺も彼女と付き合うまで3回告った」

「まじで? 時康意外と根性あるな」

「てめ」

 その初めて聞く時康の過去に結構驚愕する。3回とか言ってみたけど俺にそんな勇気はない。メンタルが太すぎる。

「えっ? 本当に僕もう1回コクるの?」

「坂やん、そもそもまだ告ってないだろ」

 時康の目が結構ガチめな気がしてきた。

 この流れで押し切られるのは少し可哀想になってきた。リア充は参考にならん。だってそれで成功したわけで、成功したことのない坂やんや俺の気持ちなどわからぬはずだ。だから話題を強引に変えるのだ。

「それで中根さんのどこが好きなのよ」


 その瞬間、坂やんの胸から頭のてっぺんにかけてぷわーと色が変わっていった。うわぁ。リトマス試験紙みたい。赤い。赤いわ。わかりやすく赤いね。ガチ惚れだね。

「おーい、坂やん?」

「えっえっと、全部……だけど、掃除してたところで好きになった」

「……はぁ? ちょっ痛いッ。時康痛いって!」

「坂やん、美化委員の時のこと?」

「そう、期末に大掃除するじゃん? そん時に凄い手際がよくってさ、教室とかゴミ捨て場がどんどん奇麗になるの。なんかすごいなぁと思って」

「坂やん掃除フェチなん?」

 パカンと俺の頭がはたかれる。もう、馬鹿になっちゃうだろ?

「フェチとかじゃなくて、なんかテキパキして凄いなと思って尊敬してさ、普段大人しいのに。それでよく見てたら結構かわいくてさ」

「かわいかったっけ」

「かわいいの!」

「うぉう。この坂やんの勢いがすごい」

 少しだけ回りの注目を集めた坂やんは机に突っ伏した。

「うーん、じゃあ中根さんは掃除が好きなんかな。掃除グッズとかプレゼントしてみるとか?」

「ホウキとかか? プレゼントにしてはパッとしなくね?」

「その中根さんって拭き掃除が好きとか掃き掃除が好きとかあるの?」

 自分で言ってて何を言っているのかわからない。俺は掃除は全て嫌いだ。

「どうだろう。奇麗好きだとは思うけど片付けがうまいような?」

「じゃあ片付けグッズかな、棚とか?」

「おい悠平、大物はやめとけ。こだわりもあるだろうから変なの送ってもゴミが増えるだけだ」


 ううむ、俺まじで掃除嫌い。だから全然思いつかない。

 だからスマホで検索することにした。プレゼント、プレゼント。

 3人で頭を寄せ合ったけどいい知恵は浮かばない。文殊って誰なのさ? そもそも俺らみんな掃除嫌いだからな。時康がややマシくらい?

「洗剤はアレだなぁ。かわいいスポンジとか?」

「悠平、実用品ってのは悪くないと思うけどさ、スポンジじゃチャチすぎないか?」

「じゃあ便利グッズは?」

「被ってたら邪魔なだけだろ。坂やん、中根さんの気になるものとか心当たりないか?」

「ええ? ええと、そういやクラスの女子とバスソルトがどうとか言ってた」

「バスソルト? 風呂? 塩? 坂やん風呂とかいきなりエロい」

「だまれ悠平。バスソルトってのは入浴剤だ。バスボムとかバスソルト、オイルなんかは無難プレゼントど真ん中だぞ」

 え、塩を風呂に入れるのか? なんでだよ。女子わかんねぇ。

「まじで? 入浴剤とは違うの? タムラのバスロマンスとか」

「俺にも本当のとこはよくわからん。わからんが贈れば彼女に喜ばれた。そんなに高くもないしゲテモノでなければ好みが違っても喜ばれる、らしい」

「えー。わけわかんね」

「悠平、お前そんなだからモテないんだよ、モテたいなら女子を観察しろよ」

 ぐう刺さる。リア充に抉るように打たれた。

 なんで俺が被弾してるわけ? モテるなんて結果論とちがうの?


 でもブツ見ないとピンと来ないよねっていうんで、とりあえず駅ビルのパンズに向かう。西急パンズ。そういうの売ってるらしいからっていうので、半分凍ったままの坂やんを引きずって来てみた。そんで俺も一緒に凍った。

 そこはなんか別世界だった。変な匂いが充満してて女子がたくさんいた。

 サポン? ケナイプ? 本当に塩なんだ。野菜じゃなくて人を茹でるの? 古代塩? 古くても大丈夫なもんなの?

 俺はどうしていいかわかんなくて坂やんと一緒にポカンとしてた。ここ臭くない? 早く帰りたい。

「時康、俺ここすげぇ居づらいんだけど」

「慣れだよ慣れ。口で息してれば平気だから。それより坂やん、中根さんの好きな匂いとか知らない?」

「ごめんわかんない」

「どんな匂い好きとか聞けないよな、変態ぽくって」

「俺は聞いたぞ、喜ばれたいからな」

 強すぎるだろ。リア充爆発しろ。

 時康は店員さん捕まえて、プレゼント用に良さそうなのを聞いた。何話してるのか、用語からさっぱりわからん。長引きそうだからちょっとプラついて来ることにする。だって臭いんだもんあそこ。

 なんとなく文具コーナー見てたら付箋があった。付箋。面白いよな。吹き出しになってたり草だったり色々あるね。こういうギミック好き。……付箋。片付けるのにもいいじゃんね? 掃除好き向き?

 ていうかバスソルトよくわかんないし。もらって嬉しいもんなのそもそも?


 俺はUターンして意見を述べてみることにする。

「あのさ、ちょっと思ったんだけど、バスソルト重くね?」

「うん?」

「時康は彼女だからいいんだろうけど坂やんはまだ付き合ってないじゃん、重くね?」

 あ、坂やんがまたダメージ受けてる。ええと。

「そんな変かな。女子同士プレゼントしたりすると聞いたぞ」

「まあ、女子同士ならそうなのかも。あー例えばさ、俺らたまにゲームのガチャチケとか装備とか送るじゃん。でもいきなり知らん女子から送られたら怖くね?」

「……」

「……」

「その、バスソルトって中根さんが欲しいっていってたわけでもないんだよね? それにお勧めならともかく自分でもようわからんものを送ってもさって思ったわけ」

 時康と坂やんは目配せして、珍しいものを見るように俺を見た。

「何よ?」

「いや、悠平でもまともなこと言うんだなと思って」

「うん」

「2人とも酷い」

「うーん、でもそうすると最初に戻るな。プレゼント何がいいんだろう」

 結局最初に戻ってはしまうのだ。でもまだ彼女なわけじゃないし、そんなスペシャルじゃなくてもいいじゃんね。

「普通のでいいんじゃないの?」

「普通?」

「そうそう文房具とか。無難じゃない? あっちで面白い付箋とかあったから。片付け好きならいいかなと思って」

「付箋か。もらっても負担感はなさそうだな」

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