放課後活動 ~東高の愉快な日常

Tempp @ぷかぷか

第1話 坂やんがコクるらしい

「お、さかやんどこい」


 校舎裏に向かう坂やんを見かけて声をかけようとしたら腕引っ張られて時康ときやすに止められた。

「えっ何?」

「シーって、坂やんこれから中根なかねさんに告りに行くところだから」

「えっまじで!?」

 その言葉に慌てて校舎の影に隠れる。えっ告白? マジで?

 坂やんはギクシャクしながら部室棟の方に歩いてった。今は放課後のチャイムから時間が少し過ぎた時間帯。運動部の奴らはすでに部活に出払って誰もいない。

「坂やん中根さん好きだったん? いつから?」

「ええっと3週間くらい前に相談された?」

「まじで? なんで時康だけ? 俺は?」

悠平ゆうへいはすぐ誰かに話すからだろ?」

「えー、うーん、ちょっと心当たりあった」


 俺と時康と坂やんは幼なじみでわりかし仲よし。時康はリア充で彼女いるけど俺いない。坂やんもいないからなんとなく同士よ! って感じだったんだけど俺に内緒でコクるとか。ちょい裏切られ感。

 でもやべ、なんか俺までドキドキしてきたじゃん。

 じわじわ来る。

 手に汗握る一代イベント?

「やっぱラブレター?」

「LIMEだよ、今時紙なわけあるか」

「へぇー坂やんやるじゃん、これで中根さん来なかったらアレだな」

「おま、なんつう不吉なことを」

「あ、ごめ」

「俺に謝ってもさ」

 時康に呆れ顔でため息をつかれてしまった。

 校舎から顔だけ出して坂やんを観察する。明らかにカクカクして挙動不審。4歩進んで3歩下がる状態。歌歌えそう。呼び出したならもう行くしかないじゃんか。はよ行け。もうね。やきもきする。


「追いかける」

「え? まじで」

「だって振られたら慰めんといかんじゃん」

「おま、だから何でそんな不吉なことを」

「あ、ごめ」

 ええと、中根さんてどんな子だったっけな。同じクラスだけどほとんど話したことない。大人しげな子だったような。坂やん大人しいから相性いいかも。

 でも俺に秘密とか仲間外れ感悲しい。

 まあ、いいんだけどね。結局知っちゃったしね。

 でもなんか、坂やんは彼女できたら彼女一辺倒になりそう。それはなんかつまんないな。うーん、でも坂やんも彼女いたことなかったし応援したいような、そうでもないような。もやもやする。


 校舎の陰から部室棟の陰に素早く移動。距離は3メートルくらいだけど、なんかスパイみたいでちょっとワクワクした。俺もたいてい不審者ぽいよな。

 事件は現場で動いているのだ? だからしかたないのだ?

「結局時康もついてきてんじゃん、やっぱ気になるだろ?」

「まあ、な」

「そんで坂やんは中根さんのどこがすきなん?」

「え、俺が言ってもいいのかな」

「時康が言わなくても坂やんに聞くし」

 中根さんの真面目なとこが好きらしい。

 坂やんと中根さんは美化委員で活動中に仲良くなった。一緒に校内の掃除道具チェックして不備があったら取り替える。それってなんかもうすでにデートみたいなもんじゃない? 違う? ずるい、俺が知らない間にそんな青い春を獲得するなど。


 坂やんがやたらキョロキョロしてる。そんで俺は気づいた。

「あれ? 中根さんいなくね?」

「えっマジか? ……ほんとだ」

「え? ちょっとま。告る前に玉砕したん? マジで」

「悠平が変なフラグ立てたからだろ」

 坂やんは何度も携帯見たり、部室棟の裏とか探しにいったりしてる。猫じゃないんだからそんなとこに隠れてるわけないじゃん。そんで青かった空がだんだんオレンジ色になって、カラスがカァとか泣いて、しばらくしたとこで坂やんは部室棟の端で崩れ落ちた。オレンジ色の坂やんはまさに「燃え尽きたぜ」って灰色な感じ。

 部活から帰ってきた運動部の奴らも胡散臭げにチラチラ見てる。


 うわぁ。見てらんね。

 校舎の裏の寒いとこで1時間も待ってた俺らも俺らだけどさ。ヤバかろうこれは。

ちょっと待てとかいう時康は放っといて倒れた坂やんの肩に手をかける。

「坂やん元気出せ」

「あれ……悠平?」

「どんまい、なんか食いに行こうぜ」

「遅れてるだけかもだしもうちょっと、ていうか何で知って、あ。時康か」

 坂やんは俺の後ろ、つまり時康を見つけたようだ。時康はバツが悪そうに頭をかいている。

「すまん、悠平が邪魔しようとして」

「待てよ、時康もじゃん! 大人しく隠れてたじゃん! それに1時間も待ってこなけりゃ無理だろ」

「ちょ、最初から見てたのかよ」

「うん、今丁度レイドボス倒して解散になったところ」

「ついでかよ酷い」

 だって1時間もぼんやり待ってらんないじゃんね。

 ちょうどネトゲでチーム募集してたから、時康と一緒にでかい亀殴ってた。堅かった。


 そんなことよりぐったりした坂やんをとりあえずマクドに回収する。

「俺、応援するかしないか悩んでる」

「そこはしてやろうぜ」

「だって成功したら俺だけ彼女なしじゃん」

「そんなことより坂やんが凍ってるから」

 暖かで賑やかな店内の目の前には、ほかほかのチキンナゲットを手にカチカチに凍ってる坂やんがいた。まじ極寒。とりあえず連れてきたけど、これ溶けるのかな? 本気で心配になってきたよ。

「とりま愚痴でもなんでも聞くからさ、坂やん元気出せよ。俺に内緒にするから振られんだよ」

「悠平、せめて慰めるかディスるかどっちかにしろよ」

「でー、中根さんのどこが好きなん?」

「ぐふ」

「たから傷えぐんなって」

 時康が俺の脇腹を肘で突く。結構痛い。シェイクこぼれるじゃん。

 でも聞かないと始まんないじゃんこれ。他に何話せっていうのさ?


「でもまだ1回目だろ? もう1回アタックしたら? ほらよく言うじゃん、諦めたら試合は終了だって」

「無理。……僕、この世の終わり感」

「大丈夫大丈夫、じゃぁさ、終わったなら違う子で始めたらいいって」

「そんな簡単に切り替えらんないよ」

「うーん、じゃあ時康の彼女を代わりに」

「ざけんなよ!」

 結構まじ切れ気味に頭引っ叩かれたけど、坂やんは無反応だった。殴られ損。

 うーん、重症気配だな。どうしたら元気出るかな。ええと、俺だったら元気出る方法。

「じゃあ合コンしよぜ合コン。女子とスイーツ食べにいくの。時康の彼女と彼女の友達誘ってさぁ」

「俺の彼女だのみかよ」

「だって俺も出会いたいんだもん。そんで坂やんも元気を取り戻す! 完璧じゃね?」

「お前は合コンしたいだけだろ」

「あの、僕まだ中根さんのことしか考えらんないから他の女子はちょっと」


 うーん。困ったね。真面目だね。

 じゃあ中根さんのこと考えるしかないよね。そうすると振られた理由だよな。はっきりしないからモヤモヤするんだと思う。

 彼氏がいるとかなら仕方がないって諦め切れるのかな。そんで好きな人がいる程度ならもっとアピールしてったらいんじゃんと思うわけで。特に彼女のいない俺はお気軽にそう思ってしまうわけで。

 という俺の視線に気づいた時康に足を踏まれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る