第36話 俺はギャルのパシリ

 こんにちは。俺の名前は束橋つかはし湊斗みなと

 ごく普通の高校生!


湊斗ミナトー。レモンティー買ってきて。ダッシュなー」

「琴葉デカビタ」

「へいへい今買ってくっから待ってろぉ!」

「遅れたら罰ゲームだかんなー」

「応ともさ!」


 今日も今日とて、元気にギャルたちの奴隷パシリをする毎日を送っている。


 ちっ! 相変わらずピンポイントで外の自販機にしか入ってねぇ飲み物指定してきやがってよぉ。


「っと!」


 二人のお望みのヤツを爆速で手に入れるため、俺は爆走する。

 

「湊斗、廊下を走るな」

「ワリィな一花先生! こっちにも譲れねーモンがあんだわー!」


 一花の注意をスルーして、俺はなお走り続ける。

 通り様に一花が笑ってたような気がするけど気のせいだろう。


 ショートカットするために窓から飛び出し、配管を伝って3階から外に地面に着地。

 一目散に自販機目掛けダッシュ。無駄のない動作で電子決済を終わらせて飲み物を取り、教室へ向かう。


 だがこの時、俺は悟っていた。

 このままじゃこの前と同じでアイツらが満足する時間に戻らないと。


「司ぁ!!」


 だから俺は、デカい声を上げて教室にいる悪友を呼ぶ。


 ガララ


 暗黙の了解とはまさにこのこと。

 司は無言で教室の窓を開けた。


「千聖ぉ! 琴葉ぁ! 受け取りやがれぇ!!」


 俺はそう言って、力任せに、だが繊細なコントロールで開いた窓めがけてペットボトルを投げた。


 くるくると回転するペットボトルは綺麗な放物線を描いて、窓を通って千聖たちのいる教室にインした。


「っしゃあナイス俺ぇ!!」


 あまりにも完璧な時短、最速のウーバーミナトイーツに自分で感動しつつ、俺は走って教室へと戻る。


「どうだ二人共!! 前回の反省を生かした俺の超速パシリは!! すげぇだろぉ!!」

『……』


 だが、意気揚々と教室へ入った俺を待ち受けていたのは、なんとも言えない気まずそうなクラスメイトたちの視線だった。


「え、えーとぉ……?」


 居たたまれない気持ちに駆られながら、俺は乾いた笑いを浮かべる。


 一体なんだこの空気はよぉ……!?


 そう思ったところで、俺はその原因に気付いた。


「ミナトォ?」


 にっこりと笑い、俺が下から投げたペットボトルを持つ千聖。

 その頭には、大きめのたんこぶができていた。


 俺が投げたペットボトルが、千聖の頭にクリーンヒットしたのだと。


「いや、ちょっと待ってくれ千聖……!! マジで全く、悪気は無かったんだ!! 俺はただお前らが満足する時間内にジュースを届けることに精いっぱいで……!!」

「知るかぁ!!」

「ぎゃはぁぁぁ!!??」


 千聖に腹パンされた俺はそのまま後方へ吹っ飛んだ。


「ってぇなぁ!? ケガ人になにしやがんだてめぇ!!」

「手加減してやってんだからいいだろぉがぁ!?」

「吹っ飛ばすくらい殴んのは手加減してるって言わねぇんだよ普通はなぁ!」


 もちろん千聖が手加減してるのは分かる。だが足りない……!!

 人のMAXパワーが10だとして、手加減は3くらい。だが千聖は3でも普通の人の10くらいのパワーがある。

 コイツが手加減するなら-5くらいしてくれないとキツイのだ。


「ったく、めんどくせぇなぁ」

「あー! 今めんどくさいって言いましたねぇ!? パシリをぞんざいに扱いましたねぇ!? パシリだって人間!! 心無い言葉を言われたら傷つくんですよぉ!? うぅ……!! せっかくお前らのために超絶頑張ってるのに!! 労基に訴えてやるからなぁ!!」

「意味わかんねぇ!? なんなんだよマジで!!」

「まぁまぁ二人とも、落ち着け」


 俺と千聖が近距離で言い合いを続けていると、間に琴葉が入ってきた。


「湊斗はパシリだけどもっと扱いを良くしてほしいんだな?」

「おう! その通りだぜ!」

「じゃあ……」


 そう言って、琴葉は俺に耳を貸すように要求してきた。

 大人しくそれに従って、琴葉の口に耳を近づける。すると、


「琴葉の胸も揉ませた方がいい?」

「なぁっ!?」


 あまりにもいきなりな琴葉の提案に、俺はバッと後ろに下がった。


「い、いきなりなに言ってやがんだてめぇ!?」

「だって、千聖のだけじゃ足りないんでしょ?」

「そ、そういう意味じゃなくてだなぁ……!?」


 俺が返答に困っていると……。


「足りないって、なんだ?」

「つーか、いつの間にか湊斗のやつ、星名と根上にタメ口じゃねぇか。どーなってんだ?」


 周りにいたクラスメイトたちからそんな疑問の声が聞こえてくる。

 コイツらの気持ちも分かる。だが俺は本当のことは絶対言えなかった。

 なぜなら……。


『お前らのパシリに戻ってもいいぜ。ただし、一つだけ条件がある……!!』

『『条件?』』

『あぁ!! それはな、千聖……お前のおっぱいを一週間に一回揉ませてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』


 今思えば千聖に殺されかねない提案をしたと思っている。思い出しただけで背中に汗超かくしな。

 だがなにはともあれ、千聖はこの提案を呑んで、俺は二人のパシリに復帰した。


 琴葉は千聖の胸で足りないなら、自分の胸もどうかと聞いてきているのだ。

 だが、俺がしていたのは報酬的な話ではなく、扱いをもうちょっと優しくしてくれという話だ。

 それに琴葉の小さなOPPAIでは残念ながら魅力的な報酬にはならない。残念ながらならない。


「ていっ!」

「ってぇい!? ちょ!? なに急に人のすね蹴ってくんだよ!」

「なんか失礼なこと考えてた気がした」

「はぁ!? ンなこと……考えて、ねぇよぉ?」

「絶対考えてたヤツの発音」

「ごめぇん!」


 加速する琴葉の蹴りに、俺はたまらそう叫んだ。



 そんな湊斗たちを教室の窓際から見ている者が二人。

 司と陽那である。


「ねぇ司。湊斗、胸につられて結局元に戻った感じだけど」

「そうだな。でも、パシリから解放されるのを諦めたワケじゃねぇみたいだぞ」

「え? なにそれ、意味分かんない。てことは星名たちに彼氏を作らせる作戦は引き続き継続中ってこと?」

「そーいうこったな」

「でもそれだと湊斗が星名の胸揉めなくなるじゃん。彼氏が許すワケないし、裏で頼んでも彼氏ができた星名が許すワケない」

「まったくもってごもっともだ陽那。だからあのバカは考えた。そして名案を思い付いたのさ」

「名案?」

「胸を揉んでも許してくれる彼氏を探すんだと」

「……」

「具体的には気が弱くて自己主張が薄いヤツが狙い目だそうだ。ギャルが好きなオタクとかも良いって言ってたな」

「……」


 淡々と答える司に、陽那は上を向いた。そして……。


「やっぱバカだよね。湊斗って」

「あぁ。ド級のバカだ」



 おっぱいも揉む。彼氏を作らせてパシリからも解放される。

 両方やらなきゃいけないのが、辛い所だぜ。


 だが俺はやり遂げる……!!

 

 都合の良い状況におちいってみせる……!!

 甘い汁だけすすってみせる……!!

 

 最高のエンディング目指して、進み続けてやるからよぉ……覚悟しやがれてめぇら!!


 両手両足を突いて人間椅子となっている俺は、その上に座っているギャル二人に対し、ニヤリと笑った。



『ギャルにパシリとして気に入られた男が、解放されるために超頑張る話〜ただしギャルとの距離はどんどん近くなる〜』とりあえず~完~


◇◇◇

【読者の皆さまへ】


ひとまずここで本作は完結です!ここまで読んで下さり、本当にありがとうございました!これからも色々な作品を書いていきますのでよろしくお願いします!


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ギャルにパシリとして気に入られた男が、解放されるために超頑張る話〜ただしギャルとの距離はどんどん近くなる〜 三氏ゴロウ @philisuke082

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