第7話





 ――進は目を開いた。





 その体勢のまま天井を見上げ、先ほどまでの出来事と、自宅のベッドで寝そべっている状況を冷静に分析し、あっさりと答えを導き出した。


 「……まさか、元の世界に戻って来たのか?!」


 進は一人ごちて、ムクリと体を起こした。


 トイレを済ませ、その足で洗面所へ行く。

 シェービングフォームを右頬から塗っていき、左頬のきわから丁寧にっていく。

 剃り終わると顔を洗い、タオルの表で一度拭くと裏返してもう一度拭く。

 

 ゆで卵の様な顔になれば、ダイニングへと向かう。その時間にはすでに妻の郁子いくこが用意した朝食がダイニングテーブルに並べられている。

 朝ご飯も進のこだわりで、いつも同じメニューが並ぶ。


 麦入りごはんになめこの味噌汁、塩しゃけに青菜のおひたしと……。

 進は味海苔が無い事に気が付く。


「郁子さん、味海苔が無いようですが……」


 息子の弁当作りに忙しい郁子は、キッチンから顔も上げずに応えた。


「買い置きがパントリーのにあるわ。とってくださる~?」


 進はコクリと頷いて、冷蔵庫・食器棚と並んだパントリーへ行く。

 パントリーは引き戸タイプ。

 進は右側の扉だけを開け、目で味海苔を探すが……。


 ……無い。


「郁子さん、海苔がありません」

「あら、おかしいわね。昨日買っておいたのに」


 と、郁子がやっとキッチンから顔を上げると「あら、進さん」と少し笑いながらやって来て、


「こっち、こっちよ」


 とにあるパントリーの引き出しから味海苔を出した。


 進はごくりと喉を鳴らし、掠れた声で呟いた。



「……上下逆転の……世界……」



 前田進の異世界転移の旅は、始まったばかりだ。

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前田進の世にもビミョ〜な異世界転移 さくらみお @Yukimidaihuku

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