第6話


 進の叫びはロビー中に響き渡った。

 常に冷静な進の荒げた声に、鳥海部長もウエサルも目を丸くして驚くばかり。


「そうだ! 些細な違いだけど、しっくりこない! こんなこと? って思うかもしれないけれど、僕にはとても重要なんだ! とても大きい事なんだ! それを受け入れるのは自分を否定することだ! だから僕は元の世界に戻りたいんだ!!」


 そして、進は青の覆面の男を指差した。


「君! ピストルを持っているのは、どっちの手だ?!」

「ひ、左?」

「違う、右だ!」

「黄色の君! そのロープを持つ手は?!」

「右手……」

「違う、僕の世界では、左手なんだ!!」


 そして、進は赤い覆面を指差した。


「君は包丁を持っている手はどっちだ!? 右だと思う方を手を挙げろ!!」


 すると、進の勢いにつられた赤い覆面は素直に左手を挙げた。

 その左手には受付嬢が囚われていた。

 受付嬢は恐る恐る、静かに、気付かれない様に、赤の覆面と距離を置く。


 そして、間合いが取れた受付嬢を確認すると、果敢なウエサルが赤い覆面に飛び掛かった。


 それが合図となり、男性社員が残りの覆面に飛び掛かかる。

 ウエサルは赤い覆面を取り押さえ、黄色の覆面も若手社員にがんじがらめにされた。

 しかし、青の覆面は取り押さえられながらも抵抗し、進の視界にピストルの銃口が見えたのだ。

 ウエサルが「前田さん!!」と叫んだのと、ズカン! と鈍い音がロビーに響いたのは同時だった。


 進の腹部に痛みが走った。


 女性社員の切り裂くような悲鳴がロビーに響き渡る。


 撃たれた進の時間はゆっくりと、背面のまま床へと倒れて行く自分を自覚する。

 そして意識が遠のくなか、視界が光に包まれて真っ白になる。


 進は静寂の時間の中、思った。


 ……もしかして、元の世界に帰れるのか……?


 そうだ。ウエサルの言う通りならば、悪を倒し、役目を終えた進は元の世界に戻れるのだ。

 短い時間だったけれど僕にとっては大冒険だったな、と進は静かに目を閉じた。


「前田さーーん!!」


 動かなくなった進の元へ駆けよるウエサル。

 警察と救急車のサイレンが近づく中、何度も何度もウエサルは進に声を掛け続けた。


 その進の顔は、晴れ晴れとしていた。

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