第1部 最終話 好きと幸せの許容量オーバー ※性的な表現が含まれます
玄関の電気を付けた後に、真っ暗な廊下の電気を付ける。
しばらく家を空けていたからか、小さく埃が舞った。
「やっと、着きましたね」
「……そう、だな」
冬休み最終日――の前日。
俺達は帰ってきていた。
いや、正確には俺の住んでいたマンションに、なのだが。
最初からこの日に帰る予定だった。そして、明日一日はゆっくりし、高校生活がまた始まる。
そのはずだった。
「お、お風呂。先、いただきますね」
「あ、ああ」
凪は荷物を片す事なく……本来片付ける場所は凪の家のため、当たり前といえば当たり前なのだが。
荷物を置いて。否。一つだけ手に取って、凪はお風呂場へと向かった。
俺も荷物を置き、そのまま寝室へと向かう。そんなに荷物も多くないから、片付けるのは後で良いだろう。
軽く換気をした後に暖房を付け、ベッドに座り込んだ。
鞄から一つの箱を取り出して。脇に置く。
それは――避妊具であった。
色々、待たせてしまった。
凪には凄く、待たせてしまったが。
今日。ついに俺達はするのだ。
上手く考えがまとまらない。まだ早いんじゃないか、という思いはもちろんある。
しかし……このままずっと、へたれ続けるのも良くない。
もちろん妊娠するリスクを考えれば、しない方が良いのだろう。
しかし。世の高校生でそういった事をする人達は珍しくない、と思う。それが多数派なのか少数派なのかも分からないが。一定数は居るはずだ。
多分、瑛二達はもっと早くしているのだろうし。時々凄い会話をぶち込んでくるからな。あの二人。
――とにかく頭の中がぐちゃぐちゃで。
何かを考え続けないとおかしくなってしまいそうだった。
「……落ち着け」
一度、深呼吸をする。
決めただろ、俺。ここに来てへたれるな。
凪を幸せにすると決めたのだから。
全部、自分をさらけ出して――凪の全部を受け止める。
人生で一度しかない、貴重な経験なのだ。
「……落ち着け」
瑛二から失敗しないためにはどうすれば良いか、と聞こうか迷った事もある。しかし、凪に言われて思い直した。
『折角の、二人の初めてなんですから。最初くらいは探り探りでやりませんか? ……いえ。そうしたいんです。成功とか失敗とか関係なく。こればっかりは、二人で歩んでみたいんです』
それから俺は、その事について調べていない。怪我をさせてしまいそうな事や、避妊具の付け方など。基本的な事だけは改めて調べさせてもらったが。
もう一度、深呼吸をする。
しかし。心臓の高鳴りは止まらない。
そうしていると、かなり時間は経っていたようで。
「お、お待たせしました」
ノックの後。凪が部屋へと入ってきた。
その身に纏うのは――真っ白なバスローブ一枚のみ。
そのお腹の辺りできゅっと結ばれた紐が、凪のスタイルの良さをより強調させていた。
バスローブ、ひょっとして少し小さかったのだろうか。胸の辺りがとても苦しそうに見える。確か、バスローブは凪が自分で選んでいたはずだが。
「ど、どう、でしょう。変じゃありませんか?」
「……似合ってる。その、凄く。か、可愛いと思う」
言葉がつっかえながらも、どうにか言って――凪は俺の隣に座った。
シャンプーやリンス、ボディソープの混ざった香りが漂ってきて。その甘い香りが部屋を埋めつくしていく。
「お、俺も。すぐ入ってくる」
「は、はい。暖房は蒼太君がつけてくれましたし、部屋は暖かくなってるので。ごゆっくりどうぞ」
このままだと色々と暴発しそうだった。
俺も一枚のバスローブを手に取って、風呂場へと向かった。
「……すっごく緊張する」
シャワーを浴びながら。そう、呟く。
緊張しながらもそこは反応してしまっていて、自分にため息を吐いた。
どうにか頭と体を洗う。いつもより念入りに。
湯船には浸からない事にして、脱衣所でバスローブを身に纏った。
「……よし」
改めて深呼吸をして、寝室へと向かう。
その扉に手の甲を当て、ノックをした。自分の部屋ではあるが、念の為。
「ど、どうぞ」
浅くなりつつある呼吸を整え。俺は中へと入る。
凪はベッドに腰掛けていた。
いつもの部屋のはずなのに。……もう、そこは凪の甘い匂いで満たされていた。
「そ、蒼太君。こっち、座ってください」
「……あ、ああ」
凪に言われ、ベッドの上にあぐらをかいて座る。
凪も少し移動していて、中央の方に正座をして座っていた。
凪と対面する形だ。お互い無言になってしまい、場に沈黙が訪れる。
ここで勇気を出さず、いつ出すんだ。俺。
「凪」
「は、はい」
「……脱がせて、良いか」
どうにか、声を絞り出し。
凪は真っ赤な顔で小さく頷いた。
そのまま凪は正座を崩し、足を伸ばした。バスローブを脱がせやすくするために。
そのバスローブの紐に手をかける。驚くほど簡単に結び目は解けた。
はらりと、下の方がめくれる。
真っ白で、すらりと伸びた
「……早く全部、脱がせてください」
「あ、ああ。すまない」
その、蒼い瞳に見つめられて。
また俺は息を飲んでしまった。
自然とバスローブの前ははだけてきていて。雪のように白い肌が少しずつ、見えてきていたから。
そのバスローブに手を掛け――少しずらすと。
すとん、と。簡単にバスローブは落ちた。
「ッ――」
目を奪われる。
息を飲む。
心臓が跳ねる。
呼吸が止まる。
色々な表現は出来るだろう。実際、俺はその全てを同時に行ったから。
しかし、一言で表すのならば――
俺は、凪に見蕩れていた。のだ。
目の前には。生まれたままの姿をした、凪が座っている。
手で覆い隠す事もなく。
凪は真っ赤な顔でじっと俺を見ていた。
「凄く――」
緊張で、喉はからからだ。それでも、俺は言葉を紡いでいた。
いや、言葉は勝手に紡がれていた。
「――凄く、綺麗だ。凪」
その言葉は意識的に出されたものではない。つい、溢れ出たものだ。
「あ、ありがとう、ございます」
真っ赤になった顔に、首筋からうっすらと浮き出た鎖骨。
そこから下にかけて……それは自分が想像していた以上に大きく、綺麗で。そこから下も――真っ白であった。
「そ、蒼太君も。脱がせて良いですか?」
「あ、ああ」
凪がまた改めて正座をし。少し屈んで、バスローブの紐へと手をかけた。
すぐに紐は外し終えて。凪がピクリと跳ねた。……同時にそこも揺れ、目がいってしまう。
「悪い。もう、色々。限界で」
「そ、そうですか。……嬉しいです」
凪がバスローブに手を掛けて。俺の方も簡単に降ろされてしまった。
そして。お互い、バスローブを脱いだ――全裸となった。
お互い、見つめ合い。……その視線は色んなところに行ったり来たりを繰り返した。
凪が一度深呼吸をして。俺と再び目を合わせる。
「そ、蒼太君」
「……なん、だ?」
「ハグ、しませんか」
凪が手を広げた。……全て、丸見えだと言うのに。凪は顔を真っ赤にしながらも続けた。
「蒼太君を直に感じたい、です。そうしたら、ちょっとは落ち着ける気がして」
「……ああ。分かった」
そっと、その手を掴み。引き寄せる。
その背中に手を回す。今回は服越しではない。
触れるのは全て肌、なのだ。
おそるおそる、凪を抱きしめ。凪は俺を抱きしめた。
「……すまない」
「い、いえ。これくらい、許容範囲です」
ハグをするという事は当然、密着する訳で。
胸にむにゅりと、柔らかくすべすべとして。もちもちとした感触が直に伝わってきた。
それに、俺のものも反応していて。凪のお腹に当たってしまっていた。
しかし――
「蒼太君の鼓動が、聞こえます」
「……凪の鼓動が聞こえる」
その、柔らかさの奥にある鼓動が直に伝わってくる。
とくとく、とくとくと。
早く鳴り続けていた心臓が少しずつ。
とく、とく、と。
ゆっくりに、なっていく。
「蒼太君の心臓。少しずつ、落ち着き始めていますね」
「……凪もだな」
まるで、共鳴し合うかのように。
お互いの心音が重なり、まるで一つに溶け合ったかのように。少しずつ落ち着きを取り戻し始める。
そうして――十分は、抱きしめあっていただろうか。
「凪」「蒼太君」
名前を呼ぶのは同時で、お互いの肩から顎を離すのも同時の事であった。
顔を見合わせ、笑い合う。
どこまでも、気が合うと。
そのまま合図をする事もなく。俺達は唇を重ねた。
「……ん」
長い、口付けである。
時折呼吸を挟みながらも、段々とその間隔は長くなっていき。
「……ぁ」
凪は小さく口を開けた。
それと同時に――俺はそこへ舌を滑り込ませた。
甘い、と錯覚してしまう。
色々と初めてながらも、段々と幸せが膨れ上がる。
やがて、お互いに手を伸ばし始めて。お互いを求め合う。
程なくした後だった。
「……良い、か。凪」
「はい、もちろんです」
凪が俺の背中へ手を回し。俺も凪の背とベッドの間に手を入れ。
「愛してる、凪」「愛してますよ、蒼太君」
唇を重ねながら。
俺達は、一つとなったのだった。
◆◆◆
鳥の鳴く声で目が覚めた――なんて、事はない。
気がつけば、時計は十二時を回っていた。もうお昼である。
「蒼太君、おはようございます。いえ。もうこんにちはの時間ですね」
「……凪」
腕の中に、凪が居る。
それだけの事なのに。俺の中から愛おしさが溢れ出してきて。
気がつけば、唇を重ねていた。
凪も静かに受け入れてくれて。ぎゅっと、俺を抱きしめてくれた。
「……痛いとこ、ないか?」
「そう、ですね。まだ少し違和感があるのと……少し腰が」
「すまない。負担を掛けさせた」
「謝らないでください、蒼太君」
その蒼い瞳に柔和な光が宿り。また、唇を重ねられる。
「私――びっくりしちゃってるんです」
「……びっくり?」
「はい。何が、と言いますとね」
小さくくすりと笑って。凪は手を俺の頬へと当ててきた。
「もう。去年一年分を合わせた幸せより、ずっと幸せなんです。この数日……いえ。半日と少しで」
凪がまた、唇を重ねてきた。
「幸せ、すぎて。おかしくなっちゃいそうなんです」
その瞳にうっすらと、膜が覆って。
それが雫となって、頬を滴り落ちそうになり――
俺はその涙を指で掬った。温かい液体が指から腕へと伝う。
「わたし、しあわせ、なんです。しあわせすぎるんですよ」
凪の声が震え。しかし、言葉が止められる事はない。
「こんなに、しあわせなことって、ある、んですね」
「……ああ。凪。俺も、俺も凄く幸せだ」
気がつけば、俺の視界も滲んできて。
凪の指が俺の眦を撫で、涙を掬った。
「すき、です。だいすきです。もう、これいがいのことばじゃいいあらわせない。だいすき。そうたくんが、だいすき」
「……おれ、だって。だいすきだ」
凪がぎゅっと、俺に抱きついて。
俺も強く、凪を抱きしめた。
「しあわせで、だいすきで、わたし……わたし」
「ああ。いっしょだ。ぜんぶ、いっしょだよ、なぎ。こわがらないで、くれ」
感情が溢れ出し、その全てが――
――凪を愛おしいと思う気持ち。
――そして、幸せ。
どちらも許容量をオーバーしてしまったのだ。
「だいすき、なの。あなたのことが」
「ああ。おれも、だいすきだ。なぎのことが」
強く。強く抱きしめる。
相手が幸せで崩れないように。
「ぜったい。ぜったい、けっこんする。そうたくんと」
「ああ。かならず」
嗚咽すら漏れそうになる。涙が溢れ、それが凪の肩を伝う。
同様に、自身の肩に温かい感触が残り。それが背中へと垂れ落ちる。
「このしあわせ……わすれたく、ない」
「……いまより、しあわせにする。なんどだって」
「わたしだって。そうたくんのこと、しあわせにする。もっと」
脳をほとんど使わない、感情のぶつけ合い。
「なぎ」「そうた、くん」
その言葉の応酬すらもまどろっこしい。声が震えて、上手く発音出来なくなってきたから。
凪の背中から手を離し……凪も俺の背中から手を離し。
しかし、体は密着させたまま。お互いの手を握り合う。
指を絡め、絶対に離す事はない。
そのまま俺達は――唇を重ねた。
もう、言葉は必要ないと。お互いの感情を直接ぶつけ合う。
どちらかの気持ちが弱ければ……あるいは強ければ。俺か凪のどちらかは潰れてしまったのかもしれない。
しかし。そんな事。ありえるはずがなかった。
それほどまでに――俺達は、お互いの事を深く。
――深く、愛し合っていたのだから。
◆◆◆
「……え、えっと、その、いろいろ、ごめんなさい」
「い、いや……俺も。すまなかった」
何事にも終わりはある。
どれだけ感情が昂っていようが――体力は尽きるのだ。
お互い、呼吸を忘れて失神しかけるという事態を引き起こしてしまってから。
やっと、元に戻った。
ただ、このままだと何度も暴走してしまいそうだったので、俺も凪も服を着る事になったが。
「……まさか。ここまでとは思いませんでしたね」
「そう、だな。色々、危なかった気がする」
凪の体の負担も考えて、あれからはしてはいない。……一度しか。
「ですが、これ。一度覚えちゃったらとんでもない事になりそうですね」
「そうだな。勉強とか学校の事とか全部忘れてしまいそうだ」
日は落ちた。……そう。落ちたのだ。
「す、好きすぎるというのも困りものですね」
「ああ。……自重するつもりはないが」
「私も、です。好きな事は好きと言います」
時刻は六時を過ぎている。
……自分でもドン引きである。ここまでなのかと。
「俺。凪の事大好き過ぎないか」
「全く同じ気持ちです。私、蒼太君の事大好き過ぎます」
今でも思い出すと、顔が熱くなる。思わず顔を手で覆っていると、凪がくすりと笑いながら頷いた。
「幸せって溢れると、あんな事になっちゃうんですね」
「……そう、だな」
「でも、今もすっごく幸せですよ」
凪の言葉に小さく頷く。
余韻、だろう。……しかし。その余韻は余りにも大きすぎた。
「今も少しだけ、ふわふわしてます。地に足がついてないというか。そんな感じです」
「……俺も同じだ」
そう返すと。凪が俺の胸を背もたれにして、体重をかけてきた。
「……どっちが良いと思う?」
「慣れるか、特別な日にするか、ですよね」
言葉が抜けていると言うのに、凪には全て察せられていて。笑ってしまった。
この幸せに――慣れるべきか。
それとも、こうした事は特別な日にするべきか。
……前者に関しては、本当に慣れるのか? という思いがある。
そして、慣れてしまって良いのだろうか、という思いも。「慣れ」がいつか「飽き」に変わるのではないかと。怖さがある。
後者は……悪くないが。それだと毎回、先程のようになるわけで。
それも悪い訳ではないんだが、正直。体力の使い方がやばい。
どれくらいやばいって。もう、一週間は動けないのではと思ってしまうくらいだ。
「一つ、提案があります」
「なんだ?」
「基本は特別な日に、という事にします。何かの記念日でも、なんでも良いです」
口を挟みかけたが、大人しく最後まで聞こうと。俺は口を噤んだ。
「ですが。このままだと日常生活に支障をきたすレベルです。……蒼太君もそれは望んでないと思います」
「それは、そうだな。さすがにそのラインを超えるのは良くない」
「はい。ですので、前者も少し強めましょう」
凪が上を見上げ、俺の顔を覗き込んできた。下から覗き込まれるというのも新鮮な気分である。
「というと?」
「……お互い。欲求が膨れ上がりそうになった時には我慢せずにしましょう。今のところ、まずないとは思いますが。『飽き』が来てしまうのが非常に怖いです」
凪の言葉に頷く。それが一番怖い。
だからこそ、その『飽き』が来ないようにしなければならない。
「色々と試行錯誤を凝らしながら、一番良い頻度ややり方を探します。幸せが許容量を超えるほど愛し合うのではなく、許容量ギリギリで収まるようにしたいなと」
「なるほど。……つまり、よく考えながら柔軟に対応という事だな?」
「そうなりますね。慎重に回数を重ねて、幸せが溢れないよう……表面張力までを攻めます」
「ギリギリすぎないか、それ」
何にせよ、確かに今が一番危ない時期かもしれない。
恋は盲目、とも言うし。
熱しやすい恋は冷めやすいとも言う。
「私は、蒼太君の事が大好きです。この気持ちを一生忘れるつもりもありませんし、忘れたくもありません」
「俺もだ。凪の事が大好きだし、大好きであり続けたい。死ぬまで……例え、死んだとしても忘れたくない」
「……そんなかわいい事言われたら、キスしたくなっちゃいますよ」
凪の言葉に胸がうっと詰まる。
しかし良くない、先程のように戻ってしまうと首を振った。
「ふふ。それは置いておきまして。その為の予防線は張っておくべきだと思いました。幸せの過剰摂取により、一時の青春となってしまうのは――絶対に嫌ですから。一生の伴侶に、私がなるために。蒼太君がなるために。二人で探りましょう」
凪は感情的ではあるものの、こうした分析力も長けている。
「異議なし、だな。俺も凪と一時の関係で終わるなんて……考えたくない。婚約者にもなったんだ。そんな軽い気持ちではいられないし、そうなりたくもない」
「ふふ。その言葉を聞けて安心しました」
色々と体験を終えて。
凪の事が好きだという気持ちは変わらないし、強くなるばかりだ。
それでも。かなり視野は広がった気がする。
「蒼太君」
「待て、凪。それは俺から言わせてくれ」
「……分かりました」
凪が俺から離れて姿勢を正す。俺も背筋を伸ばし、凪を見た。
「改めて、もう一度言わせて欲しい。大好きだ。凪」
「私も、大好きです。蒼太君」
その蒼い瞳に見つめられ。俺は笑った。一瞬だけ。
その一瞬を終えて。凪の名前を呼ぶ。
「凪」
「はい」
凪の瞳をじっと見た。
その蒼い瞳は、いつ見ても引き込まれてしまいそうな美しさがある。
それでも俺は――引きずり込まれたりはしない。
一時の熱の
この気持ちは明日になっても、一週間後になっても、一ヶ月後になっても。……一年が経とうが、十年が経とうが。
決して、弱まる事はない。弱めたりはしない。その誓いでもある。
「高校を卒業したら。俺と結婚して欲しい」
凪はその言葉に、一度目を瞑り。
微笑んだ。
「はい。不束者ですが、よろしくお願いします」
そして、顔を近づけ……短いキスをした。
先程までとは違う。感情のまま、全てをさらけ出したものではない。
感情を含め、将来の事を考え。
俺が問いかけたものに。改めて凪が導き出してくれた答えだ。
この答えは決して揺るぎはしない。揺るがせたりしない。
分かっている。まだ、俺達は出会って三ヶ月。
たった、三ヶ月なのだ。
三ヶ月という、短い関係でしかない。……その中で恋人の期間は更に短いのだ。
これから先、衝突もあるだろう。喧嘩をする事だってあるだろう。
しかし――凪を愛するこの気持ちは。この幸せな気持ちを忘れる事など、決してない。
たった、三ヶ月。それがなんだ。
これから先。もっと日々を積み重ねれば良いだけの事だ。
一ヶ月後も、一年後も、十年後も。
一緒に居るのだと、これから証明してみせる。
「愛してる、凪」「愛してます、蒼太君」
零れた言葉は、お互いに告げるために発されたものではない。
ただ、『好き』が溢れて、言葉として現れてしまっただけだ。
「ありがとう、凪。俺の事を考えてくれて」
「ありがとうございます、蒼太君。私の事を考えていただき」
その長い言葉ですらも、同時に発せられて。
俺達は笑う。
「どういたしまして、凪」「どういたしまして、蒼太君」
そう言い合って。唇を重ねた。
心の中に、じんわりと。
優しい幸せが広がっていくのを感じる。
初めてだから色々と、幸せが爆発してしまったが。
凪と支え合えば。今はもちろん、遠い未来でも――
――たくさんの子供に囲まれて。幸せに暮らせるだろうと。
心の底から、確信していた。
第1部 他校の氷姫を助けたら、お友達から始める事になりました 4章 蒼太君の里帰り<〜完〜>
――――――――――――――――――――――
お知らせ
四章のあとがきの前のお知らせです。近況ノートではご報告させていただきましたし、タイトルを変えたのでもう分かっている方が多いかもしれませんが。
第8回カクヨムWeb小説コンテストの結果のご報告となります。
作者の感情や謝辞など色々書いております。最後に要点をまとめましたので、苦手な方はそこだけでも読んでいただけると嬉しいです。
それでは。改めてご報告となります。
この度。「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」が第8回カクヨムWeb小説コンテストのラブコメ部門にて「特別賞」と「ComicWalker賞」を頂く事になりました。
ダブル受賞となります。
応援していただいた読者の皆様方。
本当に、本当にありがとうございます。
感無量、という言葉でしか表す事が出来ません。
この作品は本当に多くの読者様方に支えられて、ここまで来る事が出来ました。
一月の時点では2章と少しの更新でしたが、このお話で4章が終わります。このお話で三十万字になります。
ここまで更新を続ける事が出来たのも全て。読者の皆様のお陰です。
今一度、感謝の言葉を述べさせていただきます。
ありがとうございます。
また、それに伴って少しお知らせを。
氷姫。5章及び2部1章に入る前にちょっとだけ番外編の更新をしたいと思います。受賞記念です。
ちなみに1部とか2部とか言っているのは色々と変更をしたからです。あとがきに述べていますので、今はお気になさらず。
内容としては、IFのお話となります。「もし海以蒼太が小学生の時に近所に東雲凪が引っ越してきたら」を題材として少し書こうかなと。
本編でも少し触れていましたね。あれを実際に書いていきたいと思います。本編と同じくらい二人が幸せになるお話です。
話数は決めておりませんが、どれだけ長くても十話以内には完結させたいと考えております。本編や他作品を楽しみに待っていただける方には申し訳ありません。
少しだけお付き合いいただけると嬉しく思います。
ちなみにIFは明日から上げる予定です。今のところ。
そして、もう一つのお知らせ……と言いながら先程のお話に繋がるのですが。
このIFが終わるまでは毎日投稿します。頑張ります。
特別賞はあくまで書籍化を目指す賞であり、これから更新頻度がどうなるのかは未だ定かではありません。ですが、IFまでは毎日更新出来たらなと思っております。
最後に。
しつこいようですが、もう一度だけ。
本当にありがとうございます。読者の皆様方にはいくら感謝しても足りません。
その応援に応えられるよう。書籍化が出来るよう頑張ります。
要点
・氷姫、カクヨムコンにて「特別賞」と「ComicWalker賞」をいただきました
・明日から番外編更新します。もし蒼太君が小さい時に凪ちゃんと出会っていたら、というIFのお話になります。多分十話以内には終わります。
・IF終わるまで毎日更新します。
・カクヨムコンの応援、本当にありがとうございました。
以上。
それでは。四章のあとがきに入ります。
――――――――――――――――――――――
作者の皐月陽龍です。こちらは4章のあとがきになります。
例に漏れず、苦手な方は最後に要点をまとめております。そこだけでも読んでいただけると嬉しいです。
4章は色々と書きたい事が多く、一話あたりの文量が毎話多くなってしまいました。最終話に至っては、本編だけでも七千字超え。全体で一万字を超える事になりました。
また、4章は私が書きたいお話詰め合わせでして……二人のお話としても必要だった事もあり、二人のイチャイチャがかなり多くなってしまいました。似たような展開が続いてしまい、申し訳ありません。
さて、今回の章及びお話。お気づきの方もいらっしゃると思います。
最終回――だと。
私も――そう思ってました。
実際、これで最終回で良いんじゃないかと思います。あくまで表の……一部の、という事にはなりますが。
ここで一つ変更点を。今まで「氷姫」は第1章第2章としていましたが。これからは少し変わります。実はもう変えてます。
まず、第1章から第4章までも纏めて第1部とし。第1部の1章、という形にしました。
色々と考えましたが。やはり、第1部という大きな区切りをした方が良いかなと。
深くは語りませんが、四章を通して二人は大きく成長しました。
それはもう、凄まじい成長を遂げました。それこそ、これで綺麗にまとまり。終わりと言っても構いません。もうハッピーエンド以外見えませんし。
綺麗なまとまり。本編という形であれば、このお話を最終話だと思っていただいて構いません。
なんなら、ここで終わらせれば。綺麗に終わると私だって思います。
ですが。
私は書きたいです。初体験を終えた後のまた一風変わった二人のイチャイチャを。
やっと凪ちゃんの可愛さ段階が一段階上がったんです。書きたいです。(実質)新妻の凪ちゃん。
めちゃくちゃ書きたいです。なので。書きます。
私が書きたいので書きます。
という事で誠勝手ながら、お話は続きます。もちろんここから先は物語の延長戦であり、大きな区切りは最後まで……恐らくつく事はありません。
一応いくつか物語は考えていますが。一番綺麗なまとまり、といえば4章になります。
一応完全な終わり方も決めてます。本音を言えば、そちらの方が綺麗にまとまってると思いはしますが。
しかし、完結が何ヶ月後……あるいは何年後なのかもまた分からないので。
あとがきの前に書きましたが、凄い賞を二つもいただいてしまいましたし。まだ続けたい気持ちが強くあります。
という事なので、ここから先は基本蒼太君&凪ちゃんイチャイチャタイムに入ります。一応、イチャイチャとは言っても物語として作るつもりです。
体育祭や文化祭など、学校行事は全然出来なかったので。蒼太君の応援に行く凪ちゃんとか……書きたいものです。
ちなみに五章は「同棲編」となります。四章内から時間が飛んだりはしません。一月中のお話です。
二人がどうして同棲する事になるのかは……八時頃に投稿される「幕間」を見ていただけたらなと思います。
さて、長くなってしまいましたが。改めてお礼を言わせていただきます。
「他校の氷姫を痴漢から助けたら、お友達から始める事になりました」をここまで読んでいただき、ありがとうございました。
読者様方のお陰で、ここまでたくさんの人に読まれ、評価され。カクヨムというサイトに爪痕を残す事が出来ました。
書籍化が出来るように。また、コミカライズが出来るように。頑張ります。
もし、これからもお暇な時間があれば、二人の生活を見て頂けると嬉しく思います。甘さが足りない時にでも。コーヒーのお供にしていただけたらなと思います。
それでは。「五章」もしくは「IF」にて会えたら嬉しく思います。
要点
・1章〜4章までを「第1部」としてくくります。
・第4章こと1部が終わります。
・綺麗なまとまりで終わるのは4章。もとい「1部」までです。
・これからは「2部」となって続く予定ですが、二人がこれから今までのように大きな成長をする事はありません。少しずつ成長はしていきますが。1部2章のような大きなトラブルを期待して読まれると、少しがっかりしてしまうかもしれません。
・凪ちゃんの可愛さが一段階上がります。
・カクヨムコン8、ラブコメ部門特別賞・CW賞本当にありがとうございます。
・2部1章『同棲編』かIF『もし蒼太が小学生の時に凪が転校してきたら』で会えたら嬉しく思います。
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