元エロ漫画家現TS幼女、母を助けるためにエロ漫画を描く

メガ氷水

第1話

「さぁて。千代ちゃんは何を書いて――」


 笑顔で声をかけてくれた水里先生が言葉を失った。

 今日の作品、【結婚】についての絵を書いていたからだ。

 わたしは真っ白な紙に鉛筆を走らせ描き上げていく。

 そう、神聖なる儀式を!


「ねー千代ちゃん。これ何かな?」

「何と言われれば、何です」


 里美ちゃんが「千代ちゃん何書いてるの?」と純粋なまなざしで覗き、水里先生がわたしの絵を取り上げた。


「千代ちゃん。少し先生とお話、しましょうか?」


 わたしはその言葉にぐっとサムズアップで返した。


 さて、真っ昼間から保育園で神聖なる儀式を書いているわたしなのだが、その正体は元エロ漫画家のおっさんだったりする。

 何が楽しくて書いているのか分からないエロ絵。

 日々男の性の捌け口となるものを書いていると考えると吐き気すら覚える。

 休養が欲しいといっても次々と舞い込んでくる仕事。

 最近では一巻、二巻で終わってしまうコミカライズを書くことも少なくない。

 ああ、もういいから楽にしてくれ。

 

 わたしの意識はそこで途絶えて、目が覚めたら幼女になっていた。

 幼女になっていた。

 そう、幼女になっていたのだ!


「えっと、お父さんお母さんさ……ああその、これがどういう行為なのか分かっているかな?」

「コウノトリの準備運動です」


 また水里先生の表情が固まってしまった。

 わたしだってもう二度と書きたくはない。

 書きたくはなかったんだ。

 けどそうせざる負えない状況に、神聖なる儀式に再び手を付けているのには理由があるんだ。

 これはそう、わたしがわたしとして目を覚ました時のこと。


 *  *  *


 わたし、北野千代が生まれた家庭は火の車だった。

 わたしを生んだ時、育てることはできないと父親は家の財産をすべて奪って逃げた。

 お母さんは二人のおばあちゃん、おじいちゃんからお金を借りて何とかやり過ごしている。

 お母さんはひとりで育児と仕事の両立。

 けれど女手一つでできることなんてたかが知れていて。

 ご飯も満足に食べられない状況だった。

 わたし笑顔を向けて「大丈夫、大丈夫だからね」っていつもひとりで泣いていた。


 だから探した。

 探していたところにあったんだ。

 そう、エロ漫画が!


 幸い十代でも作家にはなれる。

 また筆を執るのは嫌だったけど。

 それでもお母さんの苦しみを少しでも和らげてあげたかったから。


 久々に描いたわたしの腕は非常に鈍っていた。

 関節、影、女の子の表情。

 すべてが人形だった。


 だから今、この場で、純粋な子どもたちが【結婚】について考えている中で、背徳感に苛まれながら練習していたんだ!


 それで今に戻る。


 水里先生が無言でわたしの描いた紙を二つ折りにした。

 そしてわたしの頭を撫でながらこう言ったのだ。


「これは先生が預かっておくね?」


 なんとも、有無を言わさない迫力であった。

 わたしは「お母さんには何も言わないで」とだけ告げてとぼとぼと戻る。


 正直、今でもばかげていると思う。

 エロ漫画でお母さんを笑顔にできるわけがないと、心の内ではそう思っている。

 けれどもし、お母さんを笑顔にしてあげられるなら。

 もし、ひとりで泣くようなことが無くなったら。

 わたしは再び、エロ漫画を描いてきてよかったと思えるかもしれない。

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元エロ漫画家現TS幼女、母を助けるためにエロ漫画を描く メガ氷水 @megatextukaninn

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